熱
四日目。リアナが目を覚ました時にはすでに、ホウリは隠れ場所を見つけていました。斜面に空いた横穴はゆるやかに、地中深くに向かって伸びており、その先は見通すことができないほどでした。穴の入り口は草に覆われ、一見して穴があるようには見えません。「よく見つけたものだ」と側近の騎士がつぶやきました。
「雨が降り始めたらすぐに離れろ。ここは雨水の通り道だ」
そう言い残してホウリは単身外に出ていきました。無秩序に伸びた木々に遮られ、空を見上げても雨が降るのかどうか、晴れているのか曇っているのかさえ分かりません。リアナたちは横穴に潜り込むと、息を潜めて地面に座りました。
横穴の中は狭く、リアナでさえ少し身をかがめなければ頭をぶつけてしまいそうです。湿り気を帯びた空気は澱み、息苦しさに誰かが大きく息を吐きました。座る地面からは不快な冷たさが伝わってきます。外から光が差し込むことはなく、圧し潰されそうな暗闇だけがそこにありました。
リアナは両手を握りしめ、口を引き結んで座っていました。怖い、苦しい、助けて――そんな言葉を口に出してしまったらきっと、もう耐えられなくなる。そして、泣いて喚いて歩けないとリアナが言ったときに命を危険に晒すのは、彼女自身ではないのです。大丈夫、きっと大丈夫。リアナは心の中でそう繰り返し続けました。
誰も何もしゃべらず、時間だけが流れていきます。闇は時間の感覚を奪い、横穴に隠れてからどれだけが経ったのか、何分なのか何時間なのか、分かりませんでした。目を開けていても何も見えないのに、リアナは目を瞑りました。目を閉じていれば何も見えないのは当たり前です。
目を閉じると、皆が口を閉ざした沈黙の音が耳に届きます。入口近くに座る側近の騎士の呼吸は浅く、時折剣帯の金具が音を立てます。きっと外の様子の変化を聞き逃すまいと集中しているのでしょう。二人の兵士たちは騎士とリアナたちの中間の位置で、深くゆっくりとした息をしています。今は身体を休める時間だと知っているのです。そしてリアナの隣では、ルシアン皇子の押し殺した呼吸の音――
「……殿下?」
違和感を覚え、リアナはルシアン皇子に小さく呼び掛けます。ルシアン皇子は短く早い呼吸を繰り返していました。呼び掛けに答えず、皇子はかすかなうめき声を上げます。リアナは隣にいるはずのルシアン皇子に手を伸ばし、手を止め、わずかなためらいの後、ルシアン皇子の身体に触れました。まず触れたのは腕、それから肩、さらに手を伸ばして首に辿り着きます。触れた肌はじっとりと汗ばみ、火照っていました。
「殿下!」
リアナは大きな声を上げます。二人の兵士が瞬時に動く気配がして、側近の騎士の声が飛びます。
「いかがなされた?」
「熱が!」
兵士たちはルシアン皇子に近付くと、皇子の様子を確かめたようでした。兵士の一人が入り口に移動し、側近の騎士に声を掛けます。
「水を汲んできます」
「頼む」
草を揺らし、兵士は横穴を出ていきました。もう一人の兵士がリアナに言います。
「少しお下がりください、リアナ殿下。ルシアン殿下を横にします」
兵士が、おそらく自分の外套を脱いで地面に敷く音がします。リアナは言うとおりに皇子の傍を離れました。兵士がふっと強く息を吐き、ルシアン皇子を横たえる気配がしました。ルシアン皇子は何も言わず、苦しげな呼吸だけが横穴の中に響きます。
「……無理を重ねすぎたのです。むしろ今までよく耐えてこられた」
兵士がぽつりとつぶやきます。母君が亡くなり、葬儀もできぬまま皇宮を追われ、慣れぬ森を歩きどおし。そして何より、皇子を守るために兵士たちが自分を犠牲にしたことが、皇子の心を苛んでいたのでしょう。懸命に足を動かしていた時間には考える余裕もなかったことが、横穴の闇の中で一気に襲い掛かってきたのです。
リアナは手探りでルシアン皇子の傍に寄り、その手を探り当てて両手で握りました。喘ぐような呼吸は重すぎるものを背負わされた十三歳の少年の心そのもののようです。リアナは握った手を抱くように身を屈めました。ここにいると、伝わればいい――そう心に願いながら。




