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【本編完結】ワケあり皇帝のワケあり後宮  作者: 桜江


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クリスタ(3

 事態は進展しないままクリスタが14歳の時、突然従妹(いとこ)が降ってわいたように現れた。

 御存知サリーである。初対面の印象は非常に悪く、彼は躾のなっていない動物を前にしている気持ちになる。

 だが不思議なことにこの従妹は先の事や人の秘密を言い当てる力がある。全ては当たらないし、特定の人間だけということだったが、王家は彼女を持て余してしまった。

 

 教会に渡して聖女や予言者にすれば王家の求心力は高まり、他国への牽制になるやもと考えたがそれには情報が偏りすぎているため断念せざるを得ない。

 では政略婚に使おうとなると、とにかく立ち居振舞いなどのマナーが悪すぎた。その辺の庶民の方がまだ弁えられるレベルで酷く、教育してもサリー本人が覚える気がない。

 

 更にこれは彼女の父(あくまでも仮定)である王兄の血なのか、かなりの男好きだった。

 

 だがクリスタはサリーの存在によってある意味救われた。

 目に余るほどの駄目っぷりが彼にとっては心地よい。彼の矜持や自尊心を傷つけられることがないからだ。ソフィアだとこうはいかない。常に彼女はクリスタの上を行く。クリスタを立ててくるのが余計上からに感じて腹立たしい。

 

 周囲からクリスタはサリーに夢中になっている男の一人に見えるだろう。彼はわざとそのように振る舞ったし、サリーが望むまま一線も越えた。

 だがそれは愛からではない。処女ではなかったサリーもそうだ。

 

 クリスタはとにかく婚約を破棄したかっただけだ。こちらの有責でいいからとにかく婚約をやめたい。

 

 ソフィアに伝えればすぐにでも解消されただろうに、いつの間にか王家が無理に結んだ婚約は公爵家が望んだ婚約だと、歪んでクリスタに伝えられていた。

 そのせいで2人が素直に話し、お互いの気持ちを伝えれば済んだことが大掛かりな茶番劇の舞台を整える土台となってしまう。

 

 そこまでして、王家を犠牲にしてもクリスタはあの日見た少女にもう一度会いたかった。

 

 サリーは本当にクリスタに都合が良かった。身体が持て余した熱を発散させてくれる。もしや自分の妃の座を狙っているのかと聞いたことがあるが、彼女は笑って否定する。

 サリーはサリーで思惑があると言う。そしてクリスタの気持ちが自分にないことをなぜか(・・・)不思議そうにしていた。

 

 王国での処女性は大事な婚姻の要素の1つだ。それをとっくに捨てていて、見目が良ければ誰でもベッドに誘うような女に落ちる筈がないだろうと罵倒したい気持ちをグッとこらえた。

 

 そんな娼婦のようなサリーの本性を知らないマッドは、クリスタとは違って純粋に彼女に恋していた。

 サリーはマッドには好きとも言わなければ、本当かどうか分からないが手も出さないのだと言う。

「マッドはねカッとしやすいから。もし他に男がいるってバレたら被害おっきくて遊べなくなるもん。それにそもそも私の本命マッドじゃないし」

 

 幼馴染みの性格を良く知っていることに感心し、彼を玩んでいるこの女に怒りが湧き、同じく自分も幼馴染みを裏切っていると思うと自身に嫌気が差した。

 

 もう一人の幼馴染みのリュイからは忠告が何度もある。

 公爵令嬢であるソフィアを蔑ろにしても良いことはない、サリーはおかしいなどなど。

 クリスタは幼馴染みの2人には分かってもらいたかった。そこで、自分の本心を話して味方になってもらうことにする。マッドからは応援されたが、リュイはそんなに上手く行くのか、ソフィアと話をした方が良いと言う。

 

 だがこの婚約を正規の方法ではなくすことはできない。

 話してどうにかなるなら、あの顔合わせの日になくなった筈だ。

 だからクリスタはサリーを手段に使うことにした。目的を達成するその為にずっと周囲の白い目に耐えてきた。

 その苛立ちはサリーの身体にぶつけ欲望を撒き散らした。

 王と王妃はクリスタの行動は見てみぬ振りをしていたし、兄たちには苦言を呈されたが彼らもサリーと繋がっていることは知っている。

  

