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六十四話

すみません! 

更新遅れました!

「はぁぁぁぁぁ。まったく今日は処刑日和だね」

 処刑当日。

 誰に言うでもなく呟く。


 雲一つない青空。

 数日ぶりに見る太陽がチリチリと、ひ弱な俺を焼き殺すかのように睨む。


 エターナの城下町の最北端、底の見えない亀裂に囲まれた場所に、極悪人専用の処刑台はあった。

 なんでも、俺とシェリーが婚約する前に、神の雷が落ちてこの亀裂が出来たそうだ。

「神様じゃなくても、シェリーあたりなら出来そうだけどな」

 そんな冗談を呟き、 


「まったく、見事としか言いようがないよ……リサ」


 処刑台に続く唯一の吊り橋。

 両手を拘束され左右から兵士に槍で突かれ、歩かされる中、俺は背後から付いて来るメイド服の女に大声で声を掛ける。


「まさかお前が、宰相の手先だったとは……」


 チラリと振り向き確認した彼女の顔は、微笑を称えたまま眉一つ動かさない。


「もう! 最後なんだから本当のこと教えてくれても良いだろ? ケチケチするなよ!」

 俺の言葉に彼女は「ふふ」っと口元だけを崩し笑う。


「あなたの胴から首が離れた時点でお話しますわ」

「ケチ!」


「でもまあ、あなたが待っているかもしれない帝国のお仲間は、私の教えたの別の場所に行っている筈ですから、問題ないでしょうか?」

 俺の希望を刈り取るように、細い指を口にあて高らかに笑う彼女。


 橋を渡り終え、処刑台に向かって歩く俺の姿を見て、谷の向こうから観光客が歓声と共に出迎える。


「この国に来て、初めてだよ。こんな歓迎されるのは」

 手でも振って、歓声に答えてやろうかと思ったが、あいにく両手は拘束されていた。


 俺はダラダラ歩きながら、辺りを確認する。

 亀裂が円状に囲んでいる平地のど真ん中、そこに処刑台がある。

 真直ぐそこに進む俺の視線の先には、即席で作られた貴賓席が設けられていた。

 そこには、俺の首と胴が離れるのを楽しみにしているだろう、ライアンをはじめ、四国同盟の関係者とエターナ貴族たち。


 シェリーの姿は見当たらないかわりに、ニヤニヤしながらこちらを見ているのは宰相と数人の大臣が確認できた。

 どうやら諸悪の根源たちも、ガッチリ警護の兵に守られた、安全な場所から幕引きには参加するようだ。


 亀裂の内側には多国の近衛兵がずらりと並び、たとえ侵入者が現れても、即座に対応できるよう待機している。

 外側にも観客席以外、各国主力部隊かと思われる数の兵士たちが、二重三重に配置されていた。

 唯一の出入り口、俺の通ってきた橋の両端にも十数人の重歩兵が見張っている。


「シェリー様が、もし、万が一、国を裏切り、あなたを助けに来たとしても、彼らが足止めをしているうちに、あなたの首と胴は、離れ離れでしょうね」

 俺の思考を読んだように、高らかと声を上げるリア。


 その声は宰相や大臣たちの耳にも聞こえたのだろう。

 ニヤニヤが止まらない様子。


「……もうここまでくれば、教えて差し上げてもいいでしょうか?」

 彼らをチラリと横目で見て、リサもまた俺に笑いかける。

 そして、


「私の目的は、あなたと同じ、シェリー様です」


 …………リサがなんかすげーこと言ってきた!


 なんかの聞き違いじゃないよな?


 だって、俺をつつく両側の兵士も固まっちゃってるし!

 鏡を見なくても引きつっているであろう顔で、俺は恐る恐る聞いてみる。


「おま、それ、いま? いま言う事なの? それにお前、ユリ? ユリなの?」


 静かな笑顔を崩さないままの無言な彼女が、今はとても怖い。


「そんな社会一般の見方など、どうでもいいのですよ! 私はシェリー様が大好きなのです! あの純粋で、真直ぐで、穢れを知らなくて、私だけに向ける、あの信頼しきった笑顔。私だけの宝物……」


 整った顔が一瞬緩み、そして俺に顔を向けるときには歪んだ。


「そう…………。あなたが現れるまではね!」


 戦場で感じるピリピリする殺気ではない。

 なんていうか、もっとこう、ねっとりとまったりした視線を俺に向けてきた。


「いままで私が彼女を……両親のいなくなった彼女に、陰になり日向になり、姉のように優しく。時には甘やかし……幸せな時を過していたのに!」


「うん? それ激甘だよね?」


「それが…………」


 ツッコむ俺に彼女はゆっくり近付くと、その手を首に伸ばし襟首をつかむ。


「あなたが現れてからと言うもの、彼女はあなたのことばかり。今日は湖に行っただの、星が綺麗だっただの……挙句の果てに婚約ですって! この気持ち……私だけのモノと思ってた相手が、横から持っていかれるこの気持ち! あなたに分かるの!」

 華奢なメイドに、力任せにガクガクと揺さぶられるひ弱な俺。


 でも、その力が急に弱まると……。

「な~んて、私が言うと思いました?」


 悪戯っぽく笑う彼女は、昔から知っている、お茶目な彼女専属のメイドに戻っていた。


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