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十九話

ちょっと長いです。

「ぬし様、キッチリ教えてくれるのじゃろ?」

 どっぷり日も沈んだ草原の端、シェリーを振り切った俺たちは森を背に立てられた陣地まで馬を走らせた。

 もちろん、ベーゼ将軍の部隊は可能な限り助けた。

 そしてホッと一息つく間もなく、下馬したシオンが詰め寄ってきた。

「はぁはぁ、お前、自分が……はぁはぁ、はぁ」

 シェリーの攻撃を逃げまくった後に、馬での全力逃走。

 イリーナとシオンは平然としているが、リュカだって……。

「あ! 事務仕事残ってたんだ!」

 軽快に走っていくリュカ……俺、そんなに体力ないのか?

 呆然と彼女を見送る俺はイリーナに有無を言わさずに襟をつかまれ、仮設テントに連れ込まれる。

「さあ、サクサク白状して下さい!」

「……今後の作戦内容と、わっちらのテンションに関わる問題じゃ。正直に言った方が身のためじゃぞ!」

 作戦会議用の長机越しに腰掛けたイリーナとシオンに詰め寄られる

 でも、俺は空腹で喉もカラカラ。


「お待たせしました!」

 救世主のように現れたのはリュカ。

 その手に飲み物や軽食を携えて!

「それにしてもリュカ。十分もたっていないけど、もう事務処理終ったの?」

 リュカの持ってきた飲み物で喉を潤し、なんとか一息ついた所で疑問を投げかける。

「はい! テイル様の過去のお話が聞けると言うことなので、最速で終わらせました!」

 笑顔で書類を渡すリュカ……。

 ほんとに全て出来てる!

 そして、にじり寄る三対の瞳に、俺も観念した。

「……っとに、そんな大げさな話じゃないのに……大して面白くないぞ?」

 彼女らはかまわないと言わんばかりに、コクコクと頷くのももどかしいように机に身を乗り出した。

 俺はため息一つ、渋々と過去を語り出したのだ……。


 彼女と初めて会ったのは……確か、七歳になったころだろうか?

 場所はエターナの国立図書館。

 国立と言っても一般市民に開放されたものでは無く、主に貴族の坊ちゃん嬢ちゃんが、家庭教師と一緒にお勉強しにくる場所だ。

 当時、読み書きを何とか独学で覚えた俺は、その中にあるといわれる大量の本に興味を持ち、国民の税金で作ったものなのに、国民である俺たち一般市民が入れないのはおかしい! と、毎日のように門番のおっさんに食って掛かっていた生意気なガキだった。


