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迎えに来る者

 山間に入って行くとみんなの息づかいが自然に荒くなっていく。なだらかな山とはいえども、心臓が悪い快里にはつらい。

 山道は少しずつ勾配がきつくなり、話し好きが数人集まっていたグループではあったが、黙々と上っていくような状況になってきた。小さな杉に巻き付いたツタ、所々にある山芋のツル。それらが山道の周りで並木のようだ。要はこれが山の持ち主、つまり農家の土地の境界線にもなっていて、大概はそれに沿って山道は延びている。

 すこし露出した岩、泥濘(ぬかるみ)、雑草などが山道の途中途中で自己主張をする。雑草が無ければ、崩れそうな場所もある。下だけを見ると秋のように見えるほど枯れ葉がつもっている。枯れ葉の下にはいくらでもたくさんの命が脈打っている。そしてそれを何となく羨ましく思う自分がそこにいた、何故か。



 青い草が萌えるせいで、かろうじて春が近いとわかる日陰の道。この辺は雪は降らないけれど、1ヶ月前だったら、この辺りは霜柱でいっぱいだっただろう。

 しまったな。やっぱりもう少し楽なルートを選べば良かった。

 快里は今更ながらに考えていた。走ったり、勢いよく上ったりはもちろんできなかったが、子供の時の遠足の記憶では、友達から遅れて迷惑をかけたりしたことは無かった。

 やっぱり体力が落ちてるかな。昔より体が重いしな。歩く速度もみんな大人だから速いのか……。少しだけ最後尾を歩いたことを後悔した。兄貴が先頭で、ついで依入先生、メイとネイで僕。遅れそうなときは宣言しないといけないじゃないか。快里は少しだけ立ち止まって息を整えた。


 依入がなんとなく振り向くと、快里君が大変そうな顔つきで肩で息をしていた。

 そう言えば、心臓が悪いと言ってたっけ。大丈夫なのかな。

「快里君、辛いんじゃないの?」

 依入がまるで見ていたかのように、いきなり振り返って聞いた。

「あ、ごめん、ちょっと休むよ」

 快里は勾配が若干きついところで疲れてしまったことを後悔しながら話した。わからないようにそっと止まったのに、兄貴の直後に歩いていた依入先生が、なぜ気がついたんだろう。

「ここだとちょっと座れないだろうし……もう少し上に少し広い高台があるから……そこが景色がよいはずだよ」

 息切れをしながら快里が言う。

「お前大丈夫か?」

「いや、いつものパターンだから。休みながら行けばどうってことないよ。いつものペース」

 快里は兄に笑いかけた。

「もう少し上の広いところで休んでなよ。休みながらゆっくり上がってくから」

「広いところって、小学校のプールが上からちっちゃく見えるとこ?」

 メイが言う。

「そうそう。あそこの方が休みやすいから。そこに行っててよ」

「わかった、ネイ、行こう。懐かしいかもよ」

「私が快里君と一緒にいますよ。ちょうど息が切れていたので」

 依入が笑顔でそう答えた。

「じゃ、上がってますから、ゆっくり休んできてください。あ……依入先生、困ったことがあったら電話して」

 克之とメイとネイは先に高台まで上がることになった。

 快里は持っていたシートに座って、頭を垂らしてぼうっとしていた。

 まいったな。頂上まで上がりきれるんだろうか。

 快里はふぅっと息を吐きながら少しだけ目を閉じて薄目をした。そして腹を見ながら大きく息を吸う。腹がすっと凹んで、肺に空気がいっぱい入ってくるのがわかる。苦しくてもこれを繰り返せばそのうち楽になってくる。子供の時からしてたことだ。

 依入先生はどうして僕と一緒に残るって言ったのだろう。考え始めたらうっすらと目の前が白くなり、やがて暗くなってきて頭がぐんと回り始めた。

 こんなところで……

 すっと頭が軽くなる、抜けるような感覚の後で、『感覚』と言われる物が論理的な概念のようにうっすらとしはじめた。

 思考の海。漠然とした空間が動いて飲み込む。

 こんどこそ、ここに閉じこめられるかもしれないな。

 そんな思いが快里の全身を駆けめぐった。


 快里が辛そうな顔つきをして、ビニールシートに座るのを確認して、依入も真似るように座っていた。快里くんはきっといろいろと疲れているんだろう。

 そういえば、子供の時に長距離走の後とかでよく、ぼうっとしてたっけ。深呼吸をしてぼうっとする。何となくいい気持ちだ。

 依入はひとしきり休んだ後で快里を見た。同じ目つきのままぴくりとも動かない。何分たったんだろう?依入は不安になってきて、声をかけた。

「快里君、大丈夫??」

「あれ、あぁ、依入先生」

 快里はびっくりしたように目が覚めた。何時間、気を失ったのだろう。

「どうしたの?びっくりしたような顔して」

「え?あ、すみません、僕、どうしてました?」

「ため息をした後、目をつぶってただけ。疲れたの?」

「どのぐらい目をつぶってました?」

「十分、ぐらいかな」

「たった十分?」

「十分って結構長いよ。寝ちゃったかと思ったよ」

「はは。こんなところで寝ちゃうってことはないでしょ」

 珍しい。久しぶりだ、十分で帰ってこれたのは。……何をトリガに帰ってこれたんだろう。快里はそんな感じがした。

「だよねぇ。あんまり長い間、ぼうっとしてるから、びっくりしてどきどきしちゃったよ」

 依入は胸をおさえていう。

 どきどき?

 快里はなんとなくそのフレーズが気になった。

「大丈夫?もし落ち着いたらみんなのところ、行こうよ」


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