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264.索敵

 風を切って走るアキオたちの背後で、巨大な橙色だいだいいろの爆炎が上がり、彼らの濃い影を地面に写す。


 ユイノとミストラが予定通り、ホイシュレッケを、ナノ・コクーンとポアミルズ(P)胞子(S)消滅器(P)で破壊したのだろう。


 イナゴの注意が、その攻撃に向かい、彼らは安全に戦車の足下あしもとに到着することができた。


「近づいて見ると、やはり大きいですね」

 ヴァイユが戦車を見上げて言う。

「この帯のようなもので移動するのですね」

 人の背より数倍大きい車輪と金属帯を見てヨスルもつぶやく。

無限軌道クローラーだ」

 アキオが説明し、戦車の底部に装備された、全部で6基の独立無限軌道(クローラー)を懐かしそうに見る。


 地球における武器移動の主流メインストリームは、ここ百年間、障害物をまったく問題としない蜘蛛くもの脚のような多脚式たきゃくしきとなっていたが、さすがに、それではこの巨体の重量は支えられないのだろう。

 だから、この巨大戦車は、多脚たきゃく装輪そうりん(タイヤ)車両以前の、装軌そうき(クローラー)車両に戻されているのだ。


 そもそも、見上げるばかりに巨大な兵器など過去の遺物いぶつだ。

 現に、この戦車は、その重量ゆえ移動すら満足にできそうにない。

 片側3つに分かれた無限軌道クローラーでさえ、半分以上が荒野に埋まっている。


 しかし――

 アキオは、空を黒くおおうホイシュレッケを見た。


 過去、大鑑巨砲たいかんきょほう主義による巨大戦艦が、空母に塔載とうさいされた、()()()()()()()()()()()()()()()()()による攻撃に、すべなく敗れ去った事実からわかるように、現代の強力な戦術タクティクスは、()()()()()無数の小型兵器による攻撃だ。


 戦術タクティクスと考えて、アキオの脳裏にピンクの髪の少女の笑顔が浮かぶ。

 倒れたユスラのためにも、一刻も早く、戦局を決めてしまわねばならない。


 この巨大戦車の主要武器メインウェポンは、上部デッキに搭載された馬鹿げた大きさの電磁投射砲レイル・キャノンではなく、車載された数億のホイシュレッケだろう。


 戦車の形態が見かけだけで、その本質が、移動式のホイシュレッケ運搬要塞だと考えれば、この巨体にも意味がある。


 その使用方法は正しい。

 そして、それゆえ強敵でもある。


 アキオは無限軌道クローラーを横目で見ながら戦車の下に入った。

 駆動部は、地球では一般的な車輪内インホールモーターを使用している。


 少し歩いて、アルメデに教えられた位置で底部を見あげた。

 車輪が埋まっていても、地面から戦車の底部までは、10メートル以上ある。

 彼の眼は底部ハッチを発見した。

 軽く膝を曲げ、高々とジャンプする。

 空中で回転して、左手で腕のシースから抜いたナノ・ナイフで戦車の底部を突き刺し、のボタンを操作して、ナイフ刃形状をT型に変え、抜けないようにして戦車からぶら下がった。

 

