六十五話
「な~んて、私が言うと思いました?」
悪戯っぽく笑う彼女は、昔から知っている、お茶目な彼女専属のメイドに戻っていた。
「び、びっくりした! 俺はこのまま処刑台に連れて行かれるのかと思った!」
現に、さっきのは、演技とはとても思えないほど真に迫ってたし。
「ふふ。それはちょっと…………思いましたが、私は基本的に姫様の幸せを願っています。今もその思いは変りません」
きっと、こんな時と場合じゃなければ、胸が跳ねるような微笑を浮かべると、硬直していた兵士に冷たい視線を向け、再び俺を処刑場へと進ませた。
「そ、そいつを止めろ!」
そんな笑顔に見とれていると、リアの芝居で油断したと思っていた宰相が声を上げた。
「あら、やはり、ばれてしまいましたか」
「当たり前だろ! シェリーの幸せとか言ったら、その時点でばれるだろ?」
「あらあら、それはご馳走様。私、ちょっとイラついたので……このまま処刑を続けてもいいですか?」
この娘、今、怖い事言わなかった?
「おほほ。私としたことが、つい本心を……でも、ここまでくれば、もう大丈夫ですわ!」
なんて言ってロングスカートをまくり、俺の背中を蹴り飛ばす。
「いでぇ!」
蹴られた勢いで、二、三歩つんのめるように動いた足に、突然の浮遊感。
どうやら脱出方法を、リアに一任したのが不味かったらしい。
ズボッ! ズルズルズルズル。
俺は無様に、受身も取れずに顔面からずり落ちる。
「ててて……もうちょっと他の案がなかったのか!」
不自由な両手でなんとか上半身を起こすと、そこは、人が二人分並んで歩ける幅と、立ち上がっても頭が出るぐらいの深さの落とし穴だった。
「ふふふ。たまには落ちる側に立って、この屈辱を味わうのも良いでしょ?」
笑いながら、シェリーは持っていた剣で俺の拘束を解いてくれた。
落ちた先は、どうやら地獄ではなかったらしい。
まあ、地獄でも、彼女と一緒ならいいかと思うが…………。
「助けてもらったのはありがたいんだけど、もうちょ……」
「せっかく助けに来たんだから、無粋な事は言わないでよ」
俺の言葉をさえぎるシェリー。
彼女の笑顔で、擦りむいた鼻の痛みを忘れた。
でも、俺が言いたかったことは文句じゃなかった。
「いやいや、お前、なんて格好してんだよ!」
彼女は、いつもの鎧の上から、俺が、彼女と対決した時の死神の鎧を身につけ、いつもの黒刀身の剣を右手に、翼竜の剣を左に持ち、腰には数本の魔剣、聖剣を挿していた。
「あら、あなたが使ってた、最強の装備を真似てみたのだけど、似合わない?」
いや、似合うけど。
なぜか彼女が装備すると、見とれちゃうほどかっこいいけど!
「しょうがないじゃろ、これから国盗りするのじゃからな」
「シオン?」
シェリーの隣に、いつもの鎧に身を包んだ、でも、背中に十数本の刀を背負った、黒髪の長女。
「イリーナも!」
「はい! もちろん、私もいますよ!」
シオンの隣に並ぶイリーナ。
彼女もいつもより重装備だった。
「へ? 国盗りって……もしかして……この四人で?」
さっきシオンの言った言葉が、脳内で反芻する。
「四人じゃないです。私も、第十三兵団のみんなもいます!」
さらにイリーナの後ろからリュカまで顔を出し、さらにさらに、その後ろから武器を担いだ兵士が数十人続く、どうやらこの落とし穴、処刑台を中心に円を描くように掘ってあるらしい。
その穴に百人前後の友軍がいるみたいだが……。
「それもで、この人数でありえないだろう?」
たとえこの落とし穴に、味方がぎっしり詰まっていても相手は四国分の戦力。
いくらこっちにシェリーやシオン、イリーナがいても、勝ち目は限りなく〇に近い。
「それは困ります。もし、ここであなたが死んでしまったら、シェリー様は……あら? それはそれで……」
物騒な思考を口にし、ムフフとリサが音もなくシェリーの横に着地した。
「え? それが狙いじゃないのか?」
少し意地悪な笑みを浮かべ俺が問うと、服の乱れを整えたリサが凛とした顔を向けた。
「私は姫様が大好きです! けれど、あなたと一緒にいる時の姫様の笑顔も、あなたの話を嬉しそうにする姫様の顔も……悔しいですが大好きなんですよ」
リサが少しだけ悔しそうに微笑む。
「まったく、リサが黒幕じゃなくて良かったよ」
「ええ。むしろ、ちょっと殺気だった兵士に、ちょっと殺されかけただけで、この国を逃げ出したヘタレのあなたの情報を、逐一姫様に報告していた味方中の味方ですよ」
お返しとばかり、意地悪な笑みをこぼす。
まったくリサには叶わない。
「そう言う訳で、姫様の顔が曇りますので、今はあなたの味方ですし、戦力に不満があるようでしたら、あなた好みの仕掛けもありますし、じきに援軍も来るのでしょう?」
リサが胸元から綺麗に折りたたまれた、一枚の紙を差し出してくる。
なんか、ほのかに暖かくて……。
いやいや、そんな場合じゃない!
俺はマジマジとそれを見て……。
「これって……もしかして……」
そこに書かれているのは……この処刑場の見取り図。
そしていくつかの『爆』とか『落』の文字。
「私たちが、今朝までに仕掛けたんですよ!」
誇らしげに、慎ましい胸を張るリュカ。
「気づかれないよう、魔法部隊総出で幻覚の魔法かけて、掘ったり埋めたり、大変だったんですから」
自慢げに鎧を鳴らすイリーナ。
「まあ、たとえぬし様が、わがままで、不甲斐なくて、人の気持ちなど、ちっとも理解しない朴念仁でも、わっちらの大切な家族じゃからの。助けに来るのじゃ」
シオンが鼻を鳴らす。
え?
朴念仁?
誰のこと?
「とりあえず、指揮は任せたわよ!」
シェリーがウインク一つ、地を蹴り軽やかに落とし穴から飛び出した。
そして、
「うりゃぁぁぁ!」
突然現れたこの国の姫。
慌てて詰め寄ってくる近衛兵の足元に、シェリーは剣戟で極太の線を引くと、
「そっから、一歩でもこちらに踏み込んでみよ! たとえ、元我が民でも容赦はしない!」
そう声を高らかに宣言した!
ブックマークありがとうございます!
目標総合評価100まであと少し・・・・・・かな?
テイルともども全力で頑張ります!




