二十八話
「敵大将! 捕えました!」
その日の夕方。ハラルは陥落した……。
確かに無防備な所に奇襲をかけた。
兵の錬度も低い。
だが城の兵は四千いたはず。
その四千の兵が三人の娘に、わずか数時間で落とされるなんて、いったい誰が想像出来た?
しかも国王を捕えたのは、剣も持たない末の妹分リュカだ。
王子とその近衛兵は同盟の調印式のためエターナに行っていて不在だったが、首都の陥落と王の身柄の拘束でこちらの勝利は揺るがない。
「やっぱり、テイル様の言うとおり、力押しだけじゃ城は落ちませんね!」
なぜか勝利宣言を俺にではなく、イリーナとシオンにニコリッと笑って言ってるように見えるのは気のせいだろうか?
「あと、あと一歩だったのに!」
「……く、一生の不覚じゃ」
悔しがる二人だが、彼女らの活躍はまさに鬼神のごとくってやつだった。
イリーナは、強固で知られるハラルの城門を力任せに破り、シオンは断崖絶壁と呼ばれる城壁をほぼ一直線に駆け上って侵入し、敵を混乱の渦に誘った。
二人とも勝利の立役者といって過言じゃない。
だが、
「私を無視して勝負を始めたのはお二人ですよ! 後から文句言わないで下さい!」
ぴしゃりと言い放つ、いつもより凛としたリュカだったが、
「さ! さくさく事後処理をかたずけましょ!」
そう言い放った彼女は、何かを思い出したようにギクシャクと軸のずれた車輪のように動き出した。
「さあ! お待ちかねの入浴タイムです!」
占拠した王城の臨時執務室。
恐ろしいスピードで、戦後の事務処理を一段楽させたリュカがいきり立つ。
温泉の魅力に取り憑かれたような顔が、紅潮しながら俺に向けられた。
「不覚、不覚、不覚じゃ……」
ガリガリと爪で壁を削るシオン。
「あと一歩、あと一歩……」
プスプスと指で壁に穴を空けるイリーナ。
そんなに一番風呂に入りたかったのか?
正直少しウザイ。
でも、俺は長兄だから、
「なあリュカ。勝ち負けって大切だけど、今回ばかりは二人も入れてやってくれないか? 浴場も結構広いみたいだし……」
あまりの気落ちっぷりに、ついそんなことを言ってしまった。
リュカは少し残念そうに眉を寄せ、でもどこかほっとしたように笑って見せ、
「そうですね、私も勢いで言っちゃいましたけど、でも、良く考えてみたらいきなり二人っきりで温泉なんて……恥ずかしくって……」
二人っきりって……誰と?
トビもマユも魔都にいるし……。
「二人っきりって、もしかして俺がそこに入ってたりする?」
はっはっはっ、冗談だ……っと口にする前に紅顔で首肯するリュカ。
え? 長兄を大事にしてくれるのは嬉しいが……。
「ははは、家族で背中の流しっこでもするのか? ってダメだろ年齢的に!」
「はい! そうと決まれば、四人で入りましょう!」
「そうじゃな!」
俺のツッコミはイリーナとシオンの、嬉しそうな声にスルーされた。
そしてイリーナとシオンにガシッと両脇を固めると、問答無用でズリズリと引きずられていく。
「あの……でも、私……ちょっと恥ずかしいかな?」
後ろから付いて来るリュカが呟く。俺だって恥ずかしい!
家族って言ったって、なりたてだし、俺を含めて皆年頃だし……。
「そう……じゃな。勢いでやってしまったが、冷静に考えると……」
「……確かに恥ずかしいですね」
どうやらシオンとイリーナが冷静さを取り戻したらしい。
これでなんとか……。
「……それなら、ぬし様に目隠しをしてもらうってのはどうじゃ?」
いかにも名案と言ったドヤ顔のシオン。
「いいですね!」
「シオン! ナイスアイディア!」
「あ! でも、テイル様が何も見えなくて、滑る床で転がって誰かのところに倒れこんで、その……何かに触ったり……」
ああ。お決まりのってやつですね!
「じゃあ、手も縛っておきますか?」
「え? おい、なに言い出すんだ! イリーナ!」
「……いっそのこと足も縛って、抱えて連れて行けば転ばぬじゃろ!」
「名案ですシオン! あなた、今日は冴えてますね!」
「名案じゃねーよ! 迷案だよ! そんなことまでして温泉入って誰が楽しんだよ!」
「「「私たち!(わっちたち)」」」
間髪いれず、息の合った答えを返す姉妹ども。
「まあまあ、家族なんですから!」
リュカの頬が嬉しそうに緩む。
そうなの?
そういうものなの?
俺が知らないだけで、家族のスキンシップって年頃でも、こんなことまでしてそんなことするの?
抵抗空しく俺はパンいち(さすがにこれは死守した)にされ、目隠しされた上に両手両足を拘束されて、温泉に投げ込まれた……。
もちろん、数分で溺れたのは言うまでもない……。
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