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白と黒の物語  作者: あると


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第三十三話

スノーは小刻みに震える拳を限界まで握りしめ、己の胸の奥に眠る器の核心へと全ての魔力を集中させた。

「……こう、かな……っ!」

次の瞬間、体の内側から爆発するような強烈な衝撃が走り抜けた。

血管に沸騰した溶岩を流し込まれたかのような、全身の細胞がバラバラに引き裂かれる凄絶な激痛がスノーを襲う。

「っ……あああ、あああ……っ!!」

悲鳴と共に膝から崩れ落ち、冷え切った地面に両手をつく。

過呼吸気味に乱れる呼吸、ぐにゃぐにゃと歪んでいく視界。器の力を魔力と同調させるという行為は、一歩間違えれば内側から自壊しかねない諸刃の剣だった。

王女は痛ましそうに美貌を歪め、鋭く眉をひそめた。

「もっと繊細に、緻密に魔力を扱え! 力任せに無理やり押し込むなと言っただろうが!」

叱責の声はどこまでも鋭かったが、その奥にはスノーの身を案じる、隠しきれない焦燥が混じっていた。

スノーは溢れそうになる涙をこらえて歯を食いしばり、泥臭く何度も、何度も魔力を練り直す。

失敗するたびに鋭い激痛が走り、倒れ、それでも執念だけで立ち上がり――限界を超えた反復の果て、スノーの感覚は研ぎ澄まされていった。

やがて、魔装を纏う王女の猛攻と、文字通り互角に刃を交えて動けるほどにまで急成長を遂げた頃。

スノーの肉体は、ついに完全な臨界点を迎えていた。

金色の光が霧散し、全身の骨が悲鳴を上げる。

「……ありがとう、ございました……」

辛うじてそれだけの感謝を告げたのを最後に、スノーは糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。

王女は魔装を解除すると、静かに、優しくスノーの隣へと座り込んだ。

そこには先ほどまでの絶対的な王の威厳はなく、ただ、どこか遠い過去を追うような、酷く寂しげな目をしていた。

「……スフィアとルナはな。かつて、わしが直々に鍛え上げた弟子であり……わしにとっては、実の子も同然の存在だったのだ」

ぽつり、ぽつりと紡がれる声は、微かに震えていた。

「親より先に逝くなど……とんだ親不孝者め……。残された者の身にもなってみせよ……」

王女はこみ上げる感情を堪えるように闘技場の天井を仰いだが、堰を切ったようにこぼれ落ちた一筋の涙が、その美しい頬を静かに伝っていった。

スノーは重い頭をゆっくりと持ち上げ、王女の横顔を見つめた。

「……私が、絶対にあの魔将を倒し、敵を討ちます。ルナの身体も……必ず、あの闇から解放してみせます」

王女は手の甲で手早く涙を拭うと、確かな覚悟を宿したスノーの瞳をじっと見つめ返した。

「……お前に、すべてを託すぞ、スノー」

「……ええ。約束です」

スノーは力なく、けれど晴れやかに笑い、再び仰向けになって天井を見上げた。

眩い魔力灯の光の向こうに、今はなき、けれど確かに自分を愛してくれた仲間たちの笑顔を、強く強く思い浮かべながら。


一方その頃、刀は――未だ覚めぬ暗黒の精神世界で、己の闇である『炎』と、狂ったように刃を斬り結んでいた。

――ガキィィィン!!!

――キィィィン!! ギギギガガガッ!!!

刀の放つ渾身の一撃と、炎の不敵な剣戟が、何も存在しない闇の中で激しい火花を散らす。

しかし、攻防を重ねるたびに圧倒的に押し込まれていくのは、他ならぬ刀の方だった。

「くっ……それなら……!」

「弱い、弱い、弱すぎるぞ小僧! だから死ぬんだよ、お前の大事な仲間たちはなぁ!」

炎の、鼓膜を直接なぶるような残虐な嘲笑が闇に響き渡る。

その瞬間、刀の中で何かがブツリと切れた。

「……大剣……頼む……俺に、アイツをぶっ潰す力を貸してくれ……!!」

刀の叫びに応じるように、大剣の根元の宝玉が眩い光を放ち、刀の身体が怒涛の金色の光に包まれる。

「うおおおおおおおおおお!!!」

激情に任せ、肉眼では捉えきれない超高速の踏み込みで、炎の首元へと大剣を横一文字に振り抜く。

刃が、確かに肉体に触れた――。刀は、勝利を確信した。

だが。

「甘いんだよ」

炎は微動だにせず、ただ手元の大剣をわずかに傾けた、それだけの動作で刀の最大火力の全力の一撃を完全に受け止めた。

肉体的な衝撃ではない。受け止められた瞬間、刀の身体からすべての力が奇妙なほど一気に抜け落ち、その場に力なく崩れ落ちた。

炎はそんな刀を見下ろし、腹を抱えて狂ったように大笑いした。

「ハハハッ!! 最高の器と聞いてみれば、期待外れもいいところだ! お前じゃ俺の足元にも及ばない!」

嘲笑を最後に、刀の視界は、さらに深い、底のない暗黒へと塗り潰されていった。

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