六十三話
「リュカ! シオン! 何か思いつかないんですか!」
酒場の安テーブルを叩き、イリーナが苛立ちを隠さずにリュカを睨む。
数世紀にも渡り不変だった、逆に言えば変化に乏しいエターナの城下町。
エターナ軍が魔王軍を蹴散らし、その総大将であるテイルを捕獲し公開処刑にすると言う間違いだらけの情報は、瞬く間に近隣諸国に駆け巡った。
城下町はその処刑される帝国大将を一目見ようと、祭りのような賑わいを見せていた。
その味があるとも、くたびれたとも取れる酒場の一角に、三人の帝国軍兵士の姿があった。
もちろん簡単な変装はしているのだが、それすら必要ないぐらい多種多彩な人間、獣人が入り乱れていた。
「考えてます! 考えてますけど……イリーナさんもなんか案はないんですか!」
珍しくリュカも語尾を強くして言い返す。
「やはり、無理矢理にでも止めておくべきじゃったか……」
シオンも眉間に指を押し付け、何度目かの後悔のため息を吐く。
三人三様の不機嫌な顔は、決して、さっきからちょくちょくナンパ目的で来る連中を、殴り倒すのに苛立っているわけではない……。
いや、それも多分に含まれているのだが……。
「しょうがないですよ! テイル様のあんな嬉しそうな顔見たら……」
諦め顔のリュカ。
テイルがエターナに戻ることを、三人はもちろん猛反対した。
軽率すぎる彼の行動に、思い直すように何度も進言するが。
『大丈夫だよ! シェリーも一緒だし……それに彼女との婚約が復活したら、この国を俺が統治することにもなるんだから、占領したも同然じゃん! 女帝にはそう伝えてくれ』
三人ともあの時のテイルの嬉しそうな笑顔に、それ以上の事が言えなかった。
そして、その事を今では激しく後悔している。
「このお祭り騒ぎに乗じて、五〇〇の兵は観光客に変装させ、紛れ込ませています。でも、問題は……」
「テイルさんをどうやって救い出すか、ですよね……」
テイルがどこに捕えられているかは分かった。
戦力もある程度そろえた。
だが、肝心の作戦が思い浮かばない。
「市民を混乱させれば、その後は多少強引にでも救出できるのじゃろうが……」
市民に犠牲が出るような作戦は、自分たちもテイルも望む所では無い。
「はあ。こんな時……テイルさん(様)(ぬし様)がいれば…………」
ガクリッと肩を落し、三人同時にため息を吐いた。
そんな時だった。
「ちょっとよろしいでしょうか?」
「「「ああん!!」」」
再びため息をつく三人の苛立ちを増加するように、今日何度目かのナンパの声が響く。
まったく乙女らしくない表情で、声の主を睨み付ける……が、
「あら? とても怖い顔」
相手は、彼女らと大して変わらない年の少女だった。
「メイドさん……ですか?」
彼女の姿から連想される職業を、リュカが言い当てた。
すると彼女は誰もが安堵するような笑みを浮かべ、優雅に礼を取る。
「はい。エターナ王宮直属のメイド、リサと申します。シェリー様の命であなたたちを探していました」
「「「!!!」」」
シェリーという名に、迷うことなく殺気を発する三人に、彼女は臆することなく、口を開く。
「あの……聞いていた雰囲気とは異なりますが、テイル様のご家族の方ですよね? 恋人とか婚約者では無く、ご家族の方ですよね?」
「「「なんで! そこを強調するんですか(のじゃ)!」」」
そのツッコミを見事にスルーして話を進めるリサ。
「我が主、シェリー様より言伝です。斬られるにしても、最後まで仕事を済ませてからにしてほしいのですが……」
彼女の言葉に、自分たちが反射的に剣の柄を握っていたのに気づく。
「すみませんでした。で、言伝とは?」
これだけの殺気の中、他の客は彼女らから逃げるように別のテーブルに移動しているのに、リサは直立不動の態度を崩さない。
そんな彼女に、只者では無いと思い始める三人。
「実は…………」
彼女の話に、驚いたり怒ったりにやけたり、クルクルと表情を変える帝国三人娘。
「…………ということなのですが、協力して頂けますか?」
話を聞き終えた彼女たちは、暫し考え……る間もなく、イリーナが口を開く。
「話は分かりました。でも、もしシェリーが私たちを騙してたとしたら、私は刺し違えてもあの女をぶっ殺しますから! 止めないで下さい!」
イリーナが獰猛な視線をリサに向けると、
「止めるかよ、一人より二人のほうが確実に殺れるじゃろ」
シオンも冷徹な笑みを浮かべた。
「はい。分かりました。では、承諾していただいた旨を、姫様に報告いたしますので……あ! これはテイル様より預かってきたものです」
「「「それを早く渡しなさいよ!」」」
乱暴にそれを奪い取る三姉妹。
「では、私はこれで」
真剣にテイルのメモを読む、そんな彼女らに薄く笑いかけリサは優雅に立ち去った。




