十三話
将軍であり貴族様を殴った俺の罰は、わずか二日間の独房入りだけで済んだ。
どうやらティファ陛下の計らいで、今回の件は不問と言う事になったらしい。
ただ二日間の独房暮らしは将軍を殴った罰では無く、『私のいない場所で、そんな面白いことをした罪』だそうだ。
そんなんで軍の規律は大丈夫なのか?
まあ、あの魔王様なら大丈夫なのだろう。
多分…………。
そんな訳で俺は自分の屋敷に戻っていた。
「ふぁぁぁぁぁぁぁぁ。やっぱ我が家のベッドは気持ちいい」
独房から戻って二日ぶりに風呂に入り(子供たちが準備ていてくれた)清潔感漂うベッドにダイブした。
多分これも、子供たちが干しておいてくれたのだろう。
顔をうずめた枕から、お日様の匂いがした。
「……お勤め、ご苦労様なのじゃ」
いつの間に部屋に入ってきたのか、シオンの声が聞こえた。
どんな用かは知らないが、彼女を適当にあしらってこの柔らかく心地よいベッドで、今日はこのまま泥のように寝ようと決意する。
「テイルさん! あの豚を殴るなら、なんで私にも声を掛けてくれないんですか!」
「イリーナ。お前が混ざったら、その時点で血の雨が降るだろ?」
会場が血の海になるのが、容易に想像でき…………ん?
「ってか、なんでイリーナまでいるんだ?」
ガバリッと半身を起こすと、そのには扉の前に立つシオンとイリーナ。
まったく違和感が無かった。
「え! いや、その…………シオンも住むみたいですし、なんか先越され……う! ゴホッゴホッ…………テイルさんがシオンに不埒なことを、しないように見張るために、私もここに住もうかと思ったんです…………ダメですか?」
なんだか、思いっきり訳の分からない理屈。
「お前、仮にも貴族だし女の子なんだから不味いだろ? その……いろいろと……」
俺の心配をよそに、彼女は不思議そうに首を傾げる。
「別に問題ないですよ。私が気になる男の人がいるから一緒に住んでもっと理解し合いたいと言ったら、母上はご馳走作って喜んでくれ、父なんか感激のあまり部屋に閉じこもったまま、いつもは飲まないワインをがぶ飲みして泣きながら喜んでくれましたよ?」
「何やってんの父上! そこはガツンと言って、娘を大事にしようよ! 変な虫つかないように大切にしろよ! それにお前の母上どんだけオープンなんだよ? 娘が悪い男につかまって、ボロボロになって帰ってきても、笑っていられるのかよ!」
一気にツッコムが、当のイリーナは『何わけの分からないこと言ってんの?』というように首を傾げるだけ……。
疲れた。
全身を高波のような疲労感が襲う。
「……ずいぶん疲ていそうじゃの?」
シオンの優しい言葉。
でも俺を一番疲れさせているのは誰でしょう?
「それじゃあ、私たちがテイルさんを癒しましょう!」
「いや、そんなのいいから帰れ! そして俺を寝かせろ!」
俺の力無い抗議はスルーされた。
「待つのじゃイリーナ!」
そんなイリーナの腕を取りシオンが言葉をひそめる。
「それにしても……いきなり積極的過ぎんかの」
「駄目ですよシオン。テイルさんは、上に超が一ダースつくほどの、鈍感体質なんですから、多少強引にいかないと気付いてもらえませんよ!」
聞こえはしなかったが、バカにされているのは雰囲気で分かった。
「ふむ。確かに一理ある」
腕を組み数秒考え。
「よし。では、わっちはデレじゃな」とシオン。
「じゃ、私はツンですね」とイリーナ。
何が始まるのかとボ~ッとした頭で、事の成り行きを見守っていると、シオンが無表情だが彫刻のように整った顔をこちらに向け、イリーナがゴミ虫でも見るような瞳をこちらに向けてきた。
そして……。
「きゃー! ぬし様! 早くこっちにこりゃり」(シオン棒読み)
「近寄らないで! このゲスが!」(イリーナ迫真の演技)
「ぬし様が側にいないと、淋しいのじゃ!」(シオン棒読み)
「私は淋しくありません! むしろ離れてください! この便所コオロギが!」(イリーナ吐き捨てるように)
「ぬし様スキ! 大スキじゃ!」(シオン棒読み)
「あんたのことなんか、何とも思ってないんですから! ぺっ!」(イリーナ心底嫌そうな顔)
「いや~ん、ぬし様ってば!」(シオン棒読み)
「……………」
芝居が終わったのか、ドヤ顔の二人。
「テメェーら! ツンデレ舐めんなよ!」
俺のツッコみに――でも二人とも心底不思議と言う表情のまま首を傾げる。
「……ん? ぬし様の部屋で見つけた本で、読んだ通り真似してみたのじゃが……どこかセリフを間違えたかえ?」
「テイルさんはドSですから、ツッコんで楽しんでいるのでしょう?」
好き勝手な事をいってくれる二人。
確かに思いっ切り疲れて今日は何も考えないで寝られそうな気もするが……ってお前らなに人の部屋に勝手に入って俺のトップシークレット見てくれてるの?
「そ、それでは……最後の仕上げに……ぬし様……添い寝でもするかえ?」
やっぱり棒読みのイリーナ、それに笑いでもこらえているのか声が震えていた。
「ダメ! 俺、寝るから! 芝居が終わったんならさっさと出てけ!」
やけっぱちで言って、ベッドに再び体を投げ出す。
「な……やはり……」
「……こう言われた場合は……じゃな」
二人がなにやら相談しているみたいだが、それをツッコむこともなんだかだるくて、お日様の匂いのする毛布にくるまり、だんまりを決め込む。
ふわり。
なんだか両側から軟らかい感触といい匂いがする。
と同時に居心地の悪い視線を感じる。
「……で? なにしてんのお前ら!」
俺を中心に両側に寝そべる二人。
しかも、二人とも身動きピクリとせずに、俺の方に瞳孔開いてる視線を向けて!
「男の人はこうやって、女をベッドにはべらかすのが夢なのでしょ? いやよいやよも好きのうちとか言わして」
「根本的なものが間違ってるな、お前ら!」
「でも、ぬし様の持っていた本には……」
「いや~~! それは言うな!」
ベッドから跳ね起き、シオンの台詞を大声で掻き消す。
「……ふむ、やはり変態色魔のぬし様は、これぐらいでは満足しませぬか……」
「やはり強敵ですね!」
「俺の何を満足させようとしてんだ、お前ら?」
「よし! イリーナ! 今度はヤンデレと言うものに挑戦するでありんす!」
「はい! そうしましょう!」
「だから俺の話を聞け!」
予備動作も無しにベッドから立ち上がり、俺の声を無視して出て行く二人を、力なく見送った。




