↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/75

十八話

ついにテイルとシェリーが対面!


「うわぁ! やっぱ、やってるよ!」

 シェリーがこちらの士気を下げるため、半裸のベーゼを掲げている。

 こちらも予定通り森に兵を隠し、奴の醜態を間近で見ようツアー実行中なのだが……。

 奴のあの姿を見た部隊の士気は、ガタ落ちだろう。

 後は俺の部隊が退却を誘導し、優しく引き込むだけで戦力が倍増すると言う完璧な作戦は終了するはず……。

 が、なぜかベーゼの満足げな顔が俺をイラつかせた。

 彼女の手で、奴が気持ちよくなっている?

 そう思うと、なぜかもやもやとした気持ちが俺の心を支配する。

 そして、

「全軍突撃準備! ベーゼ将軍を救出する!」

「「「えええぇぇぇ!?」」」

 突然の命令に声を合わせる三人。

 いや俺だってほんとは、小一時間ほど奴の赤裸々な姿を爆笑してから、見捨てるき満々だった。

 だが、なんだか無性にイラつくので即座に作戦を変更したのだ。

 それにまだシェリーは一人。

 敵の援軍が来るまで数十分はかかるはずだ。

 いくら彼女にあの力があっても勝算はあると思う。

 俺は彼女らに止められる前に馬に飛び乗り、隠れていた木陰から単身飛び出した。


「シェリー!」


 混乱の中、単騎で向かってくる俺に気付き、緋色の双眼がこちらに向けられた瞬間。


 俺は息を飲んだ。


 あの時から少し伸びた銀色の髪、当たり前だが少しだけ大人びた顔立ちに、小さいけどスッと通った鼻筋、その下には柔らかそうな桃色の唇。

 不意を突かれ怯む大きな瞳が、俺を確認しさらに見開かれる。

「うそ……テイル……」

 懐かしいその瞳に、声に、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。

「よう! 久しぶり、シェリー」

 俺は荒ぶる感情を出来るだけ押し殺し、すぐに抱きしめたいのを必死で我慢して平静を装う。

「あら、裏切り者のあなたが、よく私の前に顔を見せられたものね!」

 彼女も一瞬動揺したが、すぐにその表情を冷たく正す。

「私の前に現れたってことは、その首、差し出す準備が整ったってこと?」

 不敵に笑う彼女は、やはり二年前より魅力的で……思わず首を差し出しそうになる。

「い……いや、俺は、俺を裏切ったお前と、エターナの連中を見返すため、そいつらを足元にひれ伏せるため、ここにいる。首はやれん!」

 えらいぞ俺! なんとか乗り切った!

「裏切った? 裏切ったのはあんたの方でしょ!」

 ん? 俺が裏切った?

 なぜか彼女との話がかみ合わない。

「私を裏切って、さらにエターナに復讐? そのためにこの豚が必要なの?」

 彼女が豚の吊るされた槍を持ちながら器用に下馬する。

 その揺れで頭上から表現しづらい声が聞こえて……気分が悪い。

「いや、いらん……。いらんが、その槍は放せ!」

 彼女は昔と変わらない悪戯するときの……でも引き込まれそうな、魅力的で強気な笑顔を見せる。


「おうふぅぅ」


 でも、その頭上に薄気味悪い笑顔の豚がいた。

「シェリー! いいからその気色の悪い豚をさっさと離せ!」

「いやよ! せっかく捕まえた敵国の将軍、なんで手放さなきゃならないのよ!」

「いや、解放しなくてもいいから、とにかくそれから手を離せつってんだよ!」

「あんたのことだから、きっとなんかずるい手考えてるんでしょ!」

 なったく、頑固なのはあの時のままか。

「そんなにこいつが大事なの! 私を捨ててまで守りたいものなの!」

「そんなわけあるか! お前とその豚、比べる気もおきねーよ!」

 勢い? 本心? 理解できない感情が口を突くと、

「え? そうなの……そう、それじゃぁ、返してあげてもいいかな……」

 頬を染め、彼女がなんだか素直になった。

 が、彼女の槍を持つ力が緩んだ瞬間。


「うほぉぉぉぉ!」


 その槍の先にぶら下がっていた巨大な肉の塊が、訳のわからん雄たけびを上げて、俺の頭上に落ちてくる。


「「危ない!」」

 倒れて来る槍の柄を斬る二筋の剣戟。

 飛び出したイリーナとシオンによって支点を失い、軌道を変えられた肉の塊は明後日の方向に…………。

 落ちなかった。

 勢いのついた塊は支点をなくしても、重力と言うものに引き付けられ俺の頭上に落下してきた。

 シェリーに集中していた俺は、ただ、それが降り落ちてくるのを見つめる事しか出来なかった…………。


「信じられないかもしれないですが、彼は魔王軍の……我が部隊の大将なんです。そう易々と殺させるわけにはいきません!」

「……右に同じじゃ」


「ぐへっ!」


 助けたと思い込み、決め台詞を言う二人の後ろで、豚に潰されもがき苦しむ俺。

 分かっている。

 自分でもシュールな光景だと充分思っている。

「…………よくも私たちの大将を!」

「…………覚悟はいいかえ!」

 一瞬こちらを向いて、何事もなかったように復讐に瞳を燃やす二人。

 そして、なぜか彼女たちが視界に入った途端、シェリーの殺気が倍増した。

「まったく、あんたは国を出て行ったと思ったら女をはべらかして……ハーレム? ハーレム王気取りなの?」

 そしてなぜかキレるシェリー。

「俺の……言うことまったく聞かないが一応部下だ! そんなんで俺はハーレム王なのかよ?」

 なんとか肉の塊から這い出して抗議する。

「あんたの場合、顔じゃ無理だから権力を使うしかないんじゃないの?」

 恐ろしく現実的な……いや。酷い言い草。

「そんなことないやい! なったく、何様だよお前!」

「王女様!」

 二年前より確実に成長した胸をはって、はっきり言いやがった!


