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267.挟撃

 凄まじい音を立てながら、黒い槍となったイナゴの群れが身体のすぐそばを飛び去って行く。


 ユイノは、噴射杖ロケット・ケーンを巧みに操って、それを紙一重でかわした。

「危ないねぇ。当たったらどうするんだい」

 舞姫ダンサーがぼやくと、インナーフォンからミストラの声が応える。

「それはそうです。当てるように飛んできているんですから――もっとも」

「そう、当たらないけどね」

 軽口をたたきながら、身をひるがえして、ふたりはかわしたイナゴの群れを逆に追いかけると、コクーンで包み込んで碧玉グリーン・ボールを投げ込んだ。


 初めの攻撃ほどではないが、鮮やかなオレンジ色と共に、ホイシュレッケが爆散(ばくさん)する。


 最初の囲い込みは、相手の油断もあって、広大な範囲に行えたため、ユイノのチョーカーに()()()()()PSPを使った。


 しかし、それ以降は、相手の動きも活発化して、小規模な範囲しか囲い込めないため、シジマに渡された、()()()()()()()()()で爆薬代わりに使える碧玉グリーン・ボールを用いているのだ。


「なかなか減らないねぇ、おっと」

 正確に身体の中心を(ねら)って飛んでくる長槍ちょうそうを交わしてユイノが笑う。

「それでよいのです。アルメデさまがおっしゃられたように、わたしたちが空中で動いて全体を引き付けることで、塹壕(トレンチ)へ向かうイナゴが少なくなるのですから」


「大丈夫ですか」

 アルメデの声が割り込んだ。

「はい、今のところ単調な槍の攻撃ばかりなので(しの)げています」

 ミストラが答える。

「敵は、おそらく複数の攻撃パターンを用意していると思います。今の攻撃が効かないとわかれば次のパターンに入るかも知れません。気をつけて」

「わかりました。塹壕トレンチの方はどうです」

「強化コクーンと雷球アラメイ、火炎放射の連続攻撃で戦っています。もうすぐアキオたちがコントロールを妨害してくれるでしょう。あと少し頑張ってください」

「了解――」

 ミストラは、最後まで会話を続けられなかった。


 アルメデの予想どおり、ホイシュレッケが上下左右に並んで、あたかも巨大な壁のようにふたりに襲い掛かってきたからだ。


「ミストラ!」

「ええ」

 今まで、腰掛けるように横座りに杖に乗っていたふたりが、同時に足をあげて杖にまたがった。


 ミストラの白い脚とユイノの健康的な濃い小麦色のふくらはぎが青空のもとでひらめく。


 ふたりは、しっかりと脚で杖を挟んで体を安定させると、肩にかけていたライフルを構えた。

 銃を撃ち始める。


 一撃で、かなりのイナゴが破壊されて壁に穴が穿うがたれるが、貫通するところまではいかない。

 ふたりは、フルオートにセレクタを切り替えて連射した。


 穴は徐々(じょじょ)に深くなるが、プラズマ光を放ちながら、巨大な壁はどんどん近づいてくる。

 きわどいタイミングで貫通し、向こうの空が見えた。


 二人は、穴の縁を連射で広げながら、素晴らしい速さで通り抜けて壁の反対側にでる。


 壁の接近にともない、広げておいたコクーンを閉じて、碧玉グリーン・ボールを投げ込んだ。

 数十万のイナゴが消滅する。



 少女たちの飛行パターンが解析されたのか、以降、凄まじい連携攻撃がふたりを襲い始めた。


 黒槍が、前後左右を飛び交い、ふたりの行方をはばもうと巨大な壁が立ちふさがる。


 悪夢のような連続攻撃だった。

 しかし、少女たちは負けない。

 信じられないほどのアクロバティックな飛行を続けて、敵の罠を噛み切り、逆に攻撃を仕掛けていく。


「素晴らしいですね」

 塹壕の外に立てた単眼索敵装置(サイクロップス・アイ)によってとらえたふたりの動きを、壁に投射して見ていたアルメデに背後から声がかかる。

 サンドルだ。

 だが、その動きを見つめるアルメデの顔色は蒼白(そうはく)だった。

 あれほどの緊張を連続で強いられたら、キラル昏睡コーマを起こす確率は跳ね上がってしまう。

 いま、気を失えば、彼女たちの命はないだろう。

 ――早く、アキオ、ホイシュレッケを止めて。


 危機一髪ナロウ・エスケイプでイナゴをかわして、高速で飛び続けるミストラに、ユイノが話しかける。

