256.共闘
誤字、脱字、表記まちがいの報告ありがとうございます。助かります。
独りの作業で、連日しっちゃかめっちゃかになってやっていますので、皆様のご指摘は本当にありがたいのです。
先日、小説の前半を読み返したら、文体と性格描写のブレがあったので、この、荒地の戦いが終わったら、一度、統一化しようと思っています。
P.S.
ついに、256(=2の8乗)というキリ番(個人的な)になりました。
ラストに向けてもう少し頑張ります。
シェリルは、自分の身体が、地面から離れて飛び立つのを感じた。
初めての経験だが、気が張っているためか、恐怖は感じない。
母アイリンが行った飛行魔法もこんな感じだったのかと漠然と思う。
空を飛びながらシェリルは崖の上を見た。
無数のロボットのほとんどは荒地に降りたものの、まだ崖の縁には数千体のロボットが残っていて、ケルビと戦っている。
仮面をつけない彼女の裸眼は、その中で、ひと際大型のロボットと戦う硬化外骨格の兵士を見つけ出した。
ノランだ。
「あそこです」
そう言いながら、シェリルは、キィと呼ばれた美しい少女を見た。
その姿は、奇妙な形の帽子を被り、細身の濃紺の服を着ただけで、彼女のように硬化外骨格に身を包まれてはいない。
これで、ロボットと戦えるのだろうか。
それとも、黒紫の魔女のように、身体を自在に変形させられるのだろうか。
「あんた」
「はい」
シェリルは、話しかけられて反射的に返事をした。
「着いたらすぐに戦闘が始まる。ガーディアンの装甲は、レイル・ガンでは抜けなからね。その大剣で、まず脚に打撃を――」
そう言って、シェリルの眼を見つめ、
「ノランとは長いのかい」
「一年あまりです」
「なら知っているね。奴の剣は、右に強いが左に弱い。特に乱戦ではそうだ。だから、あんたは、あいつの左に入って、そっちをさばいてやってくれ」
「なぜ、あなたがそれを――」
「奴とは結構長いのさ。内緒だけどね。その話はあとだ。3ミノス(1分)でカタをつけないと塹壕がやられちまうからね、一気に行くよ。さあ飛ぶんだ」
彼女の合図で、崖に向けてシェリルがジャンプし、ノランのすぐ近くに着地した。
仮面で顔を覆い、それと同時に、周囲のロボットの足を、背中から引き抜いた巨大な剣で切断する。
嵐のような勢いで剣を振り回し、飛んでくる雷球をも剣で切断しながら、ノランの左手に出た。
ロボットは、やはり同士討ちを恐れてか銃器を使わず、狂暴な足を剣のように振り回して攻撃を仕掛けている。
シェリルは、キィの言う通り、左からの攻撃に苦戦していたノランの前に入ってサポートしながら叫ぶ。
「ノラン、3ミノス(1分)で倒さないと、塹壕がやられる」
キィの言葉どおり、西の国の時間単位を使ったが、ノランはすぐに返事を返した。
「シェリルか。わかった」
左からの攻撃を気にせず、右に集中したノランは、凄まじい勢いで、大型ロボットの前を守るように囲んでいるガーディアンを斬り刻んだ。
シェリルも、女剣士としての本領を発揮し、硬化外骨格の力でロボットを斬りまくる。
「よし」
ノランが、大型ロボットの足を踏み台にして飛び上がり、剣先をロボットのレンズ眼から内部に突き刺した。
きつく抉って剣を抜くと、後から来たシェリルが、その穴に、腕から射出した手榴弾の起動スイッチを押して投げ込む。
荒地の演習地で何度も練習した連携攻撃だ。
時間設定をせずに使うと、1ミノスで爆発する小型爆弾は、使い勝手が良いため、シェリルのお気に入りの武器のひとつだ。
「飛んで!」
ふたりは、ロボットの背から高くジャンプすると、地上のガーディアンを蹴り倒しながら着地した。
ほぼ同時に、指揮ロボットが派手な音を立てて爆発する。
次の大型ロボットを探して、辺りを見回した彼女の眼に、青い服の少女が手にした細い避雷器で飛び来る雷球を地面に消しつつ、可憐な足で、ロボットを蹴り上げて破壊する姿が映った。
また少女は、片手でグレイ・ガーディアンの脚の攻撃を受け止めると、もう片方の手で避雷器を使って反対側から襲ってくるロボットを両断する。
ついで、手にしたロボットの脚を跳ね上げてひっくり返し、腹を見せて転ぶロボットに飛び乗って完全に破壊した。
それは冗談のような光景だった。
細い少女が、自分の数倍あるロボットに当たり負けをしないのだ。
次にキィが指揮ロボットにとりつくのを見ながら、シェリルは反対側の大型ロボットを指さして叫んだ。
「あれよ、ノラン」
「わかった」
硬化外骨格の騎士は、力強く叫ぶと地面を駆けだした。
マシンの力で、ガーディアンを弾き飛ばしながら先を進み、大型ロボットの足を掴む。
「シェリル!」
「わかった」
背後から走って来た少女騎士が、ノランの膝、肩を使って、ひと息に指揮ロボットに飛び乗り、大剣を素早く振るってカメラアイを横なぎに破壊し、腕を押し当てて、内臓レイル・ガンを連続発射する。
ロボットが生き物のように痙攣して脚を折り、ゆっくり横転した。
同時に、指揮ロボットを守るために、彼らを取り巻いていたグレイ・ガーディアンが動きを止める。
ケルビたちが、それを片っ端から崖下に突き落として破壊を続けている。
「やったね」
走り寄ってきた青い服の少女が、崖の下を指さしながら言う。
荒れ野のほぼ半分を埋めつくすロボットが、一斉に静止していた。
ノランがキィを見て話しかけた。
「あんたは、ユスラさまの」
「仲間さ。キィだ。あんた、相変わらず左が弱いな」
少女は美しく微笑んだ。
高貴な表情に似合わない、ぶっきらぼうな話しぶりに独特の魅力がある。
「目が覚めたかい。ノラン。ユスラさまは、アキオのためなら何度でも死ぬよ。あたしもね。でも、それは妙な魔法にかかったからじゃない――」
そう言って少女は言葉を切り、
「いや違うな、たぶん、あたしたちは魔法にかかっているんだ、恋という名の――アキオは、あたしを抱いて一晩中温めてくれた初めての男だからね。あたしは一生の望みを叶えることができた。だから、いつでも死ぬことができるのさ」
そのあけすけな言葉に、シェリルは頬を染めるが、ノランは別な反応を示す。
「その話し方、一生の望み――あんたは……」
「やっと気づいたのかい。あんた、頭はいいけど、鈍いところがあるね。ギャンプシー」
「でも、その姿、その強さ……」
「アキオが変えてくれたのさ。ナノクラフトでね。強いのは――あたしはもともと強いからね」
少女は、自分より頭一つ半大きな騎士を見上げながら、彼を小突いた。
背後に押されて驚くノランに笑いながらキィは続ける。
「姿は変わったけど、体重はもとのまま――いや、ちょっと重くなったかね。いくらかは聞くんじゃないよ」
少女は美しい青色の帽子のつばをちょっと持ち上げて、耳に手を当てた。
「はい、はい――分かりました。そろそろ、グレイ・ガーディアンが再起動して単独攻撃し始めるよ。指揮されないから攻撃力は半分以下らしいけど、このまま一気に崖上のロボットは殲滅しよう」
「わかった」
「わかりました」
キィは、彼の動きから、ノランが負傷していることに気づいていたが、あえて体調を聞かなかった。
遠くで見守る主に、一騎当千の働きを見せるべき戦場で、戦う意思をもつ兵士に体調を聞くなど無粋きわまりないからだ。
「さあ、始めるよ」
少女の一声で戦闘が再開された。




