六十二話
「は~。でも良かった、お前に新しい婚約者がいなくて」
「はぁ?」
俺の声が聞こえなかったのか? 戸惑いを見せるシェリー。
だから、
「この二年の間に新しい婚約者が出来なくて良かった! って言ったの!」
「大きい声で言い直せって言った訳じゃないわよバカ! 話の流れが分からないって言ってんの! バカ!」
大きな声で言い返された!
確かに、考えすぎた挙句に本心だけが先走りすぎて、色々な部分が抜けてた気がする。
俺は咳払いを一つして、彼女に俺の野望を話し始める。
「俺が帝国の兵士になるとき、女帝ティファと約束したんだ」
「約束?」
彼女は落ち着きを取り戻したその瞳に、今度は思い切り疑問符を浮かべた。
「もし俺が女帝の指示した領土三つ占領したら、小さくても良いから帝国領の土地を分けて貰い、属国だけど一つの国の王として認めることを……」
話が見えないのだろう、いぶかしげな瞳を向ける彼女。
「それが達成できれば……エターナの姫と属国だけど同等の地位になるから……君が……俺の事をまだ好きでいてくれたら……迎えに来ようと思ってた……」
思い切り、未練ダラダラの野望だった。
きっと一国の王になれば国賓としてエターナに入れるし、訳も分からず締め出されることも、むやみやたらに暗殺される可能性もないと思った。
そうすれば、彼女が怒った理由もちゃんと聞けると思ってた。
俺の言葉を聞いて、彼女がうつむく……。
当たり前だ。
己の野望のために自国を滅ぼそうとし、そればかりか自分を妻に娶ろうなどど言う戯れ言、かなり呆れられ……。
「そっか! そうよね。国がなくなっちゃえば私、王女じゃなくなるし、こんな国の……国民はともかく、大臣たちは大臣でなくなるし、従う法もないわよね!」
「いや、シェリー? いったい何をしようとしてる?」
極端な事を言い放ち、ニヤリと笑う彼女の笑顔に、そこはかとない不安を覚える。
「お、おい! シェリー? シェリーちゃん? シェリー様!」
突然元気になった彼女に戸惑い、声を掛けた。
が、
「国がなくなっても。テイルのことだから、民は安心よね。それに私は、あんたの奥さんになるのだから……よし、決めた! 私はこの国を潰す!」
いろんなしがらみを吹き飛ばした!
「ちょっと待て! ここには隠れて俺の様子を見てる監視がいて、俺たちの話は筒抜けになってるの! だからそんな大声で……おい、シェリー?」
「監視って、これのこと?」
目の前から一瞬姿を消したかと思ったら、上から下まで黒ずくめの三人の男を担いで持ってきた!
「そうだけど! いきなり倒してどうすんだよ! こいつらに色々と誤情報を流して混乱させるつもりだったのに!」
「そんなの、洗脳するに決まってるじゃない!」
「へ? 洗脳?」
彼女の口から、悪どくも知的な言葉が出るとは意外だった。
「さあ、起きて!」
俺が戸惑う中、彼女は三人の中から、一人を選んでカツを入れた。
そして、そいつの目をジッと見て、
「私に付いて幸せに、末永く生きるのと、地獄の悶絶フルコースを受けて、一生恐怖に脅えて生きるの、どっちが良い?」
にこやかに相手の胸倉をつかむシェリー。
「それは洗脳じゃなくて脅迫だ! 何一つ合ってないだろ!」
ここが牢屋だということも忘れ、思わず大声でツッコんでしまった。
だが監視者から意外な反応。
「いきなり殴られ、どうしようかと思いましたが、我々はもとより姫様の味方です」
「え? 私の? 宰相ではなくて?」
これには彼女も驚いたようだ。
「はい。味方です。嘘じゃないです。リサ様の手の者です! だから、だから握っているその拳を下ろしてください!」
「リサの?」
「はい! 牢屋を見張って、隙があればテイル様を救出しろと、宰相の手下でしたらすでに排除しています!」
「さすがリサだな。だが、俺はこの牢屋から出るつもりは無い」
「ええ! なんで? なんでよ! しかも、なんでさすがリサなの!」
牢屋越しから手を伸ばし、俺をガクガクと力任せに揺らすシェリー。
「あ、ちょ、ちょっとせつめ…………ああ……」
「姫様。そのままだと確実にテイル様が落ちます!」
その一言で、何とか解放された。
「お前は、何でいつも話しより先に手が出るんだ!」
「しょ、しょうがないでしょ! 牢から出られる可能性があるのに、出ないって、いったい何考えてるのよ!」
「だから、それを説明しようとしたところで、いくなり落とされそうになったんだよ!」
ゼイゼイと肩で息をする二人。
「(こんな言い争いも、いつからしてなかったっけ?)」
なんて、場違いな思いになんだかおかしくなった。
「なに笑ってんのよ!」
「いや、お前も笑ってんだろ?」
二人でひとしきり笑った後、俺は計画を彼女に全てを話した。
「うん。分かった! リサにも私から頼んでおく!」
「ああ。それに、お前の役目は重要だが、くれぐれも、くれぐれも無茶はするなよ!」
こいつの事だから無茶はするのだろうが、言わずにはいられない。
そんな俺の心配は、
「大丈夫! だって、私はテイルのお嫁さんになるんだから!」
なんて彼女の、この世のものとは思えない笑顔に吹き飛ばされた。
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