表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
273/749

273.再見

「気がついた?」

 背後の気配に気づいたシジマが、振り返らず、作業を続けながら話しかける。


「ええ、状況はどうなの」

 カマラが椅子の背につかまって、身体を支えながらたずねた。


「太陽フレアのせいで、ほとんど連絡がつかないんだけど、さっきアルメデさまから状況報告があったよ」


 ガラス越しに精密義肢マジックハンドを操りながらシジマが説明する。

「そう……ユスラとミストラが――100億!敵は数でしてきたのね」

「個人としては最強のアキオが、もっとも苦手とする(タイプ)の敵だね。だから、ボクは……」

 そういって初めてシジマはカマラを振り返った。


()()をアキオに送り届けるよ。ボクにできるあらゆる兵器を装備して――こんなこと、ミーナもアキオも許さないだろうけど……どのみち、しかられる時間は残されてないからね」


 カマラの眼が、緑の髪につけられた髪抑え(アリスバンド)に輝く紅いライトをとらえる。

「シジマ、あなた――」

「ああ、もうすぐ、もうすぐボクの意識は消える。その前に作業を終えて、メッセージを残すつもりだよ」

「わたしに手伝えることは」

「無い……よ。それより、カマラには、()()()()があるでしょう」

 突然、シジマが身体のバランスを崩す。


「大丈夫だよ」

 手を貸そうとするカマラを、振り返らずに押しとどめて、シジマが言う。


「行って――そして、アキオのためにできることを、やって」


 銀色の髪の少女は、必死の作業を続けるシジマを見つめた。


「わかった。わたしはわたしにできることを――カイテンを使ってアキオに()()()()()()()()


 シジマの手が一瞬止まり、

「ああ、そうか、カマラは()()()()んだね――頑張って……だとしたら、ボクたちはこれでお別れだね」

「ええ、でも、絶対にアキオは助ける」

 そういって、少女に背を向け、走り去ろうとするカマラに向かってシジマが呼びかけた。

「カマラ……」

「なに」


ジーナ城(ここ)での生活、楽しかったよね」

「――ええ」


「ボク――いいえ、わたし、この生活が、ずっと続けばいいと思ってた。キィ、ユイノ、ミストラ、ヴァイユ、ピアノ、ユスラ、シミュラ、アルメデ、そしてカマラ……ミーナ」

 少女は、初めて一人称を()()()に変えて、ひとり一人の名を愛おしげに呼ぶ。

「みんな……大好きだった」


「そうね。わたしにとっても、このジーナ城こそが、洞窟で獣のように暮らしていた狼少女(カマラ)にアキオがくれた()()完全な世界(パーフェクトワールド)だった。ずっと独りで生きてきて、他人との関り方がわからないわたしだけど――わたしなりの冷めた表現でみんなを愛していた」

「そう……そうだね。そして、みんなアキオが大好きだった――ああ……アキオ、その名を呼ぶだけで気持ちが温かくなって、涙が出そうになる人に出会えたことを、わたしは感謝したい」

