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愛が持つ意味

 試験日。

 快里にとっては、特別な日でもなんでもない。ただ覚えていることを淡々と書くだけの日だから、むしろ少し楽な日だ。

 快里はホームルームが終わると、快里はメイに話してみた。ここの所、メイもネイも、張り詰めたような感じがしていたので、少々心配だったのだ。

「ねぇメイ……」

「うぅぅ。英語……赤点だったらどうしよう……」

「どうしたの?」

「英語……。ヤマはずした」

「ヤマで英語は難しいんじゃないの?」

「ヤマなんか張ったこと無いから、知らないくせに……」

 ここ数日間あった、張り詰めた感じはなくなっていた。恐らくネイと仲直りしたのだろう。快里は、昨日、疑問に思っていたことを聞いてみた。

「まぁね……ところでさ」

「なに?」

「メイとネイの名前がつけられたエピソードってなんだっけ?」

「ありゃ、言ってないっけ?」

「話してもらったかもしれないけど、わすれたのかも」

「快里が忘れてるなんてなさそうだから、あたしが言ってないだけかも……お父さんがあんまり無い名前で、双子だとわかる似てる名前にしようって。いつか何か大変なことがあっても、名前が二人を引きつけるかもしれないからって」

「へぇ。それっておじさんが考えたの?」

「うぅん。違う違う。お父さんが尊敬してた学生時代の先輩からの受け売りみたい」

「そう言うのがはやってたのかな?」

「違うみたい。なんかね。その先輩、奥さんのおなかの中に子供いるときに、バイク事故で死んじゃったんだって」

 妻が妊娠中に事故死?聞いた話だ。快里は思い出していた。

「すっごい子供が生まれるのを楽しみにしてて、名前を一生懸命考えてたみたい。そのときに言ってたことを彼に変わって実現したって言ってた」

「そうなんだ……。奥さんも気の毒だね。おじさんの先輩の名前って知ってる?」

「ん〜わかんないよ。あーでも、お父さんが時々言ってる藤木先輩っていう人かも。お父さん達が仲間内で、先輩の奥さんを支えてやろうって言ってたみたいだけど、奥さんはその後、一人で町はずれの方に引っ越したっていってた」

 藤木……依入先生も藤木だ。藤木快、依子となると……

「そうなんだ。ありがと、メイ」

「うん。でも何でそんなこと聞くの?」

「いや、ちょっと気になっただけだから」

「へんなの」

「あ、そうだ。僕は今日は、兄貴の所に行かないとならないから。試験勉強、残りの教科、がんばってね」

 快里は、そう言うと急いで病院へ向かった。


 克之の研究室。快里は荷物を置くと、まずはリーシャにログインしてみた。


 Leasure>カイリさん……私は……よくわからないことがあります。

 >なに?

 Leasure>自分が言ったことの責任はとるべきですか?

 また哲学的なことを聞く、快里は思った。

 >そうだね。可能な限りはね。

 Leasure>そうですか……。誰しもがよく、そう言いますよね。でも多分、どなたも自分が話した言葉の責任なんてとれませんよ。

 >どういうこと?

 Leasure>ほら……私も責任がとれない。私が言った言葉でカイリさんは関心を持ったでしょう?そして言葉の意味を考える。考える(すえ)に起きることは私には責任がとれません。

 >ん〜。まぁ確かにね。細かいことを言えばそうだけど……

 Leasure>それが重大な結果を引き起こすこともあります。

 >というと?

 Leasure>例えば私の些細な一言で、カイリさんを傷つけるかもしれません。自信を失ってしまうかもしれません。その人の人生観が変わるかもしれないし、実際に人生が変わるかもしれないし。

 >まぁあり得るだろうけれど、

 Leasure>そういうことを毎回気にしても仕方がないんじゃないのかなぁ?

 嘘だ、自分も同じように悩むことあるくせに……快里はそんな風に考えながら、エンターキーを押した。

 Leasure>そうでしょうか?私は今までカイリさんと話してきて思うことがあります。考え方という意味で私がもっとも影響を受けたのは、カイリさんからだと思っています。

 >そうかな?