 右手でコートから小型手斧ハチェットを取り出して、ハッチを破壊しようとした時、

「待ってください」

 そう言いながら、彼に向かってジャンプする影があった。

 ヴァイユだ。


 アキオは柔らかく少女を受け止めた。


「壊さなくても10秒あればけられます」

 少女は、折れそうに細い腰をアキオに支えられたまま、手を伸ばして底部に触れ、小さな蓋をあけ、現れたディスプレイを金色の瞳で見つめながら、いくつか数値を入力した。


 軽い機械の動作音が響いて底面の一部がせり出し、ぽっかりと黒い内部への入り口が現れる。

「行きましょう」

 アキオはうなずいて、片手でヴァイユを中に押し入れ、ついでヨスルを抱いて飛び上がってきたピアノを軽く押して、姉妹ともハッチ内に送り込んだ。


 自分も、ナイフの形状を戻して戦車から引き抜くとハッチ内に入り込む。


 内部の小部屋の先は、急な短い階段になっていた。

 アキオが上がると、最上部のセカンド・ハッチをヴァイユが開けたところだった。


〈まて〉

 今度は、アキオが、中に入り込もうとするヴァイユをの手をとって指話しわで話しかけ、止めた。

 自らが先に中に入る。


 白く、やわらかい光で照らされた、かなり広い通路だった。


 海洋や宇宙を行く乗り物ではないため、隔壁かくへきで細かく仕切られてはいないが、通路は長く続く直線ではなく、前後ともにしばらく行くと左右に曲がっている。


 ざっと見まわしてからアキオ言った。

「カメラもマイクも仕掛けられていない」

「ハッチを破壊せずに入ったため、侵入は、まだ気づかれていないようですね」

 ヴァイユの、褒めて、という表情に気付いたアキオが少女の金色の髪を撫でる。


「通路の様子も、ほぼアルメデさまの情報どおりですね。このまま、発見されるまで、まっすぐ機関部に進みましょう」

 ピアノが言い、アキオがうなずいた。


「俺が先頭、ヴァイユ、ヨスル、ピアノで進む」

「わたしが先頭を行きます」

 ピアノが抗議する。

索敵さくてき能力は、アキオが上でしょうが、あなたのナノ・コートは今までの戦闘で防御力が落ちています」

「ダメだ」

「索敵は、わたしにもできます。通路なら厳密なサルート(敬礼)の必要がないから」

「サルート?」

 ヨスルが首をかしげる。

「偵察の基本的な6要素ですよ。敵の、規模きぼ、行動、位置、部隊、時間、装備。サルートはその頭文字かしらもじをとった総称です」

 ヴァイユが説明する。

「かしら――」

「分からないのは当たり前です。サンクトレイカ語にはありませんから」

「ピアノ――」

 アキオが少女の肩に手を置く。

「俺が先頭だ」

「わかりました」


 アキオを先頭として、少女たちは進み始めた。


 戦車内に入ってから、アルメデとの交信は途絶えている。

 おそらく電波が遮蔽(しゃへい)されているのだろう。


 四人は、角をいくつも曲がって乳白色の光の通路を歩いていく。


 機関室が近づき、ひと際大きい十字路に曲がろうとした時、アキオが後ろ手で少女たちを止めた。


 一挙動いっきょどうで十字路に向かってね上がり、通路の天井を蹴って(さら)に先へぶ。

 その直後、ドン、ドンという重々しい銃声が響き始めた。

「アキオ」

 叫びながら、ピアノがヨスルとヴァイユを飛び越えて十字路に飛び出す。

 同時に、彼女は、アキオによって抱き留められていた。


「大丈夫だ」

 アキオが耳元でささやく。

 ピアノが首を曲げて通路を見ると、十人近い兵士が、レイル・ライフルを手にして倒れていた。


 アキオは、ピアノを離すと、彼らに近づいて、全員の首筋に刺さっている銀針を引き抜いていく。


「行こう」

「彼らの武器を持っていかないのですか」

 ヨスルが尋ねる。

「あの武器は、登録したものでないと使えないのです、お姉さま」

 ピアノが言う。

「敵は侵入に気づきましたね」

「ヴァイユ、あと少しで機関室です。警備は厳しくなるでしょうが、逆にいえば、それさえ乗り越えればイナゴは止められるでしょう」

「だけど、なぜロボットでなく、弱い人間の兵士に警備をさせているのでしょう」

 ヴァイユの疑問にヨスルが答えた。

「人があまっているからではないですか」

 その言葉に少女たちが苦笑する。

 アルメデに教えられ、彼女たちも、全サンクトレイカ兵が戦車で待機していることを知っているのだ。

「急ごう」

 アキオの言葉で一行は再び歩き始めた。


 歩きながらアキオは考える。

 これまでの通路は、侵入者に対して無防備すぎる。

 彼の見る限り、カメラもトラップも仕掛けられていない。


 おそらく、この先に、何か()()()()()()()()()()が用意されているのだ。

 アキオが、少女たちに注意を促そうとした時、

「アキオ」

 ピアノが叫んだ。


 曲がり角から、ぎっしりと通路を埋めながら、黒いホイシュレッケの群れが姿を現したのだ。

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