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269.要撃

「どうしたのかね。自慢じまんの兵器がやられているように見えるが……」

 ディスプレイに映し出される戦況を見てメルヴィルが薄笑いを浮かべる。


 科学者がまんした、という感じで送り出した兵器の、かなりの数が、出撃するなり魔女たちによって破壊されてしまったのだ。


 その後も、槍の形に変えたり、四角い板状にして挟み撃ちにしようとするが、いずれも魔女たちの爆弾や銃で穴を開けて逃げられ、かえって自軍の被害を大きくしてしまっている。


「まさか、魔王たちが、あのような強力な捕獲膜ほかくまくと爆薬を持っているとは思わなかったのです。通常のC6爆弾程度では、ホイシュレッケは破壊されないのですから」

「手の内がわからないのはお互いさまだろう。魔王にしても、お前が、これほど大量の兵器を使うとは思っていなかっただろうからな。それより――少女ふたりに眼をとられて気づいていないかもしれないが、さっきから魔王の姿が見えないようだ。所在は把握(はあく)はしているのだろうね」

「それは――」

 痛いところをつかれた科学者を、部下の報告が救う。


「博士、バルバロス下部、第7ハッチに侵入者の形跡があります。重量センサによって、およそ4人が保守通路を進んでいる模様もよう

「カメラは?映像はあるか」

「保守点検用通路なので、重量センサしか設置されていません」

「ハッチから、現時点までの順路を表示しろ」

「はっ」

 指令室の巨大なディスプレイが分割され、左半分にバルバロス内の通路図が表示され、ハッチから、現在地までが赤線で記される。

「この進み方から考えて――」

「はい、奴らは、まっすぐに機関室に向かっています」

「バルバロスを破壊するつもりでしょうか」

 コラドは独り言をつぶやき、

「しかし、自慢ではありませんが、この巨大要塞の動力は、不安定な反物質エンジンです。魔王は科学者、ということは、下手(へた)に破壊工作をすることが、どれほど危険か分かっているでしょう。迂闊うかつなことはしますまい」

 痩せこけた科学者は、メルヴィルには理解できない言葉をつぶやくと、ルミレシアを見た。

「女王様。サンクトレイカの兵をお貸し願えますか」

「良いでしょう」

 コラドは笑顔になってうなずいた。

「デッキ下部に乗り込んでいるサンクトレイカ兵40名ばかりを、侵入者排除に向かわせなさい」

「わかりました。第8階層にいるサンクトレイカ兵4分隊スコードを16通路3―6ポイントに向かわせろ。やって来る4名の敵を迎え撃て」


 科学者は、画面の右半分に映るホイシュレッケの戦闘状況を見て、思いついたように笑顔になる。

「おそらく、勇猛なサンクトレイカ兵によって敵は排除されるでしょうが、()()()()()、ホイシュレッケ2ユニットも通路に待機させておきなさい」

「しかし、博士、ホイシュレッケは狭い通路内では――」

「実験的に通路で使ったことはありますね。わたしは、狭い場所での戦闘性能を見てみたい――命令です。やりなさい。カメラ・ドローンも送って戦闘内容を見られるようにしてくださいね」

「わかりました」

「狭い通路で、ホイシュレッケとどのように戦うか、見ものです」


 しかし、あっさりとサンクトレイカ兵を退しりぞけた魔王たちは、続くホイシュレッケまで、苦もなく倒してしまった。


「数が少ないと本来の力が出ませんね」

 最後のイナゴが破壊された後で、カメラ・ドローンまで落とされてしまった科学者がつまらなさそうに言う。

「というより、魔王たちの戦闘力が圧倒的に上回っているように見えたが……」

「サンクトレイカ兵を救助しなさい」

 ルミレシアの硬い言葉で、コラドは部下に顎をしゃくった。


 待つほどのこともなく、報告が届く。

「魔王の攻撃によって倒された兵は、全員、軽傷です」

「それで魔王は?」

「機関室に入りました」

「あそこにはカメラがありますね。映像を出しなさい」

「はっ」

 通路内での戦闘後、暗転していたディスプレイの半分に、広い機関室の映像が映った。

 いつものように、テスラ・タワーに空いた窓から、白い光と共に電子ビームを吸い出す光景が見える。

「あれは――何をしているのです」

 誰にともなくコラドが尋ねた。

 金色の髪の魔女が、タワー横で何か作業しているのが見えたからだ。

「機関室のコンソールを操作しているようです。魔王はそれを見守っています」

「たしか、機関室からメイン・コンピュータに介入できましたね」

「はい、バルバロスは、その二か所からだけコンピュータにアクセスができます」

「魔女が、アクセスコードを知っているとは思えませんが――念のためです。少し可哀そうな気がしますが、溶かしてしまいましょう」

 そう言って、科学者は再び部下に合図を送った。

「機関室洗浄手順(プロシージャー)開始、アガナイル液注入」

 少し粘性のある透明な液が、激しい勢いで流し込まれる。


 およそ100年ほど前の地球において、フォロサル・アガナイル博士によって、偶然に発見されたと言われているこの液体は、少しでも人体に触れれば、人間など()()()()()()消し去る溶解液だ。


