十六話
やっとメインヒロイン登場です!
「テイルさん! どういうことです、これは!」
マモス平原を見下ろす小高い丘での戦況を見るなり、イリーナが俺に噛付いて来た。
まあ、どうひいき目に見ても二千のエターナ軍が、四千のベーゼの部隊に散々にやられているように見えた。
「これでベーゼに勝たれては、困ったことになるのじゃろ?」
シオンが黒い瞳で俺を見据えている。
「どうするんですか! テイル様!」
困った顔のリュカ。
だが、彼女たちの不安をよそに、俺はエターナ軍の後方に視線を向ける。
そして、
「…………来た!」
俺の呟きに彼女たちの顔が、俺の視線の先へと動く。
「……あれは……騎士?」
遠目からでもわかる銀色の長髪、それを黒いリボン……あ! あれって、俺が始めてプレゼントしたもの……。
まだ使ってたんだ――で結び、黒い巨馬にまたがった小柄な騎士が勢いづいたベーゼの部隊に一直線に突っ込んでいく。
「え? え? なんて無茶しているんですか? あの人は!」
自分も数百の敵に突っ込んだことのある、イリーナでさえ無謀だと声を上げる。
「大丈夫なんですか? あの騎士さん」
「まず無事では済まぬじゃろ。ぬし様、エターナはあの騎士を生贄にして、部隊を立て直すつもりなのかえ?」
「まあ、黙って見てなって!」
俺は自信ありありでほくそ笑む。
敵陣まであと数百メートルに近付くと、彼女は見覚えのある黒い刀身を引き抜き、天に高々と掲げた。
「来るぞ! 目をそらすなよ!」
遠目からでも彼女を確認して嬉しくなったのか? 声がやや大きくなってしまった。
そして、
ドンッ!
俺たちのいる場所からでも重く鈍い音が腹に響き、戦場では魔物が紙ふぶきのように舞った。
「し……じんじられぬ……ぬし様! あれ! あそこで何が起こっておるのじゃ!」
「飛びましたよ! いろんな魔物が吹き飛びましたよ!」
「トビ、マユ、お姉ちゃん、今、信じられないもの……見たよ!」
自分の予想外のもの見ると、人(魔物)は無口になる……が、それ以上のものを見ると人(魔物)は饒舌になることが分かった。
「この大陸は神が六日間で作り一日休まれた。その神を気遣い大陸を作ってくれたことに感謝した一人の女性が、神の目覚めまで身辺を守ると進言した。その言葉に神は喜び、彼女に自分の力の一部を一週間のうち、一日だけ貸し与えたと言う」
大陸にある伝承を俺が暗唱してみせる。
「も、もしかしてあの人、神の守護者ファルサラ一族の末裔ですか!」
さすが教会関係者。イリーナが答えを叩き出した。
「そ。彼女は今日――いや、いつも強いけど、この日曜日って日だけは数倍の力を発揮できる」
言いながらも、彼女を遠目からつい追ってしまう。
「噂では聞いておったが、実在するとは……」
どうやらシオンも知っていたらしい。リュカは首をかしげている。
「あれが、エターナの守護女神。白銀の戦女神シェリーだ」
近くで見れないのが残念だ。
二年たって、また一段と綺麗になっているかな?
病気とかしてないかな?
他に好きな人が出来ちまったかな?
なんてことが頭の中で渦巻いているが、何とか口に出さず胸の中だけで押さえ込む。
「隔世遺伝らしい。前回現れたのは百年前だそうだ」
彼女がそう言ってた。
「イリーナ、悪いが部隊をこっちまで連れて来てくれないか? 大急ぎで!」
未だ呆然としている彼女に、部隊の移動を頼む。
「別にいいけですど……戦うんですか!」
あの圧倒的な攻撃力に怯む気配も見せず、うちの無鉄砲少将が目をらんらんと輝かせて言う。
「悪いが今日はやらない。あと数時間でベーゼの部隊が落ちるから、敗残兵をまとめて撤退する」
さすがにあれを見た後じゃ、士気も上がらないだろう。
部隊にはそれ以外のものを見せるつもりだ。
「ちぇ! やらないんですか!」
不満げなイリーナに。
「そんなにぶーたれるな、早く戻ってくれば面白いものが見れるぞ!」
「ほんとですか!」
「ほんとほんと」
「じゃぁ、行って来ます!」
スタタッと走り出すイリーナ。
なんか、前より素直になったのは気のせいか?
あっという間に彼女の姿が消ていた。
「……しかし、本当にあんな化け物と戦うのかえ?」
不意に漏れたシオンの言葉に、
「化け物言うな! シェリーだって、普段はお前らと変わらない普通の女の子なんだ!」
つい口を滑らせてしまった。
「……シェリー……女の子……さっきからずいぶん詳しそうじゃの?」
ずいっとシオンの顔が近寄る。
「顔近い……。その件に関しては、黙秘権を行使させてもらいたいのだけど……」
「……却下じゃ!」
黒髪の少女に一蹴される。
どうやら魔王軍だけに、俺には人権というものは存在しないらしい。
「別に話してもいいけど……少し長くなるから落ち着いてからでいいか? どうせイリーナも聞きたがるだろうし」
「……ふむ。約束じゃぞ!」
俺の譲歩案にシオンも渋々距離をもどす。
「それじゃぁ、部隊が隠れられる所まで移動しようか」
そうして俺は、二年前まで彼女とよく遊びに行った森の奥へと姿を消した。




