昨夜の記憶
こんにちは! ワセリン太郎です!
きゅーしゅー、クッソ暑いです!
昨夜の精霊M字大開脚拘束事件から一夜明け、俺が少しばかり溜まり気味だった洗濯物をベランダに干していると……
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
ちゃぶ台の上でテレビを見ていたノームのパッ君が、随分と面倒そうな顔で玄関の方へ振り向く。
時刻を見ると午前九時七分。呼び鈴を連打しないところを見ると……レア達アンポンタンズではなさそうだ。
ロキかな? いや、多分違うな。アイツならコンコンとノックだけして『ちょっと太郎、アタシよ! 早く開けて!』と、大体そんな感じだし。
一体誰だろう?
「はーい、今出ます」
カゴの中の干し残しを横目で眺めつつ、客人の待つ玄関へ行こうとしたのだが……ある意味で、見慣れた物が目に留まった。
おいおい、またか!
洗濯かごに、鶴千代の物らしき女児用のブカブカパンツが紛れて入っている。他の洗濯物と絡まって、取り出す時に気付かなかったのか。あいつらまさか、まーた“鶴千代が漏らしたヤツ”を洗濯中のドラムにブチ込んだんじゃないだろうな?
いや、きっとそうだ。毎度毎度、俺が目を離した隙に、割れた洗濯機の天板の隙間から“汚れ物”を放り込みやがって。
それだけならばまだしも、先日はフタ空けた瞬間、デカいスッポンと目があってマジでビビったし。『なんでカメ入ってんの──!?』と。せめて入れるのは洗濯物だけにしてくれよ……ちなみにあのスッポン、油性マジックで甲羅に“チンコ噛まれたら終わる”って書いてあったのは一体何だったんだ??
いや、とりあえず今は来客。考えるのをよそう。
「今、開けますので」
ドアノブの鍵に手を掛けようとしていると、扉の外から見知った声が聞こえてきた。
「さあ忠犬、ご主人様のご到着ですよ。さっさとここを開けて頂戴。そもそも犬小屋に鍵なんて必要なのかしら?」
この声は……
また違う別の声も響いてきた。
「何を言う千姫、畜生の住処ならば扉自体が必要なかろう?」
「ええ、まあ確かにそうね。分不相応だわ。それはそうと、この部屋には盗る価値のある物なんて一つも置いてなくてよ。そうなるとまあ、屋根も必要無いのではないかしら?」
まーた言いたい放題だ……
──ガチャ。
鍵を開けて扉を開くと……やはり、想像していた通りの顔ぶれ。
「……おはようございます。その“犬小屋”へ、一体どの様な御用でして?」
吹き出しそうになりながら答える、千姫様。
「あら嫌だわごめんなさい、聞こえていたのね? 失礼をお許し下さいましね、まさかそんなに“扉が薄い”だなんて思いもしませんでしたの」
「……」
まったくこの人は……
悪うござんしたね、“荒ら屋”で。ついでにウチは、扉だけじゃなく壁の方も極端に薄いんですわ。
「あら、そんな事はないわ。忠犬の犬小屋にしては十分立派よ。大丈夫、自信を持ちなさい」
まーた“読心”したな、この人。
そうしていると、彼女の背後に立つ長身の銀髪が揺れた。
シグルドさんだ。
「やあ、お早う。貴様、名を確か……そうだ、次郎! 次郎とか言ったな。いや、昨夜はなかなか楽しかったぞ!」
名前すら覚えてねぇ。実は次郎は……神丘市の駅に務めている“俺の実兄”の名前だったりする。長男で山田次郎。ちなみに俺は次男で太郎。面白インパクト狙いで名前を付けるなんて、ホントなんて親だ。
あ、しまった。
顔を伏せ、我慢できずに吹き出す千姫様。
「千姫様、今また“読んだ”でしょ」
「ふふふ、本当に素敵なご家族で羨ましいわ。大丈夫、面白すぎるので秘密にしておいて差し上げます」
“秘密にしてあげる”ではなく、“弱みを握った”の間違いだろう? だが既に今更な感もあるし……もういいや。
「あの、シグルドさん……俺、太郎です」
「ん? ああ、そうかそうか。実はそれでだな、次郎。貴様に少し聞きたい事があるのだが」
くそう、ちょっとぐらい興味持てよ。
「それで、何でしょうか?」
「うむ、恐らく少し長くなる。悪いが少し上がらせて貰うぞ」
何かあったのか?
