六十九話
今回。この作品の一番の見どころだと思ってます。
「シェリィィィィィ!」
この世の終わりを思わせる俺の絶叫は。
「はいよ!」
響き終わらないうち、結構近くからの元気な返事で、間抜けな叫びに代わった。
「はい?」
瞳を開けて俺が見たものは……。
亀裂の側面に剣を突き刺し、その上に立っているシェリーの姿だった。
「な!? お前……よ……よかった……」
安堵で力の抜ける体を叱咤激励して、なんとか今度は本当に彼女を亀裂から引き揚げ――でも、それだけで肩で息する俺。
「わ、私は昔から、何をするにも筋はいいし、運もいいのよ……男運以外は……」
視線をそらし俺が握っていた手を強引に離し、でもその後反対の手で大事そうに包む。
「は!? それって俺が悪いみたいじゃん! そもそも……!」
「でも、助けくれて、ありがとう。テイル」
俺の文句を一二ダースほど吐き出そうとする口は塞がれた……彼女の軟らかい唇によって……。
「ぷっ、ぷはぁぁぁ!」
何分? いや、数秒だったはずの永遠の時間は――彼女のテンパった行動で、終わりを告げた。
「は、な、私……ひ……はや、ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
これ以上ないぐらいに顔を真っ赤にしながら、後ろ向きに猛ダッシュするシェリー。
その勢いは止まる事を知らず、三国の兵たちをなぎ倒しながら、中央の処刑台まで突き進み、
ゴイン!
そのまま処刑台の支柱に、彼女の後頭部が突き刺さる。
「シェリー、だいじょう……」
「はぁぁぁぁぁぁっぁ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺が駆け寄ろうとすると、彼女は意味不明な奇声を上げて、行き止まりだと思われた支柱を砕き、さらに突き進む。
しかもバックで!
「分かった! これ以上近付かないから! まずは落ち着こう! な? な?」
それほど拒絶されると結構…………。
「わ……私、手もちゃんとつないだことないのに……なんてこと……」
「さっき手はつないだろ? だから順序的には……」
「ひやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 私ってば、なんてことをぉぉぉぉぉぉぉ!」
「いや、そんなに拒絶されると……結構落ち込むんだけど?」
ああ……なんだか体の力が抜けて……さっきまで忘れてた肩も痛くなってきた……。
「はやぁぁぁぁぁぁぁ…………テイル?」
その場に膝をつく俺に、正気を取り戻したシェリーが、遠慮がちに……というか人間を警戒する野良猫のように近付いてきた。
「はぁぁぁぁぁぁぁ。なんでいつもこんなにすれ違っちゃうんだろな?」
自分の吐いた言葉に、さらに体の力が抜けその場に座り込む。
「俺も、お前も一生懸命やってるはずなのに……」
心労のせいだけでは無く、肩を落とす。
「それ……私のせいかな? 私が、嫉妬深くて……でも恥ずかしくてテイルの手も、ろくに触れなくて……」
シェリーも俺の対面にちょこんと座る……なんだか可愛い。
「テイルが悩むのも私のせいなんだ! 好きなのに……変な意地はったり嫉妬して変な事言ったり、それであんたを困らせて、挙句に国からも追い出して……」
半分以上合っているが、今それを言うのは何か違う気がして、だまって彼女を見つめ次の言葉を促す。
「独り占めしたくて……でも、そんな自分がいやらしい人間に思えて……それでまたあんたに八つ当たって……」
まあ、結構酷い目合ってたけど……。
「テイル……」
ふぇ!
なに?
なんでそんなに涙溜めて、上目づかいで俺を見るの?
かしこまって座り直すシェリーの瞳に、なにか決意みたいなものを感じた。
そして、彼女の次の言葉に焦った。
「テイル……大好きです! 私と一しょ……」
「ちょっと待った!」
物凄くその先を聞きたい欲望をなんとか押さえ、俺の手が彼女の言葉を遮った。
「な⁉ なんで? 私、もう離れるのやだよ! 一緒にいたいよ! 私じゃダメなの?」
彼女の必死な懇願に、俺はすごく真面目な顔して彼女を真正面から見据える。
「今度、おま……君とちゃんと話し合うことができたら……言おうと決めてたことがあったんだ!」
彼女を見据えたまま、深呼吸して二年間ずっと続けていた思いを、心の中で反芻する。
「俺は……軟弱で、生意気で……まだ自分の立てた野望も達成できてないけど……」
何を言ってるか分からないと言った、彼女の端整な顔を見つめ口を開く。
「わがままで、いつも人を振り回して、誤解だけど俺をこの国から追い出したお前が大好きだ! 出会った時より、一緒に遊んだ時より、二年前より、もっともっと大好きだ!」
二年間。
この時を待って、この瞬間のために用意してた言葉が、緊張のためか上手く言えたか分からない。
「だから、その言葉は、俺が、俺から言わせて欲しい……」
唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえてる。
いや実際大きいのだろう。
それでも。
テンパって、心臓バクバクさせながらも、カラカラの口から思を絞る出した。
「俺と結婚して欲しい!」
「はい!」
即答だった……。
そりゃ、この流れでダメってのは、九割九分九厘無いと分かっているが、それでも嬉しいもんは嬉しい。
「そ、そうか……それじゃあ、残る問題は……」
「あのー。そろそろ手伝ってもらえませんか?」
「まったくじゃ! 家族といえども礼儀ありでありんす!」
見れば、俺たちのやりとりに邪魔が入らないよう、近衛兵を退け続けていてくれた頼りになる姉妹の姿。
「敵の増援は、帝国軍第十三兵団が足止しています! テイル様、さっさと決めちゃってください!」
敵が減り塹壕から出て、橋からの増援を攻撃するリュカの部隊。
というか、ここにいる全ての兵士。
「これより、ケットルシーは暴動の鎮圧を開始する。重歩兵は二隊に分かれて、そちらで暴れているシェリー姫を含むお嬢さん方をエスコート。残りの兵は橋にいる増援の援護、近衛兵は私に続け!」
混乱した友軍がほぼ全滅し、奴らの邪魔をする者がいなくなったこの場所で、ライアンが動き出す。
さすがライアンと言うべきか、俺の処刑(見世物)ごときに本気で部隊編成してやがった。
抜刀して俺たちへと走り出すライアンをみて、
「よおし! 独身最後の思い出に、暴れちゃおうかな!」
シェリーは名残惜しそうに俺から視線を外すと、さらりと剣を抜き放ち強気に笑った




