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「貴女との婚約を破棄する」 そう言ってあなたは柔らかく微笑んだ  作者: 曲尾 仁庵


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突破

 馬を駆り、ルシアン皇子たちは巨大な外壁に囲まれた帝都の西側にある通商門を目指します。通商門とは、大規模な商隊が帝都に荷物を運び入れるために使う特別な門で、内門と外門の二重構造になっており、二つの門の間には検品や徴税検査を行うための広い空間が設けられています。しかし今は第二皇子の兵が市中を制圧し、通商門も閉ざされているようでした。

 揺れる馬上でリアナは振り落とされぬよう必死です。背を預けているルシアン皇子からは強い緊張が伝わってきました。手綱を取る手には過剰な力が込められています。リアナはルシアン皇子の様子を窺おうと顔を動かしました。それに気付いたのでしょうか、ルシアン皇子は前を見据えたまま、安心させるように微笑みます。


「不自由な思いをさせてしまいますが、どうぞしばしのご辛抱を。貴女は必ずスール殿の許にお連れいたしますから」


 微笑みは強張り、声は硬い。それでも労りは伝わり、リアナは「はい」とうなずきを返しました。少しだけ不安が和らいだ気がしました。

 やがてルシアン皇子たちの視界に大きな門が姿を現しました。青の記章を纏う兵士が門の前を固めています。蹄の音にすでに気付いていたのでしょう、敵兵は構えた槍をこちらに向けていました。


「止まれ! ここを通ることまかりならぬ!」


 兵を率いる将が鋭く声を上げます。しかしその声には戸惑いの色が滲んでいました。こちらが何者かを把握しているわけではないのです。第三皇子の逃亡はまだ各所に知られていない――問いを無視して、先導する密偵の男の部下が弓に矢をつがえ、空に向かって放ちました。矢の先には矢じりではなく笛のようなものが付いており、甲高い音が周囲に響きます。同時に鎖が巻き取られる金属音がして、内門が開き始めました。


「な、何をしている!? 門を閉じよ!」


 敵将が動揺と共に内門を振り返り、敵兵たちが槍の穂先を迷わせ、左右を見渡します。


「押し通る!」


 側近の騎士の大音声が大気を震わせ、敵の混乱に拍車を掛けました。側近の騎士は馬足を速めて前に出ると、剣を振るって海を割るごとく敵の陣形を左右に割り開いていきます。


「足を止めるな! 一息に駆け抜けよ!」


 裂かれた陣形にくさびを打つようにルシアン皇子の配下の歩兵たちが敵兵に襲い掛かり、道を拓きます。ルシアン皇子たちは一気に内門を突破し、内門の中、本来は商隊が荷下ろしをする広い空間に飛び出ます。そこにも青い記章の兵士たちがおり、内門から急に現れたルシアン皇子たちを振り返ってポカンとした表情を浮かべました。外からの侵入を警戒していた彼らは、内門からの襲撃には全く無防備だったのです。敵兵は槍を構える暇もなく側近の騎士たちに蹴散らされました。蹄の音、空気を裂く音、気勢、砕け、叫び、倒れ、無言――押し寄せる音にリアナは固く目を瞑ります。ルシアン皇子は口を引き結び、正面を見据えました。逃げ惑う敵兵の悲鳴を合図として、外門が重々しい音を立ててゆっくりと開き始めます。差し込む陽光が薄闇を払い、乾いた冷たい風が吹き込んできました。開いた隙間に身体をねじ込み、ルシアン皇子たちは通商門から帝都の外へと逃れました。


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