「わかりました、どう……」
「ええ。汚いところですけどお上がりなさい」
「……」
「そうそうシグルド。貴女、後でホテルに戻ったら、せめて靴下とズボンをきちんと洗濯するのよ? 私は、今着ているものを全て“消毒”に出しますから。でももう“着れない”かしら。帰りにゴミ袋を……あ、そうそう。一応、靴はお脱ぎなさいな」
「いや、私は土足でも問題ないぞ。大体、ジャングルで虫が沸いてもあまり気にしないタチなのでな。では次郎、遠慮無く上がらせてもらうぞ!」
「あの……せめて靴だけはお脱ぎ下さい」
この連中、ホント言いたい放題だ……まあいい、それより用件の方が気になる。
居間へと進み、再び俺をイジリにかかる千姫様。
「ちょっとシグルド、これを見て頂戴! まあまあ大変! この方、女児用のパンツを何処かから……可哀想、何もかもが歪んでしまっているのね。しかしこれは、今すぐ警察に通報した方が良いのかしら?」
「おお、何だ次郎。貴様“その筋の変質者”だったのか!?」
ふふ、俺を甘く見るなよ。こういう場合、落ち着いて一切の“隙”を見せてはならない。慌てるとイジリ倒されるのがオチだ。
「ああ、それは鶴千代のですわ。多分ミストのヤツが“漏らしたヤツ”を俺の洗濯物と一緒に……」
顔を背けて笑う、腹黒女神。
「あらごめんなさい。そう……貴方達、本当にお気の毒な暮らしをされているのね……ああ、お可哀想に」
お気の毒なご身分の方々で悪かったな。何をわざとらしく悲しそうな素振りを……もういいわ。
「ええ。“非常に汚いところ”で大変恐縮ですが……よろしければお座り下さい」
「太郎さん、レジャーシートはございまして?」
「まあそう気を遣うな次郎、私は外で野営するのに慣れているから何も気にしないぞ!」
くそ、この連中。しかも片方は全く悪気無いのが余計にタチが悪い。いいや、無視して流そう。
畳へ、ドシンとあぐらをかくシグルドさん。
「それで改めて伺いますが、どういったご用件で?」
「いや実はだな、私の所持していた神器“Caledfwlch”が何処にも見当たらなくなってしまってだな」
「……えっ?? いやいや!」
何を言ってんだこの人は……
「それで千姫のやつに昨夜のことを色々と聞くのだが、知らん、わからん、貴様に聞けとの一点張りでな」
「ちょ、何言ってんすかシグルドさん、アレは昨日の夜……」
待てよ。まさかこの人、記憶が飛ぶまで飲んだんじゃ……
『ん?』といった様子で首を傾げた彼女は言葉を続けた。
「それで今朝ホテルで起きたらな、なんと湯沸かし機の中に“コイツ”がブッ挿して煮込んであったんだ。流石に目を疑ったぞ。なあ次郎、貴様なにか知らんか? あ、そうだ。貴様もホテルのケトルには気を付けろよ? たまにアレで小便を煮込んで全能感に浸るキチガイが居るらしいからな」
そう言った彼女は、たすき掛けしていたカバンから……その“問題のブツ”を取り出し、ちゃぶ台の上にゴトリと置いたのだった。てかマジかよケトル、おっかねぇ。気を付けよう。
突然、パッ君が動いた。
「ペッ──!! キタ・ネー・ゾ!?」
己のちゃぶ台に“ソレ”を置かれて憤慨し、唾を吐き散らかす。
「おいやめろパッ君!」
「ウル・セー・ヨ──!?」
随分とお怒りだ。
「おい、そういやなんでこんな所にノームが居るのだ??」
「まあ色々と事情がありまして……」
「そうか」
今はその話は後だ。
「ぶっ……」
ちゃぶ台の上に置かれた物を見て、顔を真っ赤にして笑う千姫様。
「あの、シグルドさん。もしかしてですが……」
「それで更なる問題があってだな。実は何故だか知らんが、コイツから……その、消えた“Caledfwlch”の気配をハッキリと感じるのだ。いや、最早これは“そのもの”であると言ってもよい」
「あの、一つお聞きしても??」
「何だ? 質問を許可するぞ新兵」
面倒くせぇ……
「昨日の事、どの辺りまで“覚えて”おいでで?」
腕を組み、天井を見上げる軍服女。
