森へ
身支度を整え、ルシアン皇子たちは二つの集団に分かれます。ルシアン皇子と側近の騎士は重い鎧を脱ぎ、麻でできた丈夫な服に着替えています。皇子に背格好の似た兵士が皇子の鎧を着て自慢げに周囲の兵士に見せびらかし、兵長にゲンコツを喰らいました。兵士たちから笑い声が上がります。ルシアン皇子はうつむいていました。リアナは心配そうにルシアン皇子を見て――近付くことも声を掛けることもできずにいました。
「そろそろ行くぞ」
兵長が街道組の兵士たちに声を掛けます。太陽が朝靄を払い、世界はもう動き始めている時刻です。彼の腕にはさっきまでリアナが着ていた服を身に着けた麻袋が抱えられていました。大小六つほどの麻袋に土を詰め、紐で縛って、なんとなく頭と手足が付いたように見える麻袋は、だらんと手足を下げて兵長に身を委ねています。リアナは複雑な表情で麻袋を見つめます。兵長は皇子たちに付き添う六人の兵士に背筋を伸ばして敬礼しました。
「殿下を頼む」
「お任せください」
力強く答える兵士にうなずき、兵長は手を下ろしました。ホウリが兵長に近付きます。
「うまくやれよ」
「わかってる」
軽く受け流すように笑う兵長を、ホウリは真剣な眼差しで見つめました。
「あんたが死ねば、ルシアン殿下が苦しむ」
意外そうに目を見開き、兵長は答えます。
「顔に似合わん男だな、あんた」
ホウリは苦笑いを浮かべます。
「俺も、そう思わんでもない」
兵長は楽しそうに笑うと、表情を改め、ホウリをまっすぐに見つめました。
「肝に銘じておく」
「そうしてくれ」
軽く拳を合わせ、ホウリは兵長の傍を離れました。
兵長は側近の騎士に頭を下げ、リアナに笑い掛け、うつむくルシアン皇子に最敬礼すると、大きく声を上げます。
「行くぞ!」
兵士たちが気勢で応え、街道のほうへと歩き始めます。ルシアン皇子は顔を上げ、彼らの背に向かって叫びました。
「必ず、また!」
兵長は振り返り、胸に手を当てます。
「必ず」
ルシアン皇子は強く拳を握り、奥歯を噛んでうなずきました。兵長は再び背を向け歩き出します。
「……死なせらんねぇよなぁ」
兵長の小さな呟きに、
「ええ、絶対に」
周囲の兵士がうなずきを返しました。
「我らも参りましょう」
側近の騎士がそう言い、荷物を背負います。森を抜けるまでに必要な十人分の食料も、野営に必要な道具も、リアナとルシアン皇子以外の八人が持つのです。
「小川を遡れば本流に辿り着く。そこを渡れば皇領森林だ。行こう」
ホウリが先導するように歩き始めます。側近の騎士は最後尾に控え、兵士たちはリアナとルシアン皇子を囲むように並びました。表情を隠したルシアン皇子の後を、リアナが不安と緊張を隠せないままついて行きます。風が吹き、木々が揺れ、空には灰色の雲が広がり始めていました。