「そう、ね」

「だから……せめて、最後は彼の役に立ちたいんだ」

「わたしもよ」

「カマラ、生きて会うことは……もうかなわないから――」


 カマラが作業を続ける小柄なシジマに近づき、肩を後ろから抱きしめる。

「お別れね」

 熱い涙が少女の緑の髪のうなじに落ちる。

「お互い……」

 カマラがちょっと考え、

「元気に死んでいきましょう」


「ふふ……そうだね」

「じゃ、いくわ――またね!」

 もう会えないといったばかりの少女の、再会を期する挨拶にシジマも笑顔で答える。

「またね!」


 カマラの走り去る気配を感じながら、シジマは作業を急ぐ。

 この数か月、自分の死を予期してから、寝る間を惜しんで作り上げてきた技術を完成させるのだ。


 誰とも敵対行動をとろうとしないアキオなのに、なぜか常に彼は敵を呼び寄せてしまう。

 彼が強すぎるからだ。

 森の中の巨木のように、アキオは、どんな権力にもなびこうとしないからだ。

 船の通り道にある水中の岩は、何もしなくとも警戒けいかいされ、敵視される。


 いずれアキオは大きな力と戦うことになるだろう。

 だからこそ、自分の命が尽きる前に、アキオに強力な武器、味方を渡したかった。

 それが、彼女の()()()であったから――



 水中から浮かび上がるような感覚で、彼女は意識を取り戻した。

 自分が自己セルフ・診断ダイアグノーシスを行ったことを思い出す。

 だが、いつもとはかなり様子が違った。

 身体が重くて動かない――と考えて、ミーナクシーは驚愕する。

 身体とは何だ。

 AIである自分に身体などあるはずが……


「目が覚めた?ミーナ」

 苦労して上半身を起こした彼女の眼に、ディスプレイに映ったシジマの姿が飛び込んできた。

「これは、目を覚ましたあなたへ謝罪と質問に答えるために作ったボクの簡易AIだよ」

(AI)

「本物は、たぶんそのへんで倒れているだろうからね」

 見ると、ガラスの向こうで、コンソールに突っ伏すシジマの姿が見える。

 繭に包まれていた。


「最初に謝るね。あなたに黙ってこんなことをして。いま、アキオの命に危険が迫ってるんだ。でも、ボクたちは、キラル昏睡コーマで戦力にならない。あなたの力が必要なんだ」


 そういって、シジマはドッホエーベの様子を語る。


「今から、あなたが行ってアキオを助けて。お願い」


「わたしが……」

 ミーナがつぶやき、自分が声を出していることに驚く。


「この数か月、ダミー・ドールで行った運動のシミュレーション・パックをミーナのAIに入れたから、すぐに、思い通りに身体が動くはずだよ、発声も含めて」


 そう言って、シジマは表情を引き締める。


「今のあなたは武器の塊だ。()()()()()()()(ひと)りで戦艦すら相手にできるはずだよ」


 先ほどと違って、嘘のように身体が軽くなったミーナは、手術台から起き上がると、自分の手足を見た。

 すっきりとしているが、しっかりとした乳白色の鎧で全身が覆われている。

「部屋の隅にある鏡で全身を見てみて」

 シジマの言葉にしたがって立ち上がり、鏡の前に歩く。


 全身を移す鏡には、全身を鎧で包み、口から上を乳白色の仮面につつまれた鳶色(とびいろ)の眼の少女が映っていた。


「これは――なに!」

「ごめんね、ミーナ。驚いたよね。いま、あなたは()()()()()にいるんだ。知ってのとおり、彼女の肉体は、いくら再生しても脳が次元孔ディメンジョン・ホールに転移してしまうから、その空間スペースに、ミーナの生体脳バイオ・ブレインを入れることができたんだよ」

「なんてことを……」

 ミーナは、がっくりと膝をつく。


「ミーナ、ミーナ。怒るのはあとにして」


 それでもAIは動かなかった。

 シジマが行ったのは、アキオを裏切り、彼と彼女の思い出も(けが)す行為だ。


「ミーナ、ミーナ、時間がないんだ」

 繰り返されるシジマの呼び声も聞こえない――だが、

「このままだと、アキオが殺されるよ」

 その言葉で、彼女にスイッチが入った。

 すっくと立ちあがる。


「よかった、行ってくれるんだね。急いで。憎むなら、あとからいくらでもボクを憎んで――アキオを守って、みんなを助けて。さっきもいったように、今のあなたは武器の塊なんだ。なによりあなたの身体となっている彼女には、()()があるからね。誰もあなたをめっすることはできない。さあ、隣に装備があるから身に着けて、()()()()はカマラが使ったから、荒野には噴射杖ロケット・ケーンで行ってね。特別製の杖が発着場に置いてあるから使って」


 隣室へ入ると、大量の武器が並べてある。


 ミーナは、それらを前に、軽く身体を動かしてみた。

 凄まじい速さで、手足から突きと蹴りが放たれる。


 歩いてコンソールへ向かい、繭に包まれたシジマを抱いて手術台に歩くと、その上に寝かせた。

 少女の頬を繭越しに優しく撫でさする。


 部屋に戻り、武器を身に着けると、もう一度振り返ってシジマを見て――ミーナはセイテンの発着場へ階段を駆け上がって行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