五十一話
あけましておめでとうございます!
本年もよろしくお願いします!
「おい、聞いたかあの悲鳴!」
「嘘だろ? あそこには親友のトーマスがいたのに……」
どよめくケットルシーの騎馬に、ライアンからの伝令。
『命令には絶対遵守。でなければ、あのようになる』と。
「くっ! だからって!」
「騒ぐな! どこで誰が聞いているか分からん」
悔しそうに唇をかみしめる部下を、必死で押し止める部隊長。
「ですが!」
なおも言いすがる騎士を、片手を上げて制す。
彼らの言いたいことは分かるが、命令に違反した騎士が悪い。
だが………………。
まだ聞こえる悲鳴に、苦悶の表情を見せる部隊長。
表面上は、ライアンの命令は徹底された。
だが、
それと同時に、ある噂がたった。
「なあ、ライアン王子って……」
「ああ。もしかして……」
『ライアン王子は、兵を駒としか見てない。だからあんな悲鳴を聞いても、救助もせずに見捨てられるんだ』と……。
今だ戦場に残された騎士の悲鳴に、ケットルシーの騎士たちはゴクリッと息を飲んだ。
そしてその不安は、なぜかすぐに兵士たち全員に伝染した。
兵たちは悲鳴の先に自分を重ね、命令が無い限り一歩も動くまいと決意した。
「さて、細工は上々」
俺は各方面の情報を整理しほくそ笑んだ。
休んでた期間に、あれこれ色々とやっていたことが、うまく機能しだしたようだ。
「さて、あのバカ王子と真剣勝負といきますか!」
「はい! イリーナさんもシオンさんも、テイルさんの命令を今か今かと待ってるはずです!」
俺の立てた作戦に、なんの不安も無いようにリュカがほほ笑む。
そんな笑顔に支えられ、俺は作戦実行の伝令を飛ばした。
「うぬぬぬぬ……まだ罠は見つからないのか!」
ケットルシーとテイル……魔王軍がぶつかり合って数時間。
今だ罠の全てを発見できない兵士に、いら立ちを隠せない自分がいた。
「はっ! 小さな罠は数多く発見していますが、大がかりな物はまだ発見できません」
くっ、相変わらずいやらしい事をする。
「(罠は無しと決定して進むと、大罠があるのか?)」
「(それともただのブラフか?)」
判断に苦しむ所だ。
「伝令! ローマン宰相からの緊急の伝令です!」
そんな兵士ともどもイライラが溜まっている所に、伝令の駿馬が陣を横切ってやってきた。
「(これでは兵にも影響を与えてしまうな)」
ギンッ! と睨みつけようとした目を閉じ、軽く首を振った。
そして、落ち着いて周りを見渡せば……。
「戦争中だぞ!」
「何考えてんだあの宰相は!」
苦虫を噛んだような、苦悶の表情を浮かべている兵士たち。
どう見ても限界寸前のようだ。
まあ、戦争を始めようって時に、敵からバカにされ、それでも必死で冷静に対処しようとすれば、今度は味方の国からの伝令≪ちゃちゃ≫。
しかもロクな指示をしないことで定評のある、宰相からだと言うのだ。
苛立つなと言う方が無理だ。
現に私も苛立っている。
「……急な知らせのようだ。通せ!」
だが、腐っていても、まったく戦争に役に立たなくても、我が国の宰相だ。
話ぐらいは聞かなくてはならない。
戦争中だからと言っても、聞かなかったことにはできない。
数分後、そう思った自分を殴ってやろうと思った。
「戦争はケットルシーに任せて、傍観していろだと⁉」
この国の宰相は、思った以上に無能で、状況を理解してないようだ。
「はっ! 戦はランバーグ殿に任せ、シェリー姫には前線に出ないようにとの仰せです。それと、姉姫様からのお手紙です」
しかも、ご丁寧に姉上を使う用意周到さ。
なぜか姉上は、私の事をよく知っている。
そしてムチャをすると、あとでしくしくと泣きながら小言を言われる。
きっと私の側近にも、姉上の信者がいるのだろう。
まあ、私も姉上が好きなのでしょうがない。
「だがしかし、宰相ももう少しこちらの状況を……!!」
いや、奴はこの状況を分かっているのだ。
私に活躍の場を与えぬよう指示し、ライアンに手柄を取らせようというのだろう。
同数なら、ライアンに分があると思っての謀略なのだろう。
「…………よし。ケットルシーに伝令! 『我、敵の策にはまり行動不能。申し訳ないが、援護に時間がかかる』」
「姫! それでは……」
「大丈夫だ。ライアン殿はそう簡単に負けはせぬ! 我々は罠の有無を確認後、体勢を立て直し、戦況を見守る!」
これは一つの賭けだ。
ライアンにテイルは負けない……多分。
まあ、ケットルシーの敗戦の理由は宰相に追ってもらおう。
そしてテイルは、余裕綽々の顔で私の目の前に立つのだ。
「だが、勝つのは私だがな!」
「(テイル……信じていいよね?)」
私の賭けがどう出るか、それは全てテイル次第なのだ。