 そんなある日。

「あんた……ここに入りたいの?」

「そうだ…………よ…………」

 いつものおっさんと口論していた俺は、その声に威勢よく振り向いた。

 その先に女神がいた。

 背中まで届きそうな長い銀色の髪。

 陶器かと思うほどきめ細かい白肌。

 まばゆいばかりに強い意思を持つ、緋色の瞳。

 いままで俺を適当にあしらっていた門番が、彼女を見て身を正し最敬礼をした。

 かなり位の高い、貴族の嬢ちゃんだと思った。

「入れてくれるのか? でも、三弁回ってわんとか靴にキスしろとか、しないからな!」

 その瞳に吸い込まれるのを恐れた俺は、視線を逸らしわざと悪態をつく。

 以前にも何度かあった。

 人の払った税金で暮らしてるくせに、崇めろだの感謝を込めて土下座しろだの言って来る、綺麗ななりをした気まぐれ貴族たち。

 そんな俺に対し、

「なにを言っているの? ここは国民のお金で作った場所よ。国民のあなたは自由に出入りしていいのではないかしら?」

 只々、素直に首を傾げる少女。

 でも、それも一枚の絵のように様になっていた。

「お、おう! あたりまえだ……じゃぁ、入るからな!」

 俺は彼女から視線を逸らしたまま、ズカズカと図書館に入る。


「……ねえ、あなた」

 ああ。やっぱり。

 呼び止められ、きっとさっきのは冗談で、すぐに出ていけと言われると思った。

 だが彼女がかけた言葉は、意外なものだった。

「私、ここで勉強してるんだけど一緒にやらない?」

「へ……?」

 冗談のような彼女の言葉。

 でも、その日から俺の日常が激変した。

 貴族でもない俺が、何とか読み書きできる程度の俺が、今や図書館の書物を好きなだけ読めたのだ。

 しかも高級家庭教師付きでだ。

 彼女がこの国の王女だと言う事は、結構早くに分かった。

 が、それでも態度を変えない頑固な俺を、彼女は気持ち良く迎えてくれた。


「あんた、私を守る騎士にならない?」

 そう言われたのは、図書館の本をほぼ読み終えた、彼女と会って五年目の冬だった。

「騎士? 俺が?」

「そう! 私を守る騎士に!」

 珍しく彼女が興奮してたのか、色白の頬を真っ赤に染めて俺に言った。

「お前の騎士になると、俺になんか良い事あるのか? いや、そもそもお前、守ってもらう必要あるのか?」

 今思えば、世間知らずの俺は、かなり凄い発言をした。

 いや、だって、あの頃から彼女の強さはハンパなかったからだ。

「んん~~。じゃぁ、私の騎士になったら、私の秘密を教えてあげる! 誰も知らない私だけの秘密を!」

 二人だけの秘密と言う言葉になんだか、とても胸が熱くなった単純な俺。

「別にいいけど?」

 照れくさくてカツカツと綺麗な床を踵で叩きながら、気の無い返事をしたのを覚えている。

 でも、その一言で再び俺の人生が変わった。

 その時から彼女の護衛兼、付き人が俺の職業となったのだ。


 彼女と一緒に剣の訓練や、我儘に付き合わされるのは結構ハードだったけど、彼女と一緒にいる時間が増えて嬉しかった。

 恐ろしい量の買い物に付き合わされたり、夜中に叩き起こされ真夜中の散歩につき合わされたりしたが、普通では考えられないほどの体験をした。


 そんな日々が続き、いつの間にか俺は……彼女に恋をしていた……。

 そのころ俺は、姫の腰ぎんちゃくとしてだが、そこそこ有名な戦略家として名は通っていたが、身分違いで、報われない恋だと言うのも分かっていた。

 何度も何度も、自分にそう言い聞かせた。

『そんなのまったく建設的な考えじゃない』戦略家の考えることではないと……。

 でも、それを分かった上で……俺の心は、気持ちは止まらなかった。

 合理的ではない、そもそも彼女が、俺の事をどう思っているのかすらわからないのに、思考のループが、一日の大半を占め始めた。

 そんなころ。


「あ、テイル! あんた、私と婚約したから」

『今日は馬で遠乗りにいくから』みたいな軽いノリで、頬を染めてそっぽを向く彼女に、最初何を言われたのかまったく意味が理解できなかった。

 数分間、いや、もしかしたら数秒間だったのか?

 とにかく停止した脳が再び動き出したときには……。

「へぇ、へええぇぇ……そう。……ま、べ、べべ別に、いいいいいいんじゃない」

 思い切りどもって、噛み倒して返事をしたのを憶えている。


 その後の数ヶ月は、本当に幸せだった。

 彼女と一緒に舞踏会でダンスをし、どっちが先に足を踏んだかで喧嘩をした。

 もちろん、口喧嘩では俺が勝ち腕力で負けた。

 そして、そのまま城から抜け出して、二人だけの秘密の湖に行ったり城下町の安酒場で再び喧嘩したりした。

 もちろん、婚約の話が城下町に駆け巡るころには、彼女の婚約者候補だった貴族、その取り巻きからの嫌味&嫌がらせを受けたが、そんなものどこ吹く風ってやつだった。

 俺は彼女の隣に居れればそれで良かったのだ。


 しかし、幸福だった時間は突然、終わりを告げる……。


「あんたなんか大嫌い! 今すぐ出てって!」

 今考えても、彼女が怒り出した理由が見当もつかない。

 確か、彼女の誕生パーティーを、彼女付のメイドさんと話してた時だ。

 サプライズパーティーにしたかったので、彼女に内緒で進めていたのだがその打ち合わせしている所を、彼女に見つかってしまったのだ。

 最初はサプライズに失敗した俺に失望して怒っただけかと思ったが、彼女と喧嘩した翌日から俺は城への入場を拒否された。

 今日はダメでも明日は?