 乱れた日々が続き、クリスタたちは16歳になった。

 サリーがある日、寝物語で他人の秘密をするっと漏らした。クリスタがマッド達に余計なこと(・・・・・)を言わないことで彼女の信頼を得たのか、他人の秘密を抱えていることに耐えられないのか話したいのか。

 サリーはぽつぽつと話し、クリスタはそれを黙って聞いていた。

 

 ロイスはその珍しい髪色と瞳がコンプレックスで、良くも悪くも人を惹き付けることが辛い。兄とは見た目のせいで不仲である。

 

 マッドは父親のようになりたいと日々精進しているが、その壁は厚く高く越えられない。騎士団内での期待の重圧で潰されそう。

 

 ヘリング医師は庶民出の医師ということでやっかみを受けている。貴族を嫌う気持ちが強いのに貴族の命を救う仕事の矛盾に苦しんでいる。

 

 リュイは母親が病気で亡くなってから女性不信になっている。女が嫌いではなく苦手で、治したいが内気で素直になれない。

 

 そしてクリスタ――自分は。

 兄弟妹(きょうだい)たちと自分に差があり、何をやってもかなわないソフィアの存在が重荷となり、何も本気で取り組めない、何をしても将来は変わらないと諦観している。だが一人の少女との出会いで変わる。

 

「その少女が私なんだよ。だけどクリスタは私のことそんな好きじゃないって言うし」

 サリーは見た目だけ(・・)なら愛くるしい、砂糖でできた細工菓子のような甘く可愛らしく繊細な少女だから、クリスタも落ちた可能性はあった。

 けれども彼は『一人の少女』とサリーより先に出会ってしまっている。しかもサリーのような見せかけだけのものとは違う。あの遠い記憶の中の一瞬の佇まいだけでも比べてすぐわかる。

 

 しかし相変わらず微妙な秘密の内容だ、とクリスタは思う。クリスタ含め彼らの秘密を話したことで更に気が緩んだのか、これから先の話までし始める。

 

 クリスタは聞き流しながら、秘密という分析のようなものを反芻していた。クリスタについてはそこそこ合っている気がする。リュイも恐らくサリーの言う通りだろう。ロイスやヘリング医師は付き合いがないから知らないが、マッドについては笑えるほど間違っていた。

 サリーは知っているだけで本人たちにその内容を伝えたことはないと言う。彼女曰く本来知り合う内に分かっていくのだが、最初から(・・・・)知っているため、その秘密があるという前提(・・)で行動しているらしい。

 

 そして今話しているのはもうすぐ開かれる王家主催のパーティーについてだった。

 これは成人を迎えたクリスタとソフィアの婚約を王国内外に御披露目するためのもので、丁度2人とも成人となる。

 そこでクリスタはソフィアに婚約破棄を突きつけるのだと言う。

 

「――は? そんな人目のあるところでなぜ?」

「そこが醍醐味と言うか、クライマックスと言うか始まりと言うか?」

「だがどうやって?」

「ほら私、ソフィアから嫌われてていじめられてるってフリしてるでしょ? そのいじめの証拠を突きつけて、クリスタが私と婚約し直すって言うの」

「ああ、あの下手な芝居か。ソフィアはあんなもの気にしてないだろ」

「いいの、気にしてなくても。私を信じて庇う男は最低でも2人いるでしょ? それでいいのっ」

「分からないな……」

「まあ多分悪いことにはならないわよ。R指定もないしそんなキツいゲームじゃなかったもん」

「あーるしてい?」

「気にしないで」

 

 クリスタは頭の悪いサリーの話に乗るのは癪だったが、彼女はある程度当たる未来視を持つ上、確かに機会としてはこれほど良いものはないと話を詰めていく。

 ある程度まとまったところでリュイに大まかな説明をし、ヘリング医師にロイスとマッドを巻き込んで、あの運命の日を迎えるのだった。

 

 

       * * * * *

 

 

 クリスタは鮮血が舞い飛び、斬られた者の叫びが充満し誰もが恐怖で震える中、真紅に染まった絨毯を見つめて思う。

 

 ――悪いことにはならない筈ではなかったか。

 

 そして頭を虚ろに持ち上げ、悠々と座る皇帝の顔をしっかりと見た時、彼は噎せ返る血の臭いの中、静かに歓喜した。

 

 ――ああ……あの子だ!

 

 クリスタもまた長く拗らせた一目惚れを持続していたが、ようやく想い人にめぐり逢えた。

 この日常からかけはなれた非日常の場で。

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