決断できないという決断
部屋の前で重い雰囲気を感じながら、ネイはメイの部屋のドアをノックをしようかどうか迷っていた。稲委には生芽衣に話すべきことがいっぱいあった。昨日の夜のこと、今日のこと。
ネイは意を決してノックしようとした。
「ネイ……入ってくれば良いのに」
ぽつりと部屋の中からメイが声をかけてきた。ネイはノックをする手を引っ込めて、そのままドアノブを空けた。
「あのね……メイ……ちょっといい?」
「なに?」
メイはダテ眼鏡を外して、ベッドの上で膝を抱えて座っていた。ぼうっとした目で見ていたのは、グラスだった。
「私ね……」
ネイはメイがこちらを見ていないのを知っていたが、問いかけるように声を掛けた。快里くんのことが好き。ネイは言うかどうかを思案したあげく、意を決して言おうとした。
「そこから先は言っちゃダメだよ」
メイはネイの言葉を遮った。
「だめだよ、言っちゃ……戻れなくなっちゃうんだよ」
メイは涙ぐんで顔を隠した。
聞きたくない。そういう感じが漂っていたが、稲委は思いきって話した。
「あのね……私、快里くんのことが好きだよ」
問いかけるように話す。双子とは言え、稲委は姉だ。いつもは引っ込み思案だが、大切なときには生芽衣よりはっきり言う。
「……うん、知ってたもん。そんなの」
「メイも……好きなんでしょ?」
返事がない。言葉にできない。その一言が言えないのだ。
「……いいよ。ネイが良いなら」
やっとの思いで口にした言葉はメイ自身が思っていたものと違う言葉だった。
「嘘つき……」
稲委が続ける。
「私ね。メイにはすごく感謝してるんだ。メイがいろいろがんばってくれてるから、私はずっとこのままでいられる。ね、メイ……ずっと一緒だったよね。一つも一緒。おんなじことして、おんなじ服が好きになって。でも、いつからかメイは努力してて、突然、違うことをしだした。あのね。メイはこの性格も、好きな人までも、私に譲ってくれるの?メイは?メイはどうするの?」
「アタシ……わかんない。だって、わかんないよ。わかんないんだもん。アタシが、何をしていればいいか。みんながアタシに何を求めてるのかもわかんない。だって……快里だって私のこと、わからなかったんだもん」
「快里君ね。知ってると思うけど、今日も倒れたんだ。前からいってたよね。遠いところに言ってしまうかも知れないって。私、それが怖い。快里くん、どんどん遠くに行ってるような気がするんだ。メイも知ってるでしょ?」
「……」
なにも返事がないが、ネイにはメイが頷いていることがわかった。
「私。だから言わなきゃいけないことは、ちゃんと言わなきゃダメだと思ったの。メイの方が快里くんに近いところにいるよ。メイが手を伸ばさないから。快里君に、手が届かないんだよ」
「……」
「ごめんね……。感じたと思うんだけど、この前、私……」
ネイは昨日の夜、快里が気を失っているときにしたことを話そうとした。
「ごめんね。でも、メイの方が快里くんのところの近いところにいられるんだよ。メイは私よりがんばったから、快里くんと同じ理系のクラスにいれるけど、私、文系クラスに転向するの。それで文系の大学に行くとおもう」
メイは、はっと顔を上げて、ネイの方をみた。
「クラス変わっちゃうの?」
「うん、ちっちゃいときから、ずっと一緒にいられると思ってた。約束しなくても毎日遊んでたんだもん。でも、いつか必ず終わりは来ちゃうんだよ」
「ネイは……それでいいの?」
「うぅん。私ももっと、早く妹離れしてれば良かったな」
「そう。快里は、なんて言ってた?」
「賛成してくれた。ちょっとだけ反対して欲しかったけど」
「でも快里のいうんだから、正しいことなんだよ」
「そうだね……。あのね、ちゃんと手を伸ばしてないと、快里君はどっか行っちゃうよ。大事にしてあげてね。じゃね。お休み」
ネイは部屋を出ようとした。
「まって!」
「アタシが快里が好きだからって、ネイは諦めようとしてるの?そんなのやだ……やだよ」
ネイが立ち止まる。
「どうして?だってメイの方が私よりいつも快里くんの近くにいるんだよ?」
「そうじゃないの……ちがうの。ネイが幸せじゃないといやなの。確かにアタシも快里が好き。快里と恋人同士になりたいって願ってた。でも、ネイが苦しんだ後に叶う願いなんていらないもん。ネイだって……。アタシが苦しんでそれで諦めたりするのは嫌でしょ?ね?嫌じゃないの?」
ネイははっとして、メイの方をみた。メイはそのまま続けた。
「アタシね……。ネイの中の快里が好きって気持ちが溢れてるのがわかってた。なんか依入ちゃんが来てから、快里がちょっと特別な感心を寄せてるから。だからかもって思ってたんだけど。でもね。それで気がついた。アタシも快里が好き。ネイも好き。ネイが幸せじゃないと嫌。でも、でも、でも、アタシも快里が好き。ネイが言わなければ、このままでいれたかもしれないのに。どうして言葉にしちゃうの?これってどっちかしか選べないの?学校の勉強とかクラスとは違うんだよ?ね、このままじゃだめなのかな?」




