乱闘
兵士たちが行き交う廊下をリアナは走ります。背後から「捕まえろ!」という怒号が聞こえました。リアナの前にいる兵士たちは状況が理解できていないのか、戸惑いを浮かべて足を止めます。リアナを追っている兵士たちと違い、前にいる兵士たちは少し立派な鎧を身に着けていました。おそらくは別の部隊で、そして彼らは外の状況――第三皇子派との戦いが始まったことに、強い緊張と不安を感じているようでした。
リアナはその足元を縫うように通り過ぎます。彼らが冷静さを取り戻し、リアナの正体に気が付いたら、終わり。今捕まればもう間に合わない。できるだけ兵士たちの顔を見ずに、進むべき空間の隙間を見定めることに集中して、リアナは走り続けます。荒ぶる吐息の音が集中を阻む煩わしさに顔をしかめ、リアナは息を止めて足を速めました。
背後から追ってきた兵士たちは突っ立っている兵士に邪魔されて足を止め、苛立ち紛れに怒鳴ります。
「ぼうっと突っ立ってんじゃねぇ! 捕まえろっつってんだろうが!」
怒鳴られた兵士は、緊張の裏返しでしょうか、過剰なまでの怒りを浮かべた険しい顔でにらみ返します。
「ああ? なんで俺たちがお前らの言うことを聞かなきゃならねぇ! こっちは第二皇子殿下の直轄だぞ!」
怒声に反応したのか、直轄部隊の兵士たちが一斉に振り返ります。リアナを追っていた兵士たちも集まってきて、両者の間を不穏な空気が流れました。リアナを追っていた兵士は大きく息を吸い、怒鳴り声を抑え込むと、軽薄な笑いを浮かべて言い返しました。
「ああ、ああそりゃ失礼しました。廊下に突っ立ってるのがお仕事の直轄様にお願いするのは酷なお仕事でしたね」
兵士の仲間がバカにしたような笑い声を上げます。直轄部隊の兵士たちの顔が引きつりました。
「……てめぇ、ケンカ売ってんのか?」
低く危険な声で直轄部隊の兵士が唸ります。リアナを追っていた兵士は、信じられない奇跡を目の当たりにしたように大きく目を見開きました。
「言葉の意味が正確に伝わったようで嬉しいよ」
直轄部隊の兵士たちが朗らかに笑います。リアナを追っていた兵士たちも楽しそうに笑いました。直轄部隊の兵士がリアナを追っていた兵士の肩に笑いながら手を置き――次の瞬間、言葉の代わりに返した右拳が兵士の頬を打ち抜きます。打たれた兵士が顔を引きつらせ、
「やりやがったな、てめぇ!」
殴った兵士に飛びかかりました。飛びかかられた直轄部隊の兵士が身をかわし、後ろにいた別の兵士が体当たりを受けて倒れます。
「なにしやがる!」
「関係ねぇ奴はすっこんでろ!」
こうしてケンカは周囲に広がり、収拾のつかない乱闘に発展しました。勝手に始まった乱闘を背に、リアナは廊下を抜け、中庭へと飛び出しました。




