四十九話
「テ、テイル! あんた……」
「(傷は大丈夫なの? もう馬に乗っても平気なの? 食事はちゃんとしてるの? 夜中に一人でトイレに行けるの?)」
今まで心配していたことが、グルグルと頭の中でコザックダンスを踊っていた。
それなのに……。
「シェリー。ちょっと太ったのか? なんだか顔が膨れてるぞ!」
心配させてる本人は、そんな事言ってニヤリと笑う。
乙女に向かってなんて言い草だろう!
……まあ、これぐらい憎まれ口を叩けるのなら、元気なのだろう。
だから、私は安堵を隠して剣を引き抜き、剣先を彼に向ける。
「テイル! 今日こそあんたを捕まえてやるんだから!」
これが私の、精一杯の安堵の言葉なのだから。
「シェリー。ちょっと太ったのか? なんだか顔が膨れてるぞ!」
思わず口からでた言葉に、自分で、
「(そんなことあるか!)」
とツッコミを入れてしまう。
そう。
そんなことあるわけがない。
寝不足と泣き腫らした目元が、彼女の小顔を大きく見せているだけだ。
「(心配かけてすまなかった!)」
喉元から出そうな言葉を飲み込むと、なぜか笑っているように見えるようだ。
だからだろうか?
彼女は安心したような、怒ったような、微妙な表情で剣を抜き剣先を俺に突きつけた。
本当は少しからかってから、俺が瀕死の時に兵を引いてくれた感謝の気持ちと、怪我が治ったことを伝えたい。
だが、そんな感情は押し殺した。
「(すまんシェリー。これが済んだら、土下座でも何でもするから、今は許してくれ!)」
心の中で謝罪を済ますと、
「テイル! 今日こそあんたを捕まえてやるんだから!」
俺は心を切り替え彼女の言葉に、口角を吊り上げて見せた。
「テイル!」
鋭い声が聞こと同時に、漆黒の馬の蹄が地面を抉った。
それに数瞬遅れてエターナ軍が動き出す。
「お、おい! いくらなんだって、お前が先頭切るな! それ以上進むと危ないぞ!」
「!! くっ!」
俺の言葉の意味を理解したのか、彼女の駆る黒馬が急停止をかけた。
だが、ギリギリのラインで止まったのは、彼女だけだった。
「「「「「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」
そして彼女の横を通り過ぎる、エターナ騎馬の叫び声。
彼女を守ろうと勢い急いだ騎士はまんまと俺たちが作った、深さ一メートル、幅一キロと言う落とし穴に落ちたのだ。
まあ、深さがあまりないから人馬共に軽症で済む程度だろうけど。
「くっ、卑怯な!」
「卑怯とか言うなよ、こっちは二倍の兵力と戦わなくちゃなんだ。あ! 落とし穴はあちこちに掘ってあるから! 進軍するなら落とし穴を見つけながらにするか、大きく迂回した方がいいよ!」
嘘だった。
こちらには、そんなに落とし穴を作る時間的余裕はないのだ。
でもこのハッタリは効くだろう。
「これでケットルシーだけに専念できる」
俺は口元だけで呟き、エターナ兵の進軍速度が落ちたことを確認すると、馬首を反転させて自軍に戻った。
ブックマーク30突破しました!
ランキングにも入らない作品に、みなさんありがとうございます!
これからクライマックスに向け頑張ります!