 そんなこと考えながら数日間、毎日城門に通っていた。


「あら? 確かあれ、姫様のお気に入りの平民……あらやだ、もう捨てられたんですの? 姫様もあんがい飽きっぽいのですわね?」


「なんだ? 姫様の使い古しのオモチャがまだこの町にいるのか? 姫様もとっとと国外に捨ててしまえばいいのに!」


 彼女との大喧嘩の噂を聞いた貴族が、こぞって俺の周囲に現れては何か言っては機嫌よく消えていく……。

 何を言われたかその辺の記憶は曖昧だ。

 例え覚えてもいても彼女の言葉以外無意味だったから……。


 そして、喧嘩してから五日目の夜。

「テイル! お前を反逆罪で逮捕する!」

 夕食を済まし明日も早くから城に行くため、ベッドに潜り込もうとした時だった。

 家の扉を蹴り破った武装した兵士は、逮捕なんて言葉が無意味かのように殺気をみなぎらせ、抜刀してなだれ込んで来た。

「貴様! よくも姫様を!」

 言いながら襲い掛かってくる兵士、俺は事情も聴けずに裏口から着の身着のままで逃げだした。

 信じられない事に俺には全く身に覚えのない、理不尽な理由で抹殺命令が出ていたらしい……。


 悔しかった……。

 悲しかった……。

 寂しかった……。


 この国を出て行かなければいけない事。

 彼女に必要とされなかった事。

 彼女にもう会えない事。

 家族になれなかった事。


 生きる気力も無いまま、でも、本能的に生を求めた俺の体は国境を越え、いつの間にか魔王領の森に入っていた……。


「それから、あの魔王様に捕まって、ほぼ強制的に魔王軍に入隊させられてからの俺はお前らの知っての通りだ!」

 軽食を食べ終え飲み物も底を尽きかけたころ、俺の話も終わる。

「テイル様、がわいぞずぎでずぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 溜まっていたものを吐き出すように、泣きはじめるリュカ。

 イリーナとシオンはと言うと……うつむいたまま、ピクリともしな……くも無かった。


 ガタンッ!


