第四十三話
「いくぞ!!!!」
二人の魂の声が完璧に重なり、広大なホールに響き渡る。
創造神は不敵な笑みを崩さぬまま、前方に文字通り全魔力を注ぎ込み、濃厚な黒い靄を集中させた。渦を巻きながら超高密度に凝縮していく闇の球体は、空間そのものを自重で歪ませ、明らかに世界を崩壊させるほど禍々しい何かを生み出そうとしていた。
だが、極限まで覚醒した二人に、もはや一瞬の迷いも恐怖もなかった。
スノーが虹色の輝きを放つ大剣を、渾身の力で一閃する。
その神殺しの刃は、神が絶対の自信を持って放った暗黒の障壁を、まるで温めたナイフでバターを切るかのように、あっけないほど軽く、鮮やかに両断してみせた。
「やったぞ!!」
刀が歓喜の声を上げる。しかし、その雄叫びがホールの壁に木霊し終えるよりも早く――創造神は、地獄の底から響くような声で不敵に笑った。
「浅はかな虫ケラどもが」
両断され、霧散したはずの黒い靄が、意志を持つかのように瞬く間にうねり、無数の漆黒の剣へと姿を変えていく。空間を埋め尽くす刃の切っ先が獰猛に二人へと向けられ、次の瞬間、一斉に解き放たれた。
――シュアアアアアアッッ!!!
「くそっ、多すぎて近づけねえ……っ!」
刀は鋭く舌打ちし、白い大刀を振るって後退を余儀なくされる。容赦なく降り注ぐ剣の雨が爆音を立てて強固な地面を次々と穿ち、巻き上がった濃い土煙が二人の視界を最悪なまでに遮った。
創造神はその無様な様子を上空から見下ろし、にやりと下卑た笑みを浮かべると、さらに漆黒の剣の数を倍加させた。今や天井の闇すら見えないほど、空を埋め尽くす絶望の切っ先。
『……おいおい、流石にこの量は、今の俺たちでもちょっとヤバいんじゃねぇの?』
限界に近い神威の前に、スノーの内で炎の焦るような声が漏れる。
しかし、白銀の鎧を纏った少女は、凛とした表情を崩さなかった。
「――私に任せて」
スノーが静かに、けれど絶対の確信を込めて答えた瞬間、彼女の全方位に、器の限界を超えて生成された虹色に輝く氷の銃弾が無数に現れた。それはまるで、夜空を埋め尽くす極彩色の星々のようだった。
「――『バレット』!!!!」
スノーの鋭い叫びと同時に、数千、数万の虹色の銃弾が一斉に射出された。
迫りくる神の黒剣の群れは、その圧倒的な光の弾幕の前に為す術もなく、パリン、パリンとガラス細工のように粉々に砕け散っていく。光と闇が激しく衝突し、爆ぜるような轟音が連続して鳴り響く中、散り際の一閃が、創造神の正面へとまっすぐに続く『一本の確かな道』を劇的に切り開いた。
スノーの中に眠る炎が、その最高の景色を見て、魂の底から快哉を叫んだ。
『ハッ、上等だ! ――行くぞ、刀!!』
「おうッ!!」
二人は寸分の狂いもなく同時に地を蹴った。スノーが切り開いてくれた一本の光の道を一直線に、創造神の懐目掛けて弾丸のごとき速度で駆け抜ける。
「――『バリスタ』!!!!」
間髪入れず、スノーの追撃の叫びが響く。彼女の頭上に巨大な虹色の大型の矢が形成され、空間を爆裂させながら放たれた。光の巨矢は正確に創造神の右腕を捉え、その絶対的な肉体を根元から派手に粉砕した。
『今だ、畳み掛けろ!!』
炎の声が轟く。続けて炎が放った極炎の刃が、返す刀で創造神の左腕をも綺麗に吹き飛ばした。
「――任せろ!!!!」
刀が最高のタイミングで地を跳び、頭上高くに白い大刀を振りかぶる。その刃は、雪の想い、スノーの覚悟、そして炎の魂を吸い込み、目が眩むほどの、この世で最も美しい虹色の輝きを増していく。
「や、やめろ……! 私を、神を殺すというのか……お前たちのような人間にぃぃぃっ!」
創造神の、生まれて初めての惨めな絶報が、黒き城の天井に虚しく響き渡った。
だが、すべてはもう遅い。
「これで……終わりだァァァァァッッッッ!!!!」
刀は、自身の全存在と全怒りを、その一撃に込めて振り抜いた。
――ズバァァァァァァァンッッッッ!!!!
世界を揺るがす光の爆発。七色の切っ先が創造神の首元を完璧に捉え、その頭部が引き裂かれるようにして宙を高く舞った。絶対の神の身体は光の粒子となって崩壊し、切り離された頭部は、床へとした激しく転がり落ちて鈍い音を立てて停止した。
神の消滅とともに、城を覆っていたすべての闇が、嘘のように完全に消え去っていく。
「やったぞ、おおおおおおおおおおおーーーーーーーーーッッッッ!!!!」
刀の、勝利の雄叫びが、今度こそ本当に静まり返った光り輝く空間に、どこまでも、どこまでも青く響き渡った。