「踊りは闘いに似ている――アキオのいうとおりだよ。気分がいいね」

「そうですね――ユイノさんにだけ教えますが、わたしは、最近、ひそかに楽器を練習しているのです」

「どんな」

「地球の楽器です。ヴァイオリンだとか、ギター、チェロ――変ないいかたかもしれませんが、()()()()()()()()()()も闘いに似ていますね」

「そうだね、きっとそうだろう。ああ、いいねぇ。今度、聞かせて――いや、あんたの演奏であたしが踊るよ」

「きっと楽しいでしょう」

「そのためには、ここを生き残らないとね。なに、すぐにアキオがイナゴを止めてくれるさ――さあ、次の奴がきたよ」

「はい」


 今度の攻撃は、今までの攻撃を混合させた連続攻撃だった。

 雨霰あめあられと槍が空間を乱れ飛び、進路を狭めるために、巨大なイナゴの壁が少女たちにせまる。


 しかし、強力なレイルライフルと、空間のPSを取り込むことで、実質、無制限に飛び続けることのできるシジマの噴射杖ロケット・ケーンを駆る彼女たちにとっては、それらは大した脅威ではない――はずだった。


 だが、悲劇は唐突(とうとつ)に起こるものだ。


 突然、帽子のリボンをなびかせて空をけていたミストラが、何の前触れもなく真っ逆さまに降下し始める。


 キラル昏睡コーマが始まったのだ。


「ミストラ!」

 ユイノが、最適な飛行経路を無視して、栗色の髪の少女を助けに、限界を超えた速度で地面に向かう。


 凄まじいスピードに、ユイノの帽子は風に弾け飛ぶ。


 燃えるような紅い髪をなびかせて、炎の軌跡トラジェクトリーを描くように舞姫ダンサーは、自由落下しているミストラに近づいた。


 ――もう少し、速く、遠く。

 ミストラの腕に手を伸ばし、つかんだ瞬間、ユイノの眼の前で少女が口から血を吐いた。


 巨大な黒い槍が数本、ミストラの細い腹部に突き刺さり、下半身を弾き飛ばしたのだ。

「ミストラ!」

 ユイノは、上半身だけになった少女を抱きしめる。

「おまえたち!」

 ユイノは片手でミストラを抱き、片手でレイルライフルを構えると、放熱を無視してフルオートで連射し始めた。


「うわぁぁぁああ」

 数多くのホイシュレッケが爆散していく――だが、それ以上に無数のイナゴが、新しい黒槍を作って、太陽光が凸レンズで集中するように、凄まじいスピードでユイノに向かって突っ込んで来た。


 すでにレイルライフルは、高熱のため使用できなくなっている。


 ミストラを抱いたユイノが、噴射杖ロケット・ケーンを使って、それらを回避できるすべはない。

 紅髪の舞姫ダンサーは、迫りくる敵を美しく吊り上がった大きな眼で見つめた。


 ミーナの教える、戦うアキオがそうであるように、彼女も死の瞬間まで眼を開いていたかったのだ。


 ――結果的に、それが彼女の命を救った。


 突然、イナゴの動きが乱れ、一直線に彼女の向かってきた無数の巨大な槍の穂先がブレだしたのだ。

 眼を見開いて見続けていたユイノは、即座に異変に気づき、咄嗟とっさに腰を入れて噴射杖ロケット・ケーンの向きを変え、空間をえぐるように大きなRを描いてイナゴを回避した。


 避けきれない一部の穂先ほさきを腕に受け、彼女の左腕が吹き飛ぶ。


 ユイノは、噴射杖ロケット・ケーンから弾かれ、きりもみしながら自由落下を始めた。


 だが、残った右手でミストラを抱きしめ、決して少女を離そうとはしない。


 イナゴたちは追撃をしてこなかった。

 その事実に、ユイノは確信した。

 ああ、アキオたちがやってくれたんだ。

 これで、塹壕トレンチのふたりと多くの兵士たちは助かる――


 激しい勢いで地面が近づく。

 このままでは二人とも助かりそうになかった。


 最後の力を振り絞って、ユイノは、激突の瞬間に、腕に抱いた少女を上空に放りあげようとする。

 うまくすれば、ミストラだけでも助かるかもしれない。


 近づく地面を見ながら、タイミングを計っていると、いきなり身体を柔らかいもので包まれる。

 次の瞬間には、ミストラとふたりで、しっかりと何かに巻き取られ、空中を飛行していた。


「いい時に帰って来れた。おぬしたち、よくやった。もう大丈夫だ」


 声の主、黒紫色ブラック・パープルの髪の魔女が、伸ばした腕でふたりの少女を抱きしめながら優しく微笑んだ。

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