「ああ。昨夜はだな、この街の兄弟同志達と意気投合し、BBQをしながらウォッカを七、八本、一気に空けたところまでは覚えているのだが……あと良くわからんが、何かヴィヴィアンのヤツも居たような……居なかった様な?? いや、アイツがこんな街に居る筈がないよな」
ちょ、ダメだこの人。飲み過ぎで完全に記憶が全部ブッ飛んでやがる。
「その辺りの事をホントに覚えてないんすか?」
「くどいぞ。だからこうして貴様に話を聞きに来ている」
「マジっすか……」
「いいじゃない次郎さん、詳しく教えてあげなさいな」
「いやいや千姫様、貴女も現場にいらっしゃったでしょう? あと、わざと名前を間違えるのやめてください」
「はて、私も少し飲み過ぎたのかしら? ごめんなさい、お酒に弱くて……そういえば貴方、どちら様でして?」
嘘吐け。この人、責任をなすりつけるつもりだ。
もういいわ。
「まったく……わかりましたよ」
こうして俺は、昨夜の顛末について……少し曖昧になり始めていた記憶の道を、ゆっくりと辿り始めたのだった。
~昨夜の河川敷公園~
大家さんの脅しに屈し、折れた剣を無条件で保証すると口走ってしまったヴィヴィアン。
彼女はニヤつく悪党共を前に、何もかも諦めた様な表情で大きく溜息をついた。
「わかった。わかったから先ず、その物騒なモノを握ったアホを下がらせよ」
笑う大家。
「おう、レアさんよ。とりあえず一旦中止だ」
アホと言われて憤慨するレア。
「アホだと!? 貴様、この天界きってのエリートである私に向かって、その様な罵詈雑言を吐くとは! このアホ!!」
いや、何も間違っていないと思うぞ。しかし……
「よし、やはり成敗してくれる──! 喜べ貴様、明日から人口肛門デビューだ!! 必殺! 肛門爆裂拳!!!」
突撃しようと身を屈めるレアを見て、鬼の様にはしゃぐミスト。
「あーこれ逝った! 絶対逝った!! 至近距離から、油断した肛門へ回避不能の“牙◯ゼロすたいる”!!! 死んだ! ヴィヴィカスの尻、完全に終わったアッ──!!」
「なんと無慈悲な! お終いじゃ!! ほんに気の毒じゃの!」
ゥ゛ィンゔぃんヴィンぅィン……
アホの手に握られた黒光りするアダルトグッズが、静かに唸る。
更に腰を屈め、全体重を載せた“突き”の構えに入るレア。
「肛門ブッパ! 肛門ブッパ!! 肛門鉄拳制裁!!!」
いかん! コイツ、マジでヤる気だ――!!
「おいレア止めろ! “突”るんじゃない!」
「良し! 何だかよくわからんが、手始めに貴様の尻穴をカリフラワーみたいにしてくれる! さあ覚悟しろ、悪しき精霊め!! 肛・即・挿――!!」
「こらレア、お止めなさい──!!」
飛びかかり、無理矢理パンツを脱がそうとする阿呆をヒルドが羽交い締めにし、必死にヴィヴィアンから引き剥がそうとする。
ちょ、危ない危ない! 何か危ない部分が見えそうに──!? ああっ、惜しい!!
「も、もうちょっとで……み、未知の領域が──!!」
思わず、心の声が漏れた。
──カチインッ!!!
屈んで懸命に覗き込もうとした俺の顎へ、突然、何か固いモノが激突した……様な気がする。
直後、視界がグニャリと歪み……気付くと腹の上でロキがマウントポジションを取っていた。無表情にバシバシとテンカウントを取り始めるロッタちゃん。
「……ん。ロキ、ようしゃない。ナイス膝蹴り」
ひ、膝蹴り??
ロキの冷ややかな視線が降り注ぐ。
「こら太郎、今何見てた……?」
「うへへ……すんません。つい本能的に」
「まったく……」
ダメだ、ロキが退いた後に膝をついて立ち上がろうとするが、視界が揺れて……フラフラと彼女の肩に寄りかかった。
「はい、それでよろしい。あのね、最初からそうしてればいいのよ」
「おま、蹴る事はないだろ……」
「ごめーん、つい反射的に“膝が出ちゃった”。ふふ、浮気は絶対許さないからね? ダーリン」
怖ぇ……
「……ん。うわきは重罪、即、しけい。次は“死”あるのみ。次こそは“死”あるのみ」
ロッタちゃん、何故、二度も言う?