 魔女たちが壁沿いの通路に避難する中、コンソールで作業する魔女は、ギリギリまで操作を行い、アガナイル液に、完全に飲み込まれる直前に魔王によって助け出された。

「博士」

「どうした」

「ホイシュレッケの動きが止まりました。おそらく、個体同士の()()()()()()()プログラムを注入されたものと思われます」

「あの短い時間で――しかも、()()()()()()()させたのですか。すべてのホイシュレッケを、言葉の分からない者(バルバロイ)にしたのですね」

 唖然あぜんとする痩身の科学者に、

「まったく――魔王をとりまく魔女は化物ばけものぞろいだな」

 メルヴィルが軽口を叩くが、完全に無視される。


「敵は二手(ふたて)にわかれました、一方は、無限軌道(クロウラー)上にある脱出ハッチを目指しているようです。もうひとつは、かなりの速さで移動中。目的地は――指令室、ここです」

「進路上のすべてのトラップを起動、付近にいるサンクトレイカ兵を総動員して時間を稼ぎなさい」

「無駄に兵を失うことは許しません」

「大丈夫ですよ。今までの様子をみても、魔女たちは兵を殺したくなさそうですから。死守しろとはいいません。ただ、時間を稼いで欲しいのです」

「その間に、我々は全員退去(たいきょ)というわけか――案外、あっけないものだな」

「いいえ、退去などしません。この部屋の防御は完璧です。魔女たちが束になっても、そう簡単に侵入できないはず。今から、わたしは、最後の切り札を使うつもりです」

「博士、まさか、()()をお使いになるのでは――」

 武器士官の顔色が(あお)ざめる。

「魔王と魔女たちが、これほどの化け物なら、使わないと失礼にあたるでしょう」

「しかし、()()は、あまりに危険だとニューメア科学評議会でも使用禁止命令が出ているはずです」

「いいから、起動させなさい」

「使用禁止命令――いったいどんな武器なのです」

 ルミレシアが不審(ふしん)げな顔になる。

「なに、ちっぽけな武器ですよ。取るに足りない」

「ホイシュレッケより小さいのですか」

「そうです」

「それで数が多い、だな」

 メルヴィルが指摘する。

「その通りです。形はヨナス()しています。大きさも。数は100億――いえ、この数か月、この地下工場で作り続けていますから、もっといるでしょう」

「また数か」

 メルヴィルがうんざりしたように肩をすくめる。

「そう、数です。しかも今度は()()()、ではなく、()()()()、なのです」

「知恵、とは?」

 さほど興味なさそうにルミレシアが尋ねる。

高位魔法カガクには、スウォーム・知能インテリジェンスという考えがあります。ヨナスなど、知恵を持たない生物が、たくさん集まることによって、あたかも(むれ)全体で知恵を持つように振舞うことですね」

スラヴヨナスは、群れとして知恵があるような行動をとると聞いたことがあります」

「さすがルミレシアさま、博識はくしきですな。それですよ」

「つまり、今度の武器は、数が多く、群れとして行動して頭が良い、か――悪くないな。ではなぜ使用が禁止されている。頭が良い?まさか……」

「科学者というのは臆病者が多くていけません、どのように思考しているのか、考え方を追跡(トレース)できない知能を、彼らは恐れているのです」

「暴走する危険があるということだろう?」

「用意できました」

 背後から声がかかる。

「起動」

「起動します」

 司令官が復唱(ふくしょう)した、ちょうどその時、指令室(コマンド・ルーム)の扉が吹き飛んで、ふたりの少女が姿を現した。


「ヨスル、ピアノ」

 メルヴィルが名を呼んだ。

「お久しぶりです、お兄さま」

 ふたりが声をそろえて応えた。


「博士、用意できました」

「全ギデオン放出」

 ギデオン、それが新しい武器であることを察してヨスルが叫んだ。

「あなたは何を――」

 少女の言葉が途中で止まる。


「あれは……」

 ピアノたちの眼は、巨大ディスプレイに映し出された、ドッホエーベを取り巻く大地にあふれ出た、無限に近い数の黒い集団にくぎ付けとなったのだった。

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