 いや……それにしても、俺ってそんなにモテないのか?

「ぬし様は、そんなにモテないことも無くも無いわけでは無いでありんす!」

 シオンがフォロー? らしきものを入れてくれる。


 でも、それだけでは終わらなかった。

「現にわっちとぬし様は一緒の家に住んでいるのじゃ!」

「な!?」

 不意の言葉に衝撃を受けるシェリー。

「あ! それなら私もですね!」

「な⁉ な! な!」

 瞳を見開き、信じられないといった表情で彼女らと俺を交互に見るシェリー。

 だが、彼女らの暴走は止まらない。

「ついでに言えばわっちとぬし様の住む家には、十歳を頭に十三人の子供がおるのじゃ」

 ドヤ顔のシオン。

「いや、ホントの事だけど! なんでそんな誤解を招くような言い……」

「……テイル……殺す!」

 色白の肌を真っ赤に染め、一気に殺気を放出させたシェリーが、俺に向かって一直線に駆けてくる。

「うわ! ちょっと待て! 俺の話を聞け!」

「国から逃げて、たった二年で二人の妻と十三人の子供を作っていたなんて!」

「誤解過ぎるだろそれ! そもそもこいつら妻でもなんでもないし!」


「「なんでも……ない?」」


 シオンとイリーナの周囲から、冷たい殺気みたいなものを感じるが、シェリーの剣から逃げるので精一杯で、それどころではない。

 だが、それが致命傷に繋がった。


「ぬし様! わっちとの蜜月は遊びだったのかえ!」

「シオン、なんでお前は、そんな不機嫌そうに火に油を注ぐ!」


「酷いです! 私なんか親に勘当までされて出てきたのに。死んじゃえ! バカ!」

「お前呼びもしないのに来たよね? 両親、嬉しそうに見送ってくれたって、言ってたよね!」


 彼女らの言葉で、シェリーの剣筋が益々鋭くなっているのが分かる。

 その彼女の攻撃から逃げながらのツッコミは正直きつい。

「シェリー良く考えろ! おかしいと思わないか? 俺が出て行って、たった二年で子供が十三才って!」

 彼女の剣戟を、髪の毛数本の犠牲でかわし説得を試みるが、

「テイル! そんな前から浮気を!」

「違うだろ! その子が生まれた時、俺は四歳だぞ! どう浮気しろってんだ!」

「問答無用!」

「うわあ! 重要なところで考えるの放棄するなよ!」


「テイル様! 敵の援軍が来ます!」

 二年前に鍛えられた逃げ足で、なんとかシェリーの攻撃から距離を取った俺に部隊を後退させるため、状況を知らないリュカが走り帰ってきた。

 時間切れだ。

 まあ久しぶりに彼女に会えたし、話せたし、彼女の手からあの豚を離せたんだから、作戦はほぼ成功だろう。

「よし、撤収!」

「あれ、ベーゼの救出はどうするんです?」

「んん? もういいや!」

 イリーナに、あっさり十二将の一人を切り捨てることを告げた。

 だってあいつ重たそうだし、助けたってあいつの居場所、もうないだろうし……。


「……今回の作戦て、何か意味があったのかえ?」

 鋭いとこを突いて来るシオン。

 今回の作戦は完全に俺の私欲で動いていたのだ。

「敵の実力を肌で感じたろ? それが今回の作戦の重要ポイントだよ!」

 でも、俺は心の動揺を隠し平然と言い放つ。

「そうなのかえ?」

「そうみたい……ですね?」

 俺の完璧な屁理屈に、疑問符をつける二人。

「勝手に話し進めないでよ! 私があんたを手放すと思ってるの!」

「へ?」

 俺たちの前に立ちはだかるシェリーの言葉を、脳が勝手に履き違え頬が赤くなるのを感じた。

「馬鹿! 違うわよ馬鹿! 裏切り者を捕まえるって意味よ……ばか」

 頬を染めて視線を逸らす彼女に、ほんの少しの隙が生まれた。


「今だ!」

 俺の合図で一斉に後ろの茂みに飛び込み、待たせていた馬にまたがる。

「な! 待ちなさいテイル! 逃げるつもり!」

「うん! 逃げる! お前の相手はまた今度な!」

 軽快な言葉とは裏腹に、後ろ髪引かれる思いで馬にまたがり馬の腹を蹴る。

「こら~! まて、テイル~!」

 彼女の叫び声を耳に残し、俺はそれを振り切るように馬のスピードを上げた。


ブックマークありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。