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三十五話

少し長いので、二つに分けます。

「テイル! この裏切り者! 今日という今日は、その首貰い受ける!」


 ハラルが奪い返された数日後。

 そして、まさかの日曜の朝だった。


 ケットルシーとエターナの境界線上の平原で、仁王立ちして俺たちを待っていたと思われる彼女と出会う。

 待ち伏せにしては堂々としすぎる彼女に、思わず生暖かい視線を向けてしまう。


 相変わらず黒いリボンで束ねた長い銀髪は、今日も日の光を反射させ輝き、強い意志の宿ったエメラルドの瞳は、彼女の存在感をアピールする。

 それを岩陰や森の中に、隠してしまうなんて勿体無いと思ってしまうから、案外これで良いのかもしれない。


「やあ、元気そうだねシェリー」

「元気じゃないわよ! 毎日毎日あの王子たちの相手で、もううんざり……ってそんなこと今はどうでも良いでしょ!」

 どうやら彼女は、この数日の間でノリツッコミを習得したようだ。


 でも少し気になることを言ったぞ。

「おい、その王子の相手って、その……」

 思わず言葉を濁してしまう。

 いやいや、彼女に限ってそんなことは無い。

 そんなふしだらな娘に育てた覚えはない。

 もちろん向こうも、育てられた覚えなどないだろうけど……。


 そ、そんなことは無いとは思うのだが、と、とにかく確認のためだ!


「はあ……。テイル。あなたの思ってるようなエッチな事はしてないわよ! まったく、魔王軍に入ってからスケベ度が上がったんじゃないの?」

 どうやら変な事はされてないらしい。

 それに、さっきの言い草からすると王子たちにあまり良い印象は無い。


 はぁ。良かった………………。


「よし! 安心したところで、今日も勝たせてもらうよ!」

「何を安心したか知らないけど、今日こそは私が勝たせてもらうから!」

 言いながら戦意むき出しに、口の端を吊り上げ地面を蹴る彼女。

 その一蹴りでこちらとの距離を半分以上潰された。


「全軍! 絶対防御!」

 だが、冷静沈着なイリーナの声に導かれるように、大型の魔物がその身を隠すような大型の盾を持って、俺たちの前に横一列に隙間なく、しかも三重に並ぶ。


「防御魔法展開じゃ!」

 さらにシオンの指示で、盾を持つ魔物に魔法が飛び防御力を強化。


 彼女がいつ現れても良いように、対策は訓練済みなのだ。

「リュカ! 作業を急がせろ!」

「了解! みなさん! 頑張ってください!」


「「「は~い!」」」


 嵐のように襲いかかるシェリーに、魔物たちが体を張って頑張っているのに、ここだけ緊張感が薄いのは気のせいだろうか?


「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

「「「ウガァァァァァァ!」」」


 見れば台風娘の一閃で、大型の魔物。ミノタウロスやオーガたちが予想以上に派手に吹き飛ばされていく。


「くっ! 間に合うのか?」

 思わず漏れた言葉に、

「……ぬし様、わっちらも出るかえ?」

 隣に控えているシオンとイリーナも、緊張した面持ちで気持ちを戦闘モードに変えていく。


 その時、

「テイル様! 準備完了です!」


 リュカがニコリッと泥だらけの顔をこちらに向けた。


「よし! 全軍後退、他の兵は指示あるまで待機!」

 俺が声の限りに叫ぶ。


「テイル!」


 策が整ったのと、シェリーが最後の魔物たちの壁を破ったのがほぼ同時だった。

 俺と彼女の間に、倒れ込む大型の魔物たちを飛び越える様に地を蹴る。

 そして目下の俺と目が合う。


 そう。ニッコリと笑った俺とだ。


「テイル! まさか……」


 俺が笑っていることに気付いた彼女は、何をしようとしているか理解できたようだ。

 だが空中にいてはさすがの彼女も、地面に着地することしか出来なかった。


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