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「槿(むくげ)と桜」【前編】  作者: 船木千滉
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第7話 ソウルプラザ(その3)

神戸は、かつて勝海舟が「きっと大きな街になる」と、坂本龍馬に予言した。

そんな話を確か司馬遼の本で読んだが、それほど昔は過疎の村だったらしい。

六甲山を背に港が出来て、山を削って海を埋め立てた、誠に新しい街である。

一方、同窓会を前に藤原は声を荒げていた。

「なんやて……、朴部長が上田に……」

 そう言ったものの、藤原は顔から火が出るような思いに耐えた。


 ある意味雅絵との再会は新日本貿易、いや藤原の為だというのだ。

「なんで私の為や、誰がそんなこと……」

 と、そこで止めた。正に裸の王様、自分の脇の甘さに腹が立った。


 L/Cを開いて3か月、ベルト製造が難航してオリオンの朴部長が上田に泣きついた。それが話の発端である。


 驚いた上田は、以前藤原の紹介で面識のあった鈴木に相談を掛けた。以前鈴木が外事課にいて、上田に韓国の事を聞いたことがあり、それ以来何かと情報交換していたのである。


「それがですね、7月にロンドンへ来た同級生が、雅絵の近況を知っていたんですよ」


 彼女は十数年前、船員だった夫を事故で失い、その後縫製の仕事で子供を育てた。それが今では息子が代表となって工場を取り仕切り、彼女がそれを手伝っているのだという。


 実はその工場、有名なアパレルメーカーのブラジャー用ベルトを作っていて、同級生の喧しさが情報をもたらしてくれたのだった。


「ブラジャーのベルトと何の関係が――」

 と、口にした藤原も、すでに分かっていた。


「いや上田さんが、ベルトを縫える所を探しているって言うので、それで話したんです」


 だが上田は、自分から専務に話を切り出す勇気がないと言う。下手な細工を嫌う藤原だが、雅絵も藤原以上に秘密を嫌う。


 それを知っているだけに、それなら二人が会って話をすれば事は成ると、鈴木は踏んだのである。


「ここは部下の心情を察して、是非とも雅絵さんと、藤原専務自ら話をしてみて下さい」


 そこまで鈴木に言われて、藤原は鈴木や上田に感謝しつつ自らの判断ミスを思い知った。


 技術者の能力は、優れたマネージメントの下でのみ発揮されるもの。技術者の独走が組織にどのような混乱を生み、どのような末路を辿るか、世間の問題事例には事欠かない。


「分かった……、すまん、君にまで……」

 そう藤原は詫びを言い掛けたものの、後の言葉が続かない。


 一度沸騰しかけた心情は、すぐには収まらない。だが藤原の怒りは自分への腹立たしさであり、誰のせいでもない。


「いや君の言う通りや、上田や朴さんも元より、韓国へ送った矢部君にも悪いことした」


 いずれにしても藤原の責任であり、自らが動かねば解決しないことは分かった。ただ、この土壇場まで至ってもまだ、藤原の心の中にはなんとかなるという確信があった。


「しかし雅絵さん、変わってまへんで――」

 打って変わって、鈴木はお道化た顔で藤原に声を掛ける。


 そう言ってすぐ腰を上げると、

「さあ、はよう会場へ入って下さい――」

 と、藤原を促す。


 そんな鈴木に、前なら文句のひとつも言ったであろう藤原だが、ここは面映ゆい心持ちで、素直に立ち上がった。


(本当に、あの雅絵がいるのか……)

 それは30年ぶりの再会となるのだった。


(つづく)

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