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切り取られた花

「ねぇ、ママ。あんな所にお花が咲いてるよ」

 依子が気がつくと、幼い依入が前にしゃがみ込んで、道ばたに咲いている花を見つけていた。アスファルトの亀裂のわずかな土から生えた雑草がつけるその花は、身長1メートル程度の幼い依入に、強烈に自己アピールをしている。

 最近買ってあげたピンクの洋服と、イチゴの髪縛りをしてじっと見つめる依入。

「そうね。こんなちっちゃな隙間から生まれてきて、がんばって生きているのね」

「きれ〜い」

「がんばって咲いてるから綺麗なのよ。元気に咲いてるから。元気って綺麗でしょ」

 依子は依入にそう言った。

「そうなんだぁ」

 すると依入は手を伸ばしてその花を()んだ。

「はい。ママ」

 さっきまで隙間から咲いてた花の茎はぽっきりと折られていた。

「だめよ。依入。がんばって生きているお花を()んじゃ。お花さんだって生きてるのよ。悪いことをした手はどれ?これ?」

 依子はしゃがんで依入の目線に会わせて彼女の右手の甲をつねった。痛いことよりも反射的に依子の顔を見て涙ぐむ依入。

「だって、ママ、元気がないんだもん。元気ないから、お花さん元気あるから。元気ないから、もらおうと思ったんだよ」

 3歳になったばかりの子供が、一生懸命、自分に何かを伝えようとしている。

「ママが元気がないから、お花さんに元気をもらおうと思ったのね?」

「うん」

 依入は小さな手をグーにして涙でくしゃくしゃになった顔を拭いていた。子供が自分のことをよく見ていた。

 元気がない。

 そんなことないはず。依入には気づかれないようにしてたのに。私はいつもと変わらないつもりなのに、子供はこんなにも自分を見てるものなんだろうか。

 依子は切なくなって依入を抱きしめた。

「ごめんね。依入。ありがと……。ママは元気だから。でもね。お花さんも元気に生きてるのよ。分かった?」

「うん」

 鼻水を垂らしながらそういった。

「お(はな)出てるでしょ」

「うん」

 大きな目に涙をいっぱいためて、鼻水を出しながら依入は、(はな)を元の場所に戻そうとした。

「お花さん、もう戻らなくなっちゃったよ。ごめんね。あたし、とっちゃったから戻んないよ。ごめんね。ごめんね」

 切り取った花はもう元には戻らない。差し込んで一瞬、元通りになったように見えても、ほんの少しの風で、すぐにまた倒れてしまう。

「そうね、もう戻れないのよ。切り取っちゃったら、もう元には戻らないの……」

 なにかを思い出したように、依子は涙をにじませた。

 依子は依入の涙と鼻水をハンカチでぬぐってあげた。

「はい、ちーんってして」

 勢いよく鼻水がでてきていっぱいになる。

「依入、泣かないの。いつも言ってるでしょ。女の子はいつも笑ってないとダメよ。そうすればいつでも楽しくしてられるのよ。わかった?」

「うん」

 目と鼻を真っ赤に腫らせながら、依入は笑いながらそう答えた。


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