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六十六話

「シェリー様! 何をなさるつもりです。この者はもう、あなたの婚約者ではなく、反逆者なのですよ! それをかばおうと……」


「……うっさい」


 貴賓席にいる大臣の言葉を、彼女のヒヤリとした声が黙らせた。


「何を言ってるのです姫様! わがままが過ぎますぞ! たとえこの国の姫であろうと……」


「じゃあ、やめる」


「「「はあ?」」」


 大臣たちの間の抜けた顔が、間近で見られなかったのは残念だ。


「私、シェリー・アグバーンは、本日を持ってエターナの王女を辞めます! …………はい! これで私はただのシェリーよ!」

 どこか吹っ切れた、とても楽しげな声が響いた。


 彼女の公言に、きっと頭が真っ白になっているのだろう。

 エターナの民はもちろん、同盟三国の王子、兵士までも声も出せずに沈黙が流れる。


「うわ。わぁぁぁぁぁん! ひめさまが、わたちたちから、いなくなっちゃうよ!」


 その沈黙が観客席にいた一人の、遠目からじゃ確認できないが多分、少女によって破られた。


「守護女神がいなくなったら、この国はどうなるんだ!?」


「姫様! この国を捨てないで!」


 それにつられるように、エターナの民が騒ぎ出す。


「案ずるな、エターナの民よ!」

 そんな民衆に、穏やかな微笑を浮かべ膝を曲げると、俺の襟首をつかみ引きずりあげた。

 そして俺の手を握って、高らかに上げる。


「私は、この国の王女をやめるが、この者、テイルの妻になり、今からこの国を、悪しき者たちから取戻し、彼の国にする! 私は新たな国の新しい王女になる! 古きエターナの民よ! 今こそ古きしきたりを破り、新しき世界への一歩を踏み出すのだ!」


 絶望から一転、エターナの民から希望の光が芽生えた。


「さすが、テイルさんの古き婚約者。やる事が似てますね」


「言うなイリーナよ。これはいわば、民をたらし込むための宣伝じゃ」


「そうですよ、この国を乗っ取れば私たちの天下。元王女の戯れ言の一つや二つ、魔王様に握り潰してもらいます!」


「あんたたち、全部聞こえてるから! 内緒話ならもっとコソコソと、私のいない所でしなさいよ!」


「なんですか! 私たちの案に、何か文句でもあるんですか?」

「文句が無い理由が無いんだけど⁉」

 ムッとするイリーナに、さらにムッとした表情を向けるシェリー。

 いきなり彼女たちが口論を始める中。

 戸惑う国民が答えを出す前に、シェリーの王女を辞める宣言に反応する者たちがいた。


「そうですか……。では、もう、あなたはこの国の王女ではなく、帝国の大罪人を逃そうとする、ただの賊と言う事になりますな……」


「そればかりか、国を裏切り混乱に落とす、反逆者じゃ!」


 宰相を始め、大臣たちも騒ぎ出す。

 そんな誹謗中傷の中、シェリーは彼らを真っ直ぐ見据え、


「私の大切な人を、殺そうとする国なんていらない! そんなことをする宰相も、大臣たちもいらない。こんな国ぶっ壊して、私は…………私たちの国を作る!」

 シェリーは口喧嘩を切り上げ凛とした顔で、そう宣言した。


「ふ。ふははは! 姫様は、いや、こいつはエターナを捨てた反逆者だ! ひっ捕らえろ!」


 シェリーを捕え、反逆者にして、この国を自分たちの物にしようという、魂胆見え見えの行動。

 それに加え、


「ただの小娘になったのなら、姫……。あの者は、捕えて私の妾に……うひひ! エターナの反逆者を捕えるのに、我が軍も手を貸せ!」


 確か、ハラルの王子だったと思う。

 そいつが貴賓席から叫び、その声に応じてハラルの兵士が動き出す。


「な! 何をしている! リムル軍! 進撃、突撃だ! ぐひひ! シェリー姫を我が性奴隷にするチャンスだ!」

 小太りの男が叫ぶ。

 多分、リムルの王子だろう。


 さて。

 私利私欲で動く連携の取れていない多国籍の軍隊は、こっちに有利なのだが。


「あいつら、シェリーを妾? 性奴隷だって⁉」


 俺はいつでも冷静だ。


 そう、やっと再会できた最愛の恋人に、暴言を吐かれたって…………。


「全軍突撃! 目標! あのひょろ長とデブ……ぐき!」


 シオンとイリーナに両側面から、殴られた。


 彼女らの鋭い目つきに、頭が冷えていく。


「ぬし様は、学習能力が皆無かえ?」


「ちょっとは緊張してください! これから四国の軍隊と戦うんですよ!」


 言いながら、彼女らが落とし穴から、こちらの最終防衛線になった、塹壕から飛び出した。

 冷静になった俺は、いや、元から冷静だが。

 彼女らの姿を見送り、リサから貰った紙を頭に叩き込む。


「リュカ! それぞれの部隊の数と現在位置は!」


「はい! 落とし穴にいるのがエアー弾の部隊、魔法部隊各二〇〇、五〇〇は観客に紛れ込ませて、残りは一〇〇人単位で城下町の各所に待機、合図があれば、騒ぎを起こして混乱させる手はずになっています」

 さすがリュカ。

 隙の無い用兵をする。


「さあ、ここからが本番だ!」


 俺は俺を助けてくれたシェリーや家族の皆に報いるため、最善の作戦を練り始めた。


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