救いの電話
午後二時。
克之は、循環器学会の出張に海外へ出ている父親を探して、方々に電話をかけ続け、やっと通じたところだった。
「あぁ、親父。捕まって良かった。まず、藤木さんの娘さんが、脳死状態になった」
「藤木さんの娘さんが脳死?」
「親父、助けてくれ。俺じゃ無理なんだ」
「脳死なんだろう?」
俊克はそれじゃ、どうにもならないんじゃないか?と言わんばかりに諦めの声で呟いた。
「いや、すまん。そうじゃない。快里が昏睡している。自分の世界に入り込んだまま、戻って来ないんだ。救急隊員の話だと、依入さんが心停止した瞬間に、快里も死んだように倒れて意識を失ったらしい」
「なっ、反応は?」
「話しかけても、何の反応もない。JCSだとIII-200。刺激を与えても何の反応も無い。意識がないと言って良い状態だ。だけど体の生命維持活動は生きてる。すっぽり魂が無くなってしまって、まるで入れ物だけになってしまってるんだ」
「わかった……すぐに帰る。それで私にできることは?」
「あぁ……。俺は依入さんの心臓を、快里に移植すれば状況が改善すると考えている」
「なぜそう思う?」
「想定でしかないけれど、多分……。救急隊の話だと、依入さんが心停止する瞬間に快里に言ったらしい。『お姉ちゃんの心臓をもらって』って」
「ドナーの意志か……」
「俺にはどうしてもそこに鍵があるような気がするんだ。お姉ちゃんってなんだよ?快里はずっと俺たちが育ててきた。親父?何か知ってるんだろ?快里は、俺が十五の時に、親父が愛人の子供を認知したと言って連れてきた。親戚はみんな母さんが死んでから女っ気の無い親父に、愛人がいたことさえ驚きだったんだ。親父がそういうことをするとは思えないって。俺は嬉しかったよ。兄弟が欲しかったし。だけど、親父の愛人って依子さんだったのか?」
「いや。そうじゃない」
「じゃあ、なんだよ」
「快里と依入さんは双子の姉弟だ」
「なんだって?年が合わないじゃないか」
「詳しいことは帰って話す。明後日には病院につく。快里はずいぶん昔にレシピエントとしての移植待機リストへ、登録が済んでる。依入さんのドナー登録は?」
「循環器科の先生がやってくれてる。依入さんは人工呼吸器をつけたままだ。だけどそんな都合良く、依入さんの心臓が快里に回されるんだろうか。いくら故人の意志があるとはいえ……」
「大丈夫だ。その点は問題ない」
「問題ないって裏から手でも回すのか?」
「快里ほど免疫型があうレシピエントはあり得ないってことだ。いや、まあその話は後でする。すぐに帰る」
「待ってる」
克之はそう言って電話を切った。思わず立ち上がって電話をしていたことに気がつく。
快里と依入さんが双子?
それじゃあ年が合わないじゃないか?
俺の年が三十二歳、依入さんがたしか二十五歳だって言ってたな……。快里が十七歳。
それとも快里と依入さんと俺は、兄弟なんだろうか?