笑う大家さんが、鶴千代とミストに指示を出す。
「おう、今のはなかなかいい“膝”だったぜ。それよかとりあえず“商談成立”だ。よしアバズレ共、ソイツを放してやれや」
「おっけー」
「承知した! じゃがもし、放して逃げ出したらどうすのじゃ?」
煙草をふかして笑う巨漢。
「なーに、んなモン簡単よ。逃げようとしたらその瞬間、俺様が砲弾タックル仕掛けてそのままソコの“便所の浄化槽に逆さタッチダウンよ」
笑うミスト。
「そそ、だいじょーぶ! なんならアタシも背中から腰に跳び蹴りすっから! にち◯ーい、ふぇにっくす!!」
「おい危険タックルやめろ!」
再び青くなるヴィヴィアン。
彼女もそこまで馬鹿な事は考えないだろう。
そもそも、後先を考えないトンデモ脳筋連中に取り囲まれている状況だし、鶴千代のワイヤーで縛られて実体化させられている以上、身体能力的にはその辺の女性と変わりないワケで。つまり、この悪魔連中からは絶対に逃げようがない。
ゆらり、シグルドさんがマンホールへと近付き……突然大声を上げつつ、手に持っていたウォッカの瓶を浄化槽へとブチ込んだ──!!
「これは国際問題になるぞ──!! さあ、〇争だ──!!」
──バリンッ!!
なに突然、ワケのわからない事叫んでんの──!?
あーあ、だいぶ酔いが回ってんな……
「逃げぬ! 逃げぬから、せめてこの辱めをどうか……」
「おう、外してやれ」
「うむ、承知した!」
M字開脚を解かれ、ベンチで頭を抱え込む大精霊。それから彼女は……
「それで……シグルド。その折れたCaledfwlchをどうしたい?」
「む……? そんなもの決まっているだろう。修復してくれ」
首を横に振るヴィヴィアン。
「我は別に構わんが……補修完了までに四百年ほどの時を要するぞ。それでも良いか?」
「は……なんで?」
「よいか、この剣の刀身は、当然ながら通常では入手困難な材料ばかりを集めて作られている。そして、次にその原料が手に入るのが、その位の時期だと言っているのだ」
えっ!?
「つまり……修復出来ないって事ですか??」
つい、割り込んでしまった。こちらを向く大精霊。
「そうではない、人間。修復自体は可能だが、手元に素材が無い以上、補修に必要な物を集めるのにその程度の年月が必要だと言っている。意地を悪くしているのではない。現実として、それはどうしようも無い事なのだ」
腕を組み、考え込む銀髪の酔っ払い。
「それは困るぞ」
「仕方ない。我も保証すると約束した手前、同等の物とは言えぬが、別の神器を……」
どこか焦点の合わない目で精霊を見る、シグルドさん。
「駄目だ。さっさとCaledfwlchをよこせ。なに、元に戻すだけでいいのだ」
おいこの人、話聞いてたか?? いや、アンタ聞いてたけど聞いてないだろ!
突然、横から首を突っ込むレア。
「うむ、私もそう思うぞ! それがいい!! はよしろ!」
お前ちょっと黙ってて!?
「いえシグルド、ヴィヴィアンはすぐには修復が不可能だと……」
そう言い聞かせるヒルドだが……
「何を言う、駄目だ駄目だ! 勿体ぶらずにさっさと元に戻せ!」
駄目だこの酔っ払い、人の話を聞いてねぇ。てかシグルドさん、何かどんどん目が据わって来てないか??
「いや、だから不可能であると……」
「お前、昔、“あの鞘を無くしたバカ”が剣をへし折った時、さらっと“二本目”を渡したろ! 知ってるんだぞ、早よ寄越せ!」
酔っ払いに同調するアホの子一号。
「そうだぞ貴様、何か知らんけど、その一本目をさっさと寄越すがよい!! けちんぼ!」
いやだから、その一本目は既に折れてるんだって。てか何言ってんのかわからねぇ。
訳のわからない二人を前に、困惑するヴィヴィアン。
「いや、あの時は“人々の信仰の対象として相応しい剣”、つまり今回折れたその剣なのだが……要はスペアだ。とにかくそれが、たまたま手元に在ったものでな」
「タマタマが手元にあったのか?」
「おいレア、ちょっとこっち来てろ!」
「断る!!」
筋肉ダルマも参戦。
「ヴィヴィアン、オメーよ! さっきカリとサオだって言ってただろ──!!」
「タマだかサオだかはっきりしろ!」
「レア、大家さん! 頼むから少し黙ってて下さいよ。ホント話がややこしくなりますから」
「カリって何だ……??」
「おう太郎! 大体よ、剣にチンポみてーな名前付けるからいけねぇんだぞ! わかってんのか!! これは全部オメーの責任だぞ!」
駄目だ、酔っ払いに目をつけられた。