 二人ともほぼ同時に、勢いよく座っていた椅子から立ち上がり。

「ちょっと、わっち、エターナ本国まで散歩に行って来るのじゃ!」

「奇遇ですねシオン。私も今、行こうと思っていたんです!」

 なんだか、紫色した毒々しい殺気を放つ二人。

「なんで? 今帰って来たばかりなのに?」

 意味が分からず聞き返す。

「なんだか、無性に敵の貴族……特に王女の首を取りたくなりました!」

「……わっちも同感じゃ!」

「私も女帝ティファに、エターナの貴族だけは、全員処刑できるよう進言します!」

 いきなりの殺気立つ彼女たちに驚いた。

 でも、なぜか嬉しかった。

 もちろんフィーナに危害を加えてもらいたくはないが、

「わっちの大切なぬし様を、過去とはいえここまで愚弄した者に、それ相応の代償を払ってもらうのじゃ!」

「そうです! 私の王子様にそんなことした奴には、神の鉄槌を喰らわせてやります!」


「「あ!」」


 興奮気味に出した自身の言葉に……しかし、冷静になった二人が気まずそうに視線を泳がす。

「わ、私も! 何もお役に立てないかもですけど、なんかお役に立ちたいです!」

 そればかりか、目を腫らしたままのリュカまで立ち上がる始末。

「ははは。なんか、嬉しいね?」

 俺も照れ気味に頬をかき笑う。

「シオン。イリーナ。リュカ。もしお前らが、今の俺の話を聞いて怒ってるなら…………ありがとう」

 自分でも驚くほど素直に言葉が出た。

「でも、ただ闇雲に突っ込んでも勝てる相手じゃない、お前たちを極力危険な目に遭わせないよう、楽して勝つのが俺の役目だからな!」


「テイル様……」

「テイルさん……」

「ぬし様……」


 三人が、俺の名を呟く。

「ははっ、俺って結構鈍感なのかな? お前たちの気持ちに気付けなくて……」

 なんだか言葉にすると照れくさいが、言葉にしないと伝わらないこともある。


「いや、私も初めてのことなんで、この気持ち、どう表現していいか……」

「うん、最初は俺、他人以下の亡命者だったしな」

 珍しく、しどろもどろのイリーナに、出来るだけ優しく微笑みかける。


「……わっちも……大勢のコブつきじゃから……」

「うん、でもみんな可愛い奴らじゃん」

 視線を伏せて歯切れの悪いシオンが、なんだか愛おしい。


「私、お二人みたいに、綺麗じゃないし、強くないし……」

「リュカも十分可愛いよ! それに書類整理、情報処理も頑張ってくれてるだろ?」

 モジモジするリュカも可愛い。


 三人とも頬を染めて照れているが、今の俺の顔もそうなのだろう。

 頬に手を当てると、やはり熱を帯びていた。


「そ……それで……その……だ、誰が一番なのじゃ?」

 しどろもどろの態度のシオンが、これ以上ないぐらい緊張した面持ちで囁く。


「は? そんなの決められないよ! みんな好きだよ!」


 ビキッ!


 ん? 今何か空間にひびが入ったような音がした?

「へ? テイルさん! それはハーレム狙い、ってことですか?」

 おかしなことを言い出すイリーナ。

「何言ってんだよイリーナ。家族の間で一番、二番なんて、存在しないだろ? みんな家族なんだから、みんな大好きだよ!」


 言ってやった!

 なんかとても恥ずかしい。

 多分、これが家族愛ってやつなのだろう。

 三人も多少引きつった笑顔で硬直したまま動かない。


 ビキッビキッビキッビキッ!


 んあ! なに? この空間全体が壊れるような破壊音?

「わ、わっちゃ、ちょっと外の空気を吸ってくるのじゃ……」

 緊張しすぎたのか?

 おぼつかない足取りで外に出るシオン。

「ああ、私も……」

「私も行きます……」

 イリーナもリュカも、ふらふらしながらも外に出てってしまう。

「いや、でもなんか、突然家族って言われると……結構恥かしいな……」

 テントの中で一人頭をガシガシとかく。

 今、顔合わせると恥ずかしいので、もう少し立ったら俺も外に出て、このほてった顔を冷やそうと思った。


「なんでこうなったんですか!」

 テントからかなり離れた森の中。

 痺れを切らしたイリーナが、もう限界とばかりに夜空に向かって叫んだ。

「テイルさん私たちの事、家族って言ってましたよ! 家族って! なんか飛んでますよね? 初めてのデートとか初めて手を繋ぐとか、初めての……その他色々とか……」

 その言葉の先の展開を思い浮かべたのか、頬を赤く染めるイリーナ。


「その全てが家族と言う名の元。甘酸っぱいものでは無い、暖かい団らんになって……しかもその他色々なんて一生無いのじゃ!」

「だから、なんでこうなったんですか!」

 噛付くようにシオンに詰め寄るイリーナ。

「わっちに言うなんし! わっちだって残念を通り越して、思考が停止する位驚いているのじゃ!」

 負けじとシオンも、珍しく大きな声を出す。

「シオンが子供連れて、テイルさんの家に入ったから、父性本能くすぐられたんじゃないんですか?」

「ぬしだって、我が部隊は家族だ! なんて言っとったじゃろ!」

 ギリギリとおでこをくっつけあって、ガン付け合う二人。

 でもそこに、

「あの……私は……今は、それでもいいかなって」

 罵りあう二人の横でポツリと、だが、はっきりとリュカが呟いた。


「いえ、それは私もお二人と同じ気持ちですが……なんて言うか……両親の暖かさもあまり知らないで、最愛の婚約者さんにも裏切られて……そんなテイル様に、今は家族の暖かさから感じて欲しいかなって……」

 モジモジと呟くリュカの言葉に、二人とも毒気を抜かれ黙り込む。


「えへ。ちょっと偉そうですよね?」

 二人の視線を受け、テレテレと笑う彼女にを見て、

「……そうじゃな。他人だった昨日より、距離が近付いたと思えば……」

「そうです! 近くにいれば、攻め手はいくらでもあるかもしれませんしね!」

 少し冷静になって考え始める二人。

「……うむ。膳は急げじゃ、今度ぬし様のベッドの下に、姉萌え本とか……」

「私は、幼馴染……かな? あれ? これって家族? まあいいですよね」

「では、私は妹萌でお願いします!」


「「「……ふふふふふふふふふふふふふ」」」


 三人が、顔を見合わせ笑う。

 静寂を守る静かな森に、楽しそうに、少し気味悪い声が響いた……。


おかしい。なぜかヒロインが一番目立たない……。

すみませんが、投稿スピードを数日に一話ペースに落とします。


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