依入の選択
「えっちゃん、かいくんは?」
低くて優しい声。
依入は見覚えがあるような知らない男の人に聞かれて振り向いた。どこか見覚えがあるような懐かしい庭のような場所。依入は探検していた。
たんけんごっこ。
石垣を登って金網をよじ登る。幼稚園だ。
「わかんない」
依入は呼ばれた声の方角に向かって答えた。
「かいくん、どこ行ったのかな」
男の人は優しそうな声で、再び依入に聞いた。
「さっきまで一緒にいたんだよ」
ちょっとだけ口がとがらせて、依入がいう。
快里は私の後をずっとついて来ていたはず。どこを探検するのも一緒。そう、たしか……。
「どこいったんだろうね」
「わかんない」
「困ったね。じゃあ、パパも一緒に探すよ」
「うん」
「かいくん見つかったら、えっちゃんどうしよう?一緒につれてく?」
「えいり、かいくんといつも一緒だよ」
「そうだよね。それじゃあ、かいくんを探そうね」
「うん……」
幼い依入はお父さんに言われてうなずいた。が、何か強い気持ちが突然おきてきて、自然に言葉が口から出てきた。
「うぅん。だめ、だめなの、ぜったいだめ」
「どうして?」
不思議そうにお父さんが話す。
「かいくんはね……。えいりのたいせつな、たいせつな、ほんとうにたいせつなおとうとだから、まだだめ」
「そう。じゃあ、しばらくパパと二人だね」
「うん。パパ……だっこして」
お父さんはしゃがみ込んで依入をしっかりと抱きしめた。
「そうだね、依子……ママがいるもんね。快里は賢い子だから、きっとなんとかしてくれるよ」
そういってお父さんは小さな依入を抱き上げた。見覚えのあるどこかの庭で、依入は徐々に何かから遠のいていく自分に気がついていた。




