235.再戦
「あれが魔王――」
メキアが思わずつぶやく。
全身を覆う、漆黒の細身の服に身を包んだ男は、噂に聞くほど強そうには見えなかった。
やはり、素体は連れていないようだ。
メキアは、サンクトレイカ女王に目をやった。
彼女は、野の獣を見るような目で魔王を見ている。
マイスの話では、彼女の目の前で、漆黒の男は、救いに来た人質を真っ二つに斬り捨てたらしい。
魔王に、西の国の衛士が近づいた。
「規則ですので、謁見の間に入られる前に武器を確認します」
その声は、ニューメアの高位魔法によって、広間にいる女王たちにも、はっきり聞こえる。
西の国の言語で話しかけられた魔王は軽くうなずくと、衣服のボタンを外し、両手を上げた。
衛士が、少し伸びをしながら魔王の体全体に触れて武器を調べる。
「結構です――こちらへ」
そういって、衛士は、魔王の先に立って歩き出した。
魔王は、その後ろを、自分の城を行くかのように悠然と歩いていく。
その姿を、高位魔法は視点を変えながら追い続ける。
長い通路を歩いた魔王の前に扉が現れた。
謁見の間の扉だ。
「来ましたね」
女王の言葉にマイスがうなずき、階下に降りる階段へ向かった。
ふたりの女王が、息を飲んでバルコニーから見下ろす扉がゆっくり開くと、その向こうから魔王が姿を現した。
ゆっくりとした歩調で、広間の中ほどまで歩み、立ち止まる。
「お久しぶりです。ようこそ魔王アキオ・シュッツェ――」
バルコニーの下の扉から現れたマイスが、にこやかに行う挨拶を、男は西の国語で遮った。
「魔王でいい」
それを受けて、マイスは、さらに愛想の良い顔になる。
メキアは、味方ながら、ニタニタ笑う彼の悪人面が嫌になってくる。
「では魔王アキオ、いえ、この際、我々があなたにつけた名前でお呼びしましょう。漆黒の魔王さま――お願いした二人の女性はお連れではないのですか」
「ここには連れてきていない。途中の街道で待たせている」
魔王は表情を変えずにいい、
「データ・キューブはどこだ」
「ここに――」
マイスは広間の端に置かれた豪華な台まで歩き、上に掛けられた布を払った。
台の上、で四角い箱が虹色の光を放つ。
一瞬、魔王の姿が消え、広間に轟音が鳴り響いた。
自動的に魔王を追尾するらしい広間の鏡に、マイスの直前で、巨大な鎧をつけた戦士が、漆黒の魔王を右手一本で止める様子が映っていた
ニューメアから与えられた、高位魔法の鎧だ。
「ああ、危ない。油断も隙もありませんね。しかし、さすがです。念のために、彼に控えてもらっていて正解でした。彼は――」
戦士は、左手を上げてマイスを制すると口を開いた。
「自分で名乗る」
そういって、戦士は凄まじい力で魔王を押し返すと、マイスを庇うように魔王の前に立ちはだかった。
その隙に、マイスは、データ・キューブを持って扉の奥に消える。
「エストラ以来だな」
男の言葉に魔王はわずかに表情を変えた。
「ノラン・ジュードか」
「そうだ」
「こういった機会もあるかもしれないと、無理をいって、この屋敷に控えていて正解だった」
硬化外骨格を身にまとった騎士は、ベルトに着けた2本の剣のうち、1本を魔王に向けて投げた。
つか
魔王がそれを空中で掴むと叫ぶ。
「さっきの箱が欲しければ、俺を倒せ。だが簡単にいくとは思うなよ」
「硬化外骨格か」
「そうだ――卑怯だとはいわないだろうな」
魔王は手にした剣を見て、首を横に振る。
「獲物は、それを使え」
ノランは剣を構えて、言う。
「さあ、始めようか」




