二十一話
「テイル! この裏切り者!」
マモス平原に澄んだ声が響き渡る。
『シェリー現る!』
その報を聞いた俺は、彼女の騎馬が自由に動ける平原を避け森の近くに誘い出した。
皆が指示通りに動いてくれた。
これも新しい家族のおかげだろう。
そんな思いに胸をほっこりさせていると、長剣を携えた銀髪の少女が立ちふさがった。
今日も銀髪を束ねた黒いリボンが似合ってた。
「シェリー早かったね? ってか、また一人できたの? ったく……」
「あぶないだろ!」と言う言葉はなんとか飲み込んだ。
なぜなら俺と彼女は敵同士だから。
「しょ、しょうがないでしょ!……我慢できなかったんだから……」
噛み付くような言葉はなぜか次第に小さくなり、最後のほうは良く聞き取れない。
「ふん! それに、あんたらなんか私一人で十分よ!」
人が心配してるってのに、いつものツンツンな態度。
でも、なんだか機嫌は良さそう……。
「テイルさん! リュカは作戦遂行中、シオンも例の……アレを集めてすぐに来るそうです!」
でもなかった。
イリーナが姿を現し、かばうように俺の前に立った途端。
「テイル……」
彼女は一瞬だけ優しく俺に微笑みかけ……。
「その首へし折ってやる!」
途端に殺気が膨れ上がる。
彼女が馬上から姿を消したと思った次の瞬間。
俺の視線の先十数歩と言う所で黒い刀身を振り上げていた。
「魔法壁展開! コルク弾発射、目標は上空の我侭姫!」
「誰が、我侭姫よ!」
馬ごと俺を魔法の盾が包み込むと同時に、方向を変えられない空中の彼女を数十のコルクの塊が襲う。
華奢な少女は、一瞬にして絶体絶命のピンチに追い込まれたように見えた……。
が、俺は彼女に対しての牽制ぐらいにしか思っていない。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
案の定、高速で彼女を襲うコルクは、彼女の振るった剣に四散され、翼をもがれた鳥のように地面に落ち、
「せいやぁぁぁぁぁ!」
落下する勢いの一撃で、予想通り魔法壁がガラスの割れたような音をたて崩れさった。
「テイル!」
何事もなかったかのように地面に着地した彼女は、その勢いで俺に向かって牙をむいた。
それでも……目の前に死が近付いていることさえ忘れ、彼女の力強く優雅な動きに目を奪われ俺の行動が遅れてしまう。
「テイルさん! ぼっとしないで下さい!」
声がしたかと思ったら、俺は襟首をつかまれ投げ飛ばされていた。
ギンッ!
一瞬前にいた場所では、剣と剣とが火花を散らし、ぶつかり合っている。
「イリーナ……すまない」
本音を言えばもうちょっと優しくしてほしかったが、
「ぐぅ!」
魔力の盾すら砕くフィーナの一撃を受け、唸るイリーナにその言葉を飲み込んだ。
「一応、私は家族なんですから!」
いっぱいいっぱいのくせに、なぜかここで勝ち誇ったようなドヤ顔のイリーナ。
そして、
「か、家族? もしかして……き……貴様!!」
フィーナ。もちろん勘違いしたね。
「くっ!」
途端にシェリーの剣圧が増し、気圧されたイリーナが短く唸る。
「シ、シオン! 動きは止めました!」
余裕のないイリーナの声に、
「……了解じゃ!」
最小限の言葉で動きの止まったシェリーに、側面から片刃の一撃が襲う。
誰もが決まったと思うタイミング……。
もちろん俺以外。
「こんなの余裕!」
彼女はニィと口の端を吊り上げると、鍔ぜり合う剣を支点に飛び上がり、シオンの一撃を避けると同時に空中で回転。
遠心力を利用してシオンに上段からの回し蹴りを食らわした。
「シオン!」
吹き飛ばされるシオンを見て、イリーナの剣の力が一瞬弱まった。
刹那。
「はぁぁぁぁぁ!」
その隙を逃さず、シェリーの剣が力任せにイリーナを吹き飛ばす。
魔王軍の猛将イリーナ、シオンの二人を相手に、日曜でもないのに互角以上の戦いを繰り広げるシェリー。
「さすがに一筋縄じゃいかないか……」
リュカが帰ってくるまで、もう少し時間を稼ぎたい所なんだが……。
「う、くっ!」
俺の横に地面を削りながら吹き飛ばされたシオンが、、眉を寄せ立ち上がる。
「シオン! 大丈夫か?」
受け身を取った彼女だが、起き上がりこちらを向く瞳にも苦痛の色が見えていた。
イリーナとシオンを助けようとする兵士たちも、フィーナの圧倒的な攻撃力の前に手出し出来ないでいる。
もう少し、時間を稼ぎたかったが……仕方がない。
「シオン!」
それだけで彼女サッと身を見るがえすと、部隊の後ろに姿を消す。
こんな時だが、家族になったばかりだと言うのに、分かりあえたような気がしてなんだか家族っぽくって嬉しかった。
「しかし、こんなもの何に使うでありんす?」
数秒もたたずに彼女が透明な箱を持って現れる。
俺はそれに悪戯っ子の笑顔を見せるだけで、シェリーの方に視線を向けた。
ブックマークが二けたになりました!
ランキング入りされている方々にはかないませんが、
うれしいですね!