「いや俺に言われても……大体その時代、俺は生まれてすらいないですし」
「そりゃオメーがそう思ってるだけだろ!! まだ生まれてねぇって事はよ、オメーのオヤジの金玉に全責任があるって事じゃねーか!!!」
「いや、うちのオヤジすら生まれてませんから……」
「証拠はあんのか──!!」
ジワリ……ヴィヴィアンに詰め寄るシグルドさん。
「で、そのスペアとなる剣が在ったから、どうだというのだ?」
「だから、それにCaledfwlchの存在概念を乗り移らせ、それを新たなExcaliburとしたのだ。もういい加減にしろ貴様ら」
「なるほど、これの事か──!!」
突然、背中から産業廃棄物を抜き取って見せるレア。いやお前、ソレ、廃材置き場に落ちてたヤツだから……
話を聞き、首を傾げる大家さん。
「おう、ならよ。また何か別のモンに、その概念とかいうヤツを“移せば”いいんじゃねーのか?」
ホント、酔ってるのか酔ってないのかわからないな、このオッサンは。
首を横に振るヴィヴィアン。
「それは無理だ。最初の剣、また二本目となるその折れた剣。二本共に共通して言える事は……」
「言える事は?」
「数百年に一度だけ採取可能、いや、それも確実とは断言できぬ程に貴重な、この世のものではない材料。とにかくそういった物をふんだんに使用して鍛えられた魔法の剣であり……それらは製造された瞬間より、人々の“信仰の対象”となるに相応しい素養を備えた物であったという事なのだ」
ああ、そういう事なのか。
「つまり、その信仰の対象になりそうな代替品がこの場にあれば、折れた剣の力を委譲出来る……って事ですか?」
俺はこの発言を、後々まで後悔する事となる。
此方を見て、頷く大精霊。
「そうだ人間。理屈の上ではな。そしてCaledfwlchの力の源は“人々がこの剣へと抱く憧憬”」
「ああ、それは何かわかる気がしますわ。何というか、全国の男子中学生の憧れの的というか……」
何せ世界中の厨二病患者達の憧れを、その一身に受ける剣だからな。
「おいネーチャン。そいつは違う。コイツはショーケイじゃなく“短小で包茎”だぜ」
「お気の毒に、三センチらしいわよ」
風評被害だ――!!
「いや大家さん! 千姫様! 今、俺の股間の件、全く関係ないっすよね──!? あとこの人、包茎じゃなくて憧憬って言ったんですけど!!」
「うっせえな、ショーケイもホーケイも似たようなモンだろうが! バカかテメーは!!」
「似てねえよ──!?」
一瞬、俺の股間へ気の毒そうな視線を送ったヴィヴィアンは……軽く咳払いをし、何事にも触れずに話を続けた。ホント、お気遣いありがとうございます。
「仮に“そういった代替品”が存在する状況であれば、確かに力の委譲自体は可能だ。しかしその様なものが簡単に手に入る筈もなく……また存在を移すには、その形状にも制約がある。当然、剣であれば相性は非常に良い」
「あんだよ、剣じゃなきゃ駄目なのかよ?」
「いや、そうではない。剣の形状でなくとも、せめて“棒状”であれば。しかし余りに長いと、その存在概念が“槍や矛”と認識され、恐らくCaledfwlchは継承されぬであろう」
剣自体は依り代……みたいな物だったのか。
「剣、もしくはあまり長すぎない“棒状”の物で、“民衆の信仰の対象”……か」
うーん。確かに、今すぐにそういった物を用意出来るとは思えない。
皆、色々と考えているのだろう。辺りは静寂に包まれ……
ヴ゛ぃんヴイン、ヴインう゛ぃン、ヴぃん……
レアの手に握られた“アダルトグッズ”の音だけが、周囲に鳴り響いた。てかあいつ、今までスイッチ切ってなかったのかよ。切れよ。
ヴ゛ぃんヴイン、ヴインう゛ぃン、ヴぃんう゛いん……
ふと、手に持つソレをジッと見つめるレア。
「むっ、何だこのスイッチは……? なに、“HARD MODE”だと?」
──カチッ。
スイッチを切り替える音がした。
突然、怒り狂った様に暴れ出す“POCKET MONSTER”!!!
ヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィン──!!!!!
「ちょ──!? レア、お前何やってんの!?」
「何だこれ、すごいな!」
バシン! と手を叩く大家さん。
「おいおい、やはり俺様は天才だぜ! 任せろ、“いい考え”がある」
何か、とても嫌な予感がする。
「おいオメーら、“かなまら祭”って知ってっか?」
「「……“かなまら祭