第121話 グランピング
「なあケンタ、こいつは何なんだ?」
「ケンタ、これはなんて読む?」
「キュキュウ~!」
「ええ~と、これは加湿器っていって部屋の湿度を保つ機械なんだ。この漢字は映画って読むんだよ」
広間へ戻るとみんな目をキラキラさせながら、この部屋にある物を漁っていた。うちにはない物がいっぱいあるからその気持ちはわからなくもない。
「2人とも最新の家電とかがない国から来ているから雄二もいろいろと教えてあげてくれ。リリスはひらがなとカタカナを覚えているけれど、漢字はまだなんだ。ヴィオラも日本語は喋れるけれど、文字は読めないよ」
「なるほど。2人ともだいぶ日本語がうまいよな」
雄二にはそう説明しておく。このグランピング施設には最新の家電なんかが揃っているから予め伝えておこう。
言葉は鏡を通れば喋れるようになるけれど、文字は自分で勉強しないといけない。
「こっちの加湿器は花粉なんかも完全に除去してくれて、アロマの香りも同時に出てくるみたいだ。最近の加湿器は随分と便利だな」
「へえ~よくわかんねえけどすごそうだな!」
雄二が加湿器の説明を見てヴィオラに説明をしている。雄二のコミュ力は高いし、ヴィオラの性格と相性は悪くなさそうだ。
「これはプロジェクターといって、映像を大きく映し出す機械なんだ。自分で持ってきたスマホやタブレットから映像を移すこともできるみたいだね。夜になったらみんなでなにか見てみようか」
「うん!」
「キュキュ!」
リリスが見ていたのはプロジェクターだ。最近のグランピング施設ではこんなものまで付いていることに驚いた。夜になったらハリーの好きなアニメなんかを流してあげてもいいかもしれない。
……リリスは少し人見知りするので、今も初対面の雄二から距離を取っている。雄二が相手なら少しずつ慣れていくとは思うけれど。
「外の方もすごいな。富士山を見ながらバーベキューができるのか」
「ああ。昼は頼んでおいたから、すでに食材も準備できているぞ。早速昼食にするか?」
「そうだな、お腹も空いたから早速食べよう」
グランピングのいいところは食材を持たずにおいしいご飯を食べることができる点にある。もちろん食材の持ち込みもできるので、昼はこちらで用意した料理を食べて、夜は持ち込んだ食材を調理するとしよう。
「おお~いい景色だ」
「キュウ~」
「あれが日本で一番大きな山」
「リリスちゃんはよく勉強しているな。標高3776mで大きな噴火はここ300年くらいしていないけれど、今もずっと活動している立派な活火山だよ。日本を象徴する山だから海外でも有名かもね」
「……うん」
雄二はアウトドアだけでなく登山もするから山にも詳しい。俺も富士山への登山を誘われたことがあるけれど、さすがに体力が不安で断ったんだよなあ。
富士山の山頂で向かえたご来光はとても綺麗だったみたいだし、時間のある今なら挑戦してみてもいいかもしれない。……まあその前に初心者用の山なんかにお試しで登ってみたいところだけれど。
「おおっ、こいつはうまそうだ! さっさと食べようぜ!」
ヴィオラは相変わらず景色にはあまり興味がないようで、用意されている食材に興味津々だ。でも確かに普段の食材よりも豪華だから、その気持ちは少しわかる。
「確かにおいしそうだ。甲州牛に信玄どりだってさ。山梨県で有名な食材らしいぞ」
「おお、どちらも初めて食べるな。やっぱり旅行に来たらその土地の物を食べないとな」
皿の上にはおいしそうな様々な肉が並べられている。この辺りでは有名なブランドのお肉らしい。異世界の食材もいいが、その地域限定の食材を楽しむのもいいものだ。
バーベキュー用のお肉だけでなく、前菜や火にかけるだけで食べられるアヒージョなんかも用意されている。自分で料理をするのもいいけれど、どうしても後片付けが面倒なんだよ……。その点グランピングなら後片付けの必要はない。
「健太、本当に飯代は払わなくていいのか?」
「ああ、前は随分と心配させてしまったからな。前にも言ったが今はお金に余裕があるし、それにわざわざうちまで来てくれたのは嬉しかったぞ」
「……わかった。ありがたくご馳走になるよ」
今回のグランピングの食費は雄二の分も俺が持つ。ブラック企業を辞めて田舎に家を購入したことを連絡せずに心配させてしまったし、俺を心配してわざわざ郊外にあるうちまで訪れてくれたのは結構嬉しかったのである。
本当は宿泊代も含めて全部支払いたかったのだけれど、それは雄二に断られてしまった。そのため間をとって食事代だけ俺が奢るという結論に至ったわけだ。
さて、早速富士山の見える場所で昼食を楽しむとしよう。




