アポトーシスする知性体
誰もいない部屋に帰って快里は考えていた。目が覚めてから、いろんなことがあった。駅で依入に出会うことはできなかったが、何か大切なものに出会ったような気がした。
心。
何か漠然としたようなもののように感じた。それが心臓が持つ何か。あるいは心臓が引き起こす何かの事象などであるのならば、僕には今まで心がなかったことになる。だとするとやはりリーシャも心が無かったんだろうか。リーシャが僕に親近感を抱いていたのは、僕にも心がなかったからなのかもしれない。
—私のようにならない方法がきっとありますよ……
リーシャが最後に示唆したこと。それはリーシャ自身が自分に照らし合わせて、僕のことを気遣って言ったんだろう。
—失うことで得るか、失わずにすませるか……
そういうことか……。リーシャはすでに予測してたんだな。
兄貴は感情と心を分けて考えている。
生命に保有されない知性体はいずれアポトーシスする。
そしてそれは僕自身も、なんとなく正しいのではないかと思う。
感情とは脳が生み出す論理的なもの。
心とは心臓が生み出す生命的なもの。
僕の自我が表面の「ホスト人格」なら、心がなかったことになる。オリジナルには心があったんだろうか?人工心臓には心が宿らない?それとも人工心臓なりの人工の心があったんだろうか?
そして重要なことは、おそらく今の僕には心があるのだろうということ。まだ目覚めてから短い時しか過ぎてないけれど、今までの僕とは明らかに違う『なにか』があるような気がした。
昔よりも、カラダが自分になにかを訴えてくる気がする。脳すべてをかけて集中することが、このところできなくなったような気がする。ちょっとした何かが起きるだけで、思考が途切れてしまうことが多い。
そういえば、ネイやメイとの関係も変わってきた気がする。
心ができたから?
忘れてはならないことは、それが心ならば、心臓とともに依入からもらったものなのだ。
これが何を意味するのか。
僕にやはり感情しかなくて、依入の心がホストである僕と、人格のないオリジナルとを繋げてたような気がした。
依入の心が僕の感情と体を繋げているのだとしたら、この僕全体の、『僕』と言える部分はどのような存在で、いったいどこまでが『僕』と言い切れるのだろう。
そう考えていくうちに快里は眠くなってきた。目を閉じていると、すぐに夢魔にさらわれてしまいそうだ。ただそれは以前のような恐怖でもなくて、なにか心強さというものを感じていた。
心強さ?
やっぱり『心』が意味するなにかは大きいのだろうか……。
そういうことを考えているうちに、快里はやすらかな寝息をたてていた。
心臓は快里が寝入る時も優しく脈打っていた。




