十二話
なんとか一週間更新できました。
華やかなパーティーから数時間後。
俺は真逆の世界、薄暗い牢屋にいた。
「いや、イリーナやシオンには敵わないけど、俺も結構やるね!」
怒りすぎていて良く思い出せなかったが、豚とは言え十二将軍とその腰ぎんちゃくである軍人二人を、わずか数十秒で倒した自分を自画自賛する。
まあその後、将軍直属の衛兵にボコボコにされたが……。
「ぬし様……」
そんな事を思い返していると、いつの間にか鉄格子越しに、黒髪、金色の瞳の無表情で大人びた女性が立っていた。
「およ? シオン? 看守はどうした?」
「…………」
「色仕掛けで、たらしこんだのか?」
「……そんな所じゃ」
「嘘付け! …………殴ったのか?」
「…………」
視線をそらすシオン。
「まさか、斬ったりしてないよな?」
「…………」
無言が怖ぇぇぇぇぇぇぇぇ!
「な、なんだよその沈黙! やってないよね? シオンちゃんは、根がしっかりしてる良い娘だから、そんな事して無いよね?」
そんな俺の顔を見て、少し安堵したような顔で微笑するシオン。
「看守は今、イリーナが神の教えを説いるのじゃ」
「よかたぁぁぁぁぁぁ。ってか、イリーナまで来てんの?」
「そんなことより」
なんだか思い切りスルーされた感じだが、彼女の真剣な表情に軽口を閉じた。
「なんで……将軍と喧嘩なんて……」
黒髪の少女が呟く。
彼女の真剣な眼差しに茶化すこともできず、うつむき視線を逸らす。
「……あいつら、ある女の子のこと……戦闘しか能が無い女狐だって……」
「……本当のことじゃろ?」
彼女の、どこか子供を諭す母親のような口調に、思わず反発してしまう。
「そんなはずないだろ! お前は……いや、俺の知ってる女の子は、料理、洗濯、掃除、戦闘、全ての面において優秀な娘で、でも、本当は戦争なんて大嫌いで、子供たちと、みんなで幸せな家庭を築きたいなんて小さな、でも立派な夢持ってる女の子なんだよ! それをあいつら……」
悔しすぎて言葉が続かなかった、後一発、と言わずに数十発殴っとくんだった。
「ふっ。まったく、ぬし様はお人好しというか……」
「いや、俺が全部悪いわけじゃない! そもそも魔王軍の体勢が……」
その後の言葉が続かなかった。
なぜなら、彼女が静かに涙を流していたから……。
「まったく……まったく…………」
いつも感情の起伏が少ない彼女が、ぽろぽろと大粒の涙を流す姿は、とても儚く見え、場違いにも綺麗だと思ってしまった。
「わっちは、あの子らのためと言って、ぬし様を騙して押しかけた女狐じゃ、そんな女のために、ぬし様が出世の道を閉ざされでもしたら……」
倍以上の敵を前に怯むことなく突っ込んでいく彼女。
でも、今その姿彼女は、触れれば霧となって消えてしまいそうなぐらい儚く見え、
「(これ以上、泣かせるわけにはいかない!)」
そんな思いで頭がいっぱいになった。
なので、俺は彼女の前で大見得を切る。
「うっさいな! 確かに俺は俺の野望のために出世したいが、俺の野望にはプライドも必要なんだ。あんな豚に媚売って出世しても、俺の野望が遠ざかるだけ! それにこの殴られたお礼も後でちゃんと数倍にして返す! お前は何にも気にしなくていい! 黙って俺について来い!」
「はっ! は、はひっ!」
シオンが奇妙な返事をして、首をコクコクと縦に揺らした。
まったく、女の涙ってのは剣にも勝る凶器だと思う。
だって衛兵に殴られた身体の痛みより、今は胸のほうが痛いのだから……。
そんな俺の言葉に、シオンはハッと涙目を俺に向け、
「まったくぬし様ときたら……女心をくすぐるお方じゃ。わっちは目的を達成するまで泣かぬと誓ったのに……この責任は取ってもらうからの!」
しばらくして泣き止んだシオンが、胸に手を当てたままそんなことを言い出す。
良く分からないが、まあ、シオンが涙を止めたのだから良しとしよう。
「おう! ここから出たら飯でもおごるよ!」
まったく気の利いてないと思われる言葉に、フッと彼女は諦めたように肩を落とし、そして笑った。
「ふふふ……そうでありんすね、それでは驕ってもらうのじゃ。わっちと、子供たちの分も一緒に……これから……ずっと……」
最後の言葉は、呟きに近くて聞き取れなかったが、シオンは微笑と共に去っていった。
「あいつらどんだけ食べるんだろうな? 給料日まだ先だったな……」
なんてことを考えながら、少し軽くなった気持ちでベッドに横になった。
こんな硬いベッドでも、今夜はぐっすり眠れそうだ。
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