五十四話
「シェリー姫、もうツンデレタイムは……おわっ……ぐふっ!」
自軍に戻った途端、ライアンが自滅の呪文を唱えようとしたので、鞘に収まったままの剣で鎧の隙間からわき腹を刺さしてやった。
危ない危ない。
もう少しで抜き身でやるとこだった。
「そろそろ私の出番でよろしいですか?」
それでも微笑を崩さない態度。
いや、むしろ笑顔指数が上がっているその笑顔は、私をドン引きさせた。
「好きにすれば。私の軍は宰相と姉上の命令で手出しできないから」
それだけ言って私は兵に後退を命じた。
「ええ。私の軍だけで充分です」
「……健闘を祈る」
自信満々のランバーグに背を向けながら、懐に大事にしまった革袋を握りしめた。
実はテイルから貰ったガラス飴は、全部食べたように見せてまだ半分以上残っているのだ。
後でゆっくり食べよう。
「よし、仕切り直しだ。隊列を立て直せ!」
ライアンが号令を発した瞬間。
「撃て!」
雷に似た轟音とともに、ケットルシーの騎馬がばらばらと落馬していく。
噂に聞いた魔王軍の兵器、『エアー弾』というものだろう。
「く! 開始の合図もなしに……卑怯な!」
「ばーか、もう戦争は始まってんだよ! 油断する方が馬鹿なんです~!」
馬鹿って二回も言った! テイルむかつく!
だが、こちらの兵を狙わない辺り、テイルの優しさが……。
いやいや、あいつの事だ。
何かの策かもしれない。
「名誉あるケットルシーの騎士たちよ! 敵の姑息な手に乗せられるな!」
ライアンが一括して兵の動揺を押さえ込んだ。
これだけ見ると、テイルがかなり悪役に見えてしまうのは仕方がないのか?
でも、そのほうがあの女たちも呆れるかも……なんて余計な考えが頭を巡る。
「全軍、突形陣! 卑怯者の集まり、帝国軍を一気に蹴散らすぞ!」
「「「…………お、おう!」」」
ん? どこか一瞬、ケットルシーの騎士の反応が鈍かったのは気のせいか?
だが彼らの流れるような動きには戸惑いや恐怖は無い。
「私の気のせいか?」
私は一度だけ振り返り、微笑むライアンを無言で見送った。
ブックマークありがとうございます!
新年早々テンションアップです!
今年もがんばるぞ!




