五十九話
「と、とにかく、これでお前の相手をしてやる!」
俺は出来るだけ恰好を付けて、シェリーをビシッ! と指さした。
「ふん! そんなドン亀で私についてこれるのかしら?」
待ちくたびれたと、言わんばかりに彼女は地を蹴ると、次の瞬間には目前に現れ振り上げていた剣を、ようやく剣を構え始める俺に向かって振り下ろす。
キンッ!
「「………………」」
開始一秒で軽やかに宙を舞い、地面に突き刺さる翼竜の剣。
「あ……あんたね! 昔あれほど練習したでしょ! なんなのよその受け方!」
シェリーが呆れながら、地に刺さった剣を抜くと「今の、ノーカンでいいから」と俺にそれを差し出し、俺は再び剣を構え直す。
「今度はちゃんと受けなさいよ!」
そう言って振り下ろしてくる剣筋は、先ほどより幾分ゆるく感じた。
ギンッ!
今度は――それでもなんとか、彼女の一撃を受け止めることが出来た。
「……あんた……なんで私を裏切って、出てったの?」
彼女が剣戟を繰り出しながら、(でも俺の受けられる程度の威力とスピードで)再会してから言い続けている言葉を投げる。
「だから、俺を殺そうとしたからだろう!」
俺も同じ回答を返してから力を込めて一歩踏み出し、お互いの息が届くほどの距離まで鍔ぜり合う。
「あっ!…………ひゃ!」
視線が重なった瞬間。
慌てて後ろに飛び退くシェリー。
「な? なんだよ!」
「だって、今、私、汗臭いかなって……」
訳の分からない事を言い出すシェリー。
「そりゃ、戦争してんだ、汗ぐらいかくだろう?」
「そうだけど…………やっぱダメ! 私、水浴びしてくる!」
「まてまてまてまて! いきなりなんだよ! なんで勝負の途中で水浴びなんだよ!」
「だって、テイル。汗臭い女の子、嫌いでしょ?」
俺のツッコみに、湖の方向に駆け出そうとした彼女の足がきゅっと止まり、探るような視線を向けてきた。
場違いなのは分かっているが、そんな顔されると不覚にもドキリッ! と胸が跳ね上がってしまい、頬まで熱くなってしまう。
「いや、その、とにかく、話を……じゃなかった。勝負の続きをだな……」
「ねえシオン。あの二人の会話を聞いていると、この戦争が茶番ぽく感じるんですけど?」
しどろもどろの俺の耳に、イリーナの声が聞こえたが……気のせいだろう。
「同感じゃ……」
とシオン。これも……。
「もしかして、犬も食わないってやつですか?」
リュカのジト目の視線が俺の背中を、鎧を素通りしてちくちくなぶる。
「いや、作戦だよ! こいつに精神的ダメージを負わせてだな……」
「隙あり!」
彼女らの視線に耐え切れず、思わず振り向た隙にシェリーの剣が俺の剣を弾く。
「な! なんだよ! 卑怯だぞ!」
「……あんた、私との戦闘でどれだけこずるい手使ったと思ってんの!」
「すみません……」
っと素直に謝るフリをして!
「隙あ……」
「ある分けないでしょ!」
腰から聖剣を抜いた瞬間、彼女に払い落とされた。
「痛てっ!」
「え!? ウソ! 大丈夫?」
剣を弾かれ痺れた手に、彼女の手が優しく重なる……。
「あ! ……きゃぁぁぁぁぁ!」
ボキッ!
彼女が顔を赤らめたかと思うと全力で後退する。
俺の指を間接とは真逆に曲げて……。
「うぎゃぁぁぁ! なにさらすんじゃおまえはぁぁぁ!」
「ごめんなさい! でも……手、さわっちゃた……えへへ」
一瞬「やっちゃった!」みたいな表情を見せた彼女は、すぐに満足そうな笑みに変わる。
何を呟いているか分からないが、すげー痛い。
「まったく、ちょっと可愛いからって、笑顔で人の指の骨折るなっつうの!」
超高級傷薬を指にかけて、地面に転がっていた翼竜の剣を拾い上げるが、
「え! 超可愛い!」
「そこだけ拾うな!」
再び対峙する二人。
なぜだろう。
指を折られ、数回ツッコミを入れただけなのに、物凄い疲労感。
「と、とりあえず、仕切りなおして……行くぞ!」
ガシャガシャと音を立て彼女めがけて走る(歩く?)俺に、今度は彼女も真剣な瞳で応じる。
「なによ! 逃げ出しておいて、偉そうに!」
すぐ近くで彼女の声が聞こえた……。
気がつけばいつの間にか彼女が目の前にいて、次の瞬間には彼女の剣戟で俺の体は空高く吹き飛ばされていた。
「ぐは! なんだよ出て行けって言ったのはそっちだろ?」
その衝撃に意識を吹き飛ばされそうになりながらも、空中から反撃の『投げれば百発百中ダガー』を懐から取り出し数本投げつけた。
「だからって、なにも言わないで出て行くことないじゃない!」
それを剣の一薙ぎで打ち落とすシェリー。
だが、その間に俺は地面に着地。
痺れる足に鞭打って、魔法が封じ込まれた護符から火球を彼女に繰り出す。
「城から締め出しておいて、話せる訳ないだろ!」
「テイルが謝るまで、城には入れるなって言っただけだもん!」
俺の放った火球を真っ二つに切り裂き、割れた火球は彼女の後方で爆音を撒き散らした。
「いやいや、それじゃ、お前が城から出てくるまで、会えないじゃん! しかも城に入れないじゃん!」
「あ! ……そ、それでも、何とかして会いに来るぐらいの気概を見せなさいよ!」
「ムチャ言うな!」
彼女は間違いに気付いた自分を振り払い、間合いを詰めて剣を上段に振りかぶった。
俺は大盾を構え、衝撃に備えるが……。
「でも……あの時、ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ悪いことしたかなって……お城で仲直りのパーティー開こうと、呼びにいかせたら……あんた……逃げたって……」
剣を振り上げた状態で、彼女がぽつりと漏らす。
ん? なにか彼女の話と俺の過去の出来事が噛合わない。
「え? 俺の所に来たのは殺気だった兵士だったぞ? 『お前を殺す』って扉破って!」
大盾から半分顔を出して様子を伺う。
「そ、そんなことないもん! 私はちゃんと、泣きながらだったけど……『私に酷い事したあいつを連れて来て!』って言っただけよ!」
一字一句思い出しながら語る彼女。
「誰が誰に酷い事したよ! そんな台詞を肩震わせた王女が言えば、兵士たち(特に嫉妬に狂う男ども)は俺に殺気を向けるのも当然だろうが!」
叫びながらも、なんだか誤解の糸口が見えてきた気がした。
ブックマークありがとうございます!
テイル対シェリー 明日勝負がつきます!
でも…………。




