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262.鳥囲

なぜか、リトーを渡すシーンが二重になっていたので、削除しました。

 先ほどまで広がっていた蒼天そうてんは、雨雲のようなロボットの群れに隠れて、ほとんど見えなくなっている。


 塹壕トレンチの兵士たちの多くが絶望に(ひざ)(くっ)する中、戦意(せんい)を失わない者も存在した。


「何か作戦はあるか」

 黒雲が、ゆっくりと空に集結しつつあるのを見ながら、アキオが静かにアルメデに問いかけた。

 彼の背後には、ユイノ、ミストラ、ヴァイユ、ピアノたち、ジーナ城の少女たちが、戦う意思を見せて女王を見つめている。


「おそらく、正面から戦っても勝ち目はないでしょう。数が違いすぎますから」

「あれらは、どんな攻撃をしてくるのですか」

 ミストラが尋ねる。

「わたしの知る限り、ホイシュレッケ(イナゴ)はプラズマを使った電気推進エンジン(ホールクラスタ)を利用して空を飛び、口の部分のプラズマ・カッターで敵を破壊する武器でした」

「つまり、飛び道具はないんだね」

「ホイシュレッケ自体がミサイルなのです。この武器の優秀な点は、複数のホイシュレッケが連結して形を変え、一つの武器のように敵を攻撃するフォーメーションを多数持っていることですね――どうしましたユスラ」

 アルメデは、アキオに横抱きにされたまま、彼女の腕に手をふれた少女に問いかける。

「ア、キオ……降ろし、てください」

 黙って、彼は、ユスラを立たせた。

 大丈夫か、と彼は問わない。

 彼女が死にかけていることは、皆分かっているのだ。

「方法はあります。シジマやカマラが、アルメデさまのご存じない技術を作り出しているのです」

 そういって、ユスラは方法を説明する。


「では、それでいきましょう」

 話し終わって、ゆっくり地面に横たわり目を閉じたユスラを見ながら、アルメデは、ほんの少し考え、

「まず、部隊を二手(ふたて)に分けたいと思います。ホイシュレッケ自体も、(スォーム・)知能(インテリジェンス)まがいの頭脳はもっていますが、実際は、外部からのコントロールで動いています。それはおそらく――」

 そういって、巨大戦車を指さし、

「あの中にあるでしょう」

「コントロールを乗っ取るんだね」

 ユイノが指を鳴らす。

「アキオ、あれはかつてトルメアで開発しようとした要塞戦車イゼル()を原型としています。それなら内部は――」

 アルメデは内部構造を簡潔に説明した。

「だから、底部ハッチから中に入って、動力部の予備制御パネルからホイシュレッケのコントロールを奪ってください」

「ミーナなしで、クラッキングは難しいな」

「ヴァイユがいます。なぜ、わたしたちがここにいると思いますか。彼女が、アキオの隠しキャビネットの暗号を解いたからですよ」

 アキオは、一瞬ヴァイユを見て、うなずいた。

「わかった、行こう」

「では、アキオ、ヴァイユ、ピアノはイゼル()に向かってください」

「わたしも行きます」

 ヨスルが叫ぶように言う。

メルヴィル(義兄)の眼を覚まさせないと」

 ピアノがアルメデを見た。

 彼らの向かうのは、義兄たちのいるであろう指令室ではなく機関室なのだ。

「行きなさい」

 アルメデが即断する。

「ユイノとミストラはユスラの計画を――最も危険な役割で申し訳ないですが」

「何をいってるんだい、やるよ」

「大事な仕事ですからね」

「ユイノ、ミストラ、君たちは――」

 踊子ダンサーは、アキオに最後まで言わせない。

「大丈夫だよ、アキオ。踊りは戦いのようなもの、さ」

 そういって、ユイノは大きな目を片方、器用につぶってみせる。

「頑張ります。アルメデさまほど華麗にはいかないでしょうが」

 ミストラも拳を握りしめる。

 アキオは少女たちに近づき、左右それぞれの手で、ふたりの髪に触れ、軽く叩いた。


「ア……キオ」

 ユスラに呼びかけられて振り返る。

 少女は、純白の小さなキューブを取り出して彼に差し出した。

「これは……カマラから――」

 ナノ・ゴーレム(リトー)だ。

 アキオは黙ってキューブを受け取った。


 ここに、カマラの姿()()()()()()()()()()()を彼は理解しているのだ。


「あとは――シジマが……ごめんなさいって」

 アキオは軽く眉を寄せたが、すぐにうなずくと答えた。

「わかった」


 アルメデは、スカーフの下で微笑(ほほえ)みを浮かべ、

「では、始めましょう。ホイシュレッケも放出が終わって、そろそろ動き始めるはずです」


 アキオはうなずくと、ヨスルを横抱きにしようとして、ピアノに止められる。


「お姉さまはわたしが――行きましょう」

 そういって義姉を抱き上げ、戦車へ向けて走り始める。

 アキオとヴァイユがそれを追って駆けていく。


「やきもちかね」

「やきもちですね」

 ピアノの後ろ姿を見ながら、ユイノとミストラが、うなずき合う。

 ふたりはプロテクター機能つきの魔女の帽子をかぶった。

「ホイシュレッケが動き出しました」

「じゃあ、あたしたちは行くよ」

「気をつけて」

「了解」

 声を合わせるようにそういうと、少女たちは噴射杖ロケット・ケーンに乗って飛び立って行った。

 真紅(スカーレット)焦げ茶(ダークブラウン)の色の残像が、黒雲に向けて駆け上がっていく。


「さすがに凄い数だね」

 紅髪あかがみ踊子ダンサーが空を見上げて言う。

「ユイノさん、これを」

 ミストラが小さいカプセルを、指ではじいて横を飛ぶ少女に渡した。

 ユイノは、それを器用に受け取って、笑顔になる。

「実は、あたしの生まれた村では、鳥に対して同じようなことをやるんだ。鳥囲(とりがこ)いっていってね」

「鳥のように可愛い生き物なら良いのですが」

「じゃあ、始めるよ」

「はい」

 少女たちは、二手(ふたて)に別れると、黒雲の左上方から、円を描くように飛びはじめた。


 まだイナゴたちに動きはない。


「まずは、第一弾を成功させないとね」

 ユイノがそう言って、首のチョーカーを外すと、留め具にコマンドを与えて、イナゴの群れに投げ入れた。

「展開!」

 そういって手にしたカプセルを潰す。

 パシュ、という軽い破裂音がするが、特に眼に見えた変化はない。


 しかし、この瞬間、ミストラとユイノの間にいる、およそ1千万のホイシュレッケは透明なナノ・コクーンによって囲まれたのだった。

 数秒後、オレンジ色の光が広がり、それが、二人を直径とする球となって、内部のホイシュレッケが灰となった。


 ユスラの作戦とは、シジマの改良で強度と熱への耐性が増したナノ・コクーンで、ホイシュレッケを取り囲み、内部でポアミルズ()胞子()消滅器()を起動させて、イナゴを焼き殺してしまう、というものだった。


「コクーンをもっと硬化(こうか)できれば、モンロー効果で破壊力を上げられるのですが、この荒野のPS濃度なら、球形のままでもホイシュレッケを破壊するだけの破壊力があるはずです」

 少女の予測通り、コクーン内に閉じ込められた熱量で、小型ロボットは完全に破壊されていた。


 ミストラがコクーンを解除すると、灰と残骸になった、無数の黒いホイシュレッケが荒野に落ちていく。


「まずは、うまくいったね。さあ、どんどん行くよ」

 だが、彼女たちが次の攻撃を加える前に、イナゴたちは、集団で長槍の形(ロング・ランス)に姿をかえて、反撃を始めたのだった。

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