五十二話
「さて、これで袋叩きは無くなったかな?」
明らかに動きの鈍くなったエターナ軍を見て、まずは一安心。
でも油断は出来ない。
何せ相手はケットルシーの鉄騎兵だ。
リュカに集めてもらった情報によると、大小さまざまな魔王軍の進軍に颯爽と現れ、致命的な一撃を与えて去っていく。
まさに疾風といった感じの集団だ。
戦力が勝ったからといって油断していると、何の策も実らないまま、あっという間に全滅させられてしまうだろう。
それにさっきの悲鳴を聞いても、敵の士気は見た限りあまり下がってない様子。
「ありがたいことに、敵さんは逃げる気ないようだ」
「なら、私がコテンパンにして、エターナの姫も引っ張り出してあげますよ!」
いきなりヤル気のイリーナに、ジト目で釘を刺す。
「……まあ、それは半分冗談として」
残りの半分がとても気にかかるんですけど!
「テイル様! 遊んでないで下さい! そろそろ来ますよ!」
俺は遊んでなんかいないのだが、リュカにたしなめられてしまった。
渋々前方を見ればこちらに向かって移動してくる軍隊の中、遠くからでも分かる銀色の髪の少女が、罠も無視して単騎でこちらに向かってくる。
当然エターナの兵も、落とし穴にはまりながらも後から付いてくる。
「まさか宰相はともかく、姉姫の言う事も聞かないジャジャ馬になってたのか?」
予想外で想定外だ。
思わず思考が停止してしまった。
その間にケットルシーの騎士より前に躍り出るシェリー。
「テイル! お前の罠に乗って逃げる時間をやったのに、まだ帝国に逃げ帰ってなかったのか! って言いに来ただけなんだから! べ、別に傷はもう大丈夫なのか、確認しに来たんじゃなから!」
心配げな表情を見せるシェリー。
なぜか昔読んだ書物のツンドラにもにているが、相変わらず黒いリボンで束ねた銀髪が綺麗だ。
「ぐふっ!」
そんな彼女をぼんやり見ていたら、隣のシオンに脇を殴られる……素で痛い。
「ぬし様! どうせ、いかがわしい事でも考えておったのじゃろうが、今は目の前の敵に集中するのじゃ!」
シェリーを見ていたのはそれほどの時間とは思えなかったが、かなり不機嫌そうに怒られた。
「おやおや、もう仲違いですか? 余裕のない軍隊は見苦しいですね」
一糸乱れぬ行軍でシェリーに追いついてきた――鉄騎兵の先頭にいた金髪イケメン王子が馬ごと彼女に近付いて行く。
そして……。
バシッ!
彼女の肩に当たり前のように手を置こうとして、弾かれた。
ざまあ見ろ!
それでもライアンは、微笑を少しも崩さずに彼女の隣に馬を並べた。
エターナ、ケットルシー、両軍の兵士の前に立つ二人の姿が、まるで完成された一枚の絵画の様に見えて……。
「てめぇ! ぶっころぎゃふん!」
俺が馬の腹を蹴るより早く、今度は両脇腹に激痛が走った。
「テイルさんは馬鹿なんですか? それじゃ、この前と全然変んないじゃないですか!」
「まったくじゃ。わっちらがおらなんだら、二回は死んどる」
いや、今死にそうなんだが?
「テイル大丈夫! あんたたちテイルの傷口が開いたらどうすんのよ!」
シェリーが心配げに俺に向かおうとするが、それはライアンの手で遮られる。
「大丈夫じゃよ! 傷口はちゃんと避けてるでありんす」
「私たちがそんなヘマするわけ無いじゃないですか!」
自信満々に微笑み返す二人。
こいつら…………。
「こほん。こちらの話を続けさせてもらっていいですか?」
ライアンが馬を一歩前に出し、俺とシェリーを交互に見て口を挟む。
だが、
「それにぬしには、そのほうが都合がよいのじゃろ?」
「そうですよ! 敵であるあなたには、まったく関係ないですよね!」
「なによ! 関係あります~! せっかく裏切り者をこの手でボコろうと思っているのに、勝手に死なれちゃ困るんです~!」
ライアンの言葉をまったく無視して、別の戦争が始まっていた。
「まったく、そんな軟弱な男に媚へつらっちゃって。そいつは二年前まで私の下僕だったんだから!」
へー。それは初耳だ……ん?
ぶちっ!
シェリーの声が響くと同時に、俺の背後から何かが切れる音。
そして、にこやかに俺の隣に寄り添う末妹。
「テイル様の良いところを知らない、愚かな人ですね!…………だから逃げられるんですよ」
あっかんべ~~っとピンク色の舌を出すリュカ。
それに対しシェリーも、氷河のような静かで冷たい笑みを返したかと思うと。
「……貴様……殺す!」
リュカの一言にブチ切れ、静止を振り切ったシェリーが抜刀して、馬の腹に蹴りを入れた。
お年玉でしょうか?
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これからもがんばります!




