夜闇
日が沈み、リアナたちは身を寄せ合うように固まって焚火を囲んでいました。焚火から立ち上る煙は鬱蒼とした木々の枝葉にぶつかり、その痕跡を薄めながら広がっていきました。ホウリは時折拾った太く長い枝で焚火を掻きまわし、火の強さを調整しています。二人の兵士は荷物袋の中身を整理し、必要なものをまとめる作業をしていました。ルシアン皇子は、疲労でしょうか、蒼い顔をしてうつむいています。リアナはルシアン皇子の隣に座り、気遣わしげに彼の横顔を見ています。リアナの手が持ち上がり、宙を漂い、どこにも行きつかずに下ろされました。
「これから、どうなる?」
側近の騎士が抑えた声でホウリに尋ねます。ホウリは火を見つめながら淡々と答えました。
「敵の隊長が馬鹿でなきゃ、闇雲に森を捜し回ったりはしないだろう。俺が捕まえる側なら――」
ホウリは考えるように目を瞑ります。
「――人手を集めて森を囲み、音を立てながらゆっくり包囲を狭めて特定の場所に追い込む。『捜す』より『追い込む』ほうがはるかに楽で確実だ」
「我らはその囲みを突破せねばならんということか」
側近の騎士の言葉に、ホウリは首を横に振りました。
「俺たち四人で、両殿下を連れて敵の包囲を突破するなんて不可能だ。囲まれちまえば終わりなのさ。だからここからは時間勝負ってことだ」
森を囲うほどの人数を集めるにはある程度の時間が掛かるはずだと、ホウリは言いました。広い森です。少なくとも数千人規模で兵を動員しなければ、隙なく囲うことは難しい。それに、
「林道で敵に出くわした時、『こっちが当たりかよ』と言っていたろう?」
あの敵の言葉は、敵は『こっちが当たりだとは思っていなかった』ことを示しています。ということは、あの敵は『当たりだとは思っていない場所に派遣された部隊』だということです。つまり、あの部隊は第二皇子の主力ではない、末端の部隊である可能性が高い。その予測が確かなら、
「大規模な応援は来ない、可能性もある」
末端の部隊から上がってきた報告をどれだけ上官が真剣に聞くか。それによって状況は大きく左右されます。ホウリは天を仰ぎました。木々に覆われた空は、月も星も隠して、何の光も与えてはくれません。
「あいつらが、うまくやってくれていたら、な」
兵長たちが未だ敵の目を引き付けていてくれたら、森での目撃証言の信憑性は揺らぐでしょう。敵は兵を分散せざるを得なくなり、こちらの付け入る隙が生まれます。逆に、敵がこちらに兵員を集中させてきたら、それは兵長たちが失敗したことを意味しています。ホウリは大きく息を吸い、深く長い息を吐きました。願望を含んだ希望的観測――そんな自覚があるのでしょう。
「時間勝負、とはいえ――」
側近の騎士がルシアン皇子にちらりと視線を向けました。ホウリは軽く手を上げて制すると、努めて冷静な声で言いました。
「明日の朝、まず安全な隠れ場所を探す。そこに両殿下を隠したら、俺は敵の動向を探りに出る。この状況で待つのは辛かろうが、よろしく頼む」
ルシアン皇子とリアナにこれ以上の負担は難しい。しかし二人を誰かが背負えば、敵に出くわした時に戦えない。冷たい現実認識に希望的観測を乗せたギリギリの判断がホウリの顔に滲んでいました。側近の騎士は「分かった」と短く答えます。夜闇に沈む森の沈黙が、二人の言葉を吸い込んで消し去りました。