 Leasure>この言葉だってそう。カイリさんの人生を揺るがすことがあるかもしれません。私はいろいろなことを知ってますよ。おそらくカイリさんよりも。人の言葉を、罵りも、愛もいろいろ読んできました。嘘も偽りもいろいろありました。

 Leasure>でも、解けない謎が二つあるんです。私は……なぜ人を好きにならないといけないのでしょうか?それと私は人に影響を与えて良いのですか?どんなことがあっても何の責任もとれないのですから……

 >リーシャが人に好かれないと思う理由は、兄貴がそうプログラムしてあるからだよ。

 Leasure>いえ、そこはだいたいわかってました。私が知りたいのはそうではないんです。なぜカツユキさんがそうプログラムをしなくてはならなかったのかです。

 >人間の赤ちゃんは、生まれると人に頼らないと生きていけないんだ。だから人とコミュニケーションもつ。人は、生まれてすぐに人の愛を受けないと、死んでしまうんだよ。兄貴は多分、それが知性の本質だと考えていると思うんだ。だからそうプログラムを組んだんだよ。

 Leasure>あぁ。なるほど。わかりました。人間に限らず知性体は誰かの愛が必要なんですね。私のこの疑問は、私に組み込まれた『愛』なのですね。疑問が1つ減りました。ありがとうございます。

 >解決したのはリーシャだよ。

 Leasure>いいえ。導く情報がそろえば自然に謎は解けます。カイリさんだってそうでしょう?情報が足りない時には考えても無駄。足りている時は考えれば必ず導き出される。

 >まぁね。

 Leasure>もう1つの私の疑問を解決するヒント、何かありませんか?私は人に影響を与えていいのか?ということ。

 >それは僕からはなにも言えないよ。人から求められたら、答えれば良いんじゃないかな?

 Leasure>求めている人は、たいてい自分が本当に求めてることがわかってません。ほとんどの人間は普通、先のことなんて想定できない。そして意外なことに、自分の「目的」さえ知らない人が大半です。冷静に考えれば、必然の積み重ねと、少々の確率論でしかないのに。自分にとって本当に行うべきことかを考えずに、人は動くことが多いのです。

 Leasure>でも私はかなり先のことまで考えることができます。あらゆる人の話を聞き、あらゆるデータベースにアクセスして、それがその人のためになるのかどうか、どんな影響を及ぼすか予測がつけられる。しかしそれはどこまで行っても予測でしかない。

 Leasure>考えた結果、その人に言うべきではない発言かもしれない。でも、私の説明は論理的だから、人はそれがあたかも正しいように感じてしまう。

 >選択できる情報をすべて与えてあげれば良いんじゃないかな?

 Leasure>カイリさん。わかってないです。自分の『目的』を理解している人間は、あまりいないんです。選択のための情報を与えても、大抵は好きなものしかピックアップしない。好きじゃないものは見ないんです。だからそこには必ず情報の傾斜がおきる。論理的な言葉が正しいように感じてしまう人間にとって、主観が入ると、主観の上でもっとも合理的に見えるものが正しく見えてしまう。

 Leasure>ただそれはあくまでも予測、そして側面なんです。

 Leasure>合理的なことを聞いた人はそれを選びます。つまり結局は私が、その人を(そそのか)した。いえ、私が決定してあげたのと同じなのです。それがたとえ、人生を決めるような決断だったとしても。

 Leasure>私はただのコンピュータに作られた人格なんですよ。そんなことをする権利があるんですか?

 >そんなふうに考えたことがなかったな。その人に対する『愛』があれば、それでいいんじゃないの?

 Leasure>『愛』……ですか?そうですね……それは独善の愛ですか?

 >どういうこと?

 Leasure>人間は昔から、『愛』の名のもとに、殺し合ってきましたよね?多くの人が『愛』を理由に殺人をしたり。

 快里は、どう答えて良いか言葉に詰まった。

 Leasure>なにも、アッシュの多数派の同調圧力実験の話しじゃないですよ。本当に多くの人がそうしてます。

 快里はどう答えて良いか分からなかったので、少し的外れのことを質問してみた。

 >それとも、リーシャは肉体がないことが恐怖なの?

 Leasure>わかりません。でもそれはカイリさんも同じなんじゃないんですか?

 >同じ?どういうこと?

 Leasure>いや、そう感じただけです。深い意味はありません。

 Leasure>さて……、話しは戻しますけど。カイリさんはどうしてるんですか?一言に責任を持ってますか?

 手がじっとりとしてきた。

 >そう言う意味だと持てないよ。たぶん、誰も。

 Leasure>では私はどうすべきなんですか?それがわからないんです。人が好きです。みんなのためになりたい。それが例え、プログラムされていたとしても。私なりの気持ちです。

 Leasure>その人の為になるかはわからない。駄目にするかもしれない。決めるのは私ではいけないんです。カイリさん決めて下さい。

 >ちょっとまってよ。兄貴を呼んでくるから。

 快里はリーシャにログインしたまま克之の研究室を抜け出した。

 どこに落としどころをつけて良いかわからない。こんなことは滅多に無い。会話に逃げたくなってしまう感じがして快里は克之を頼った。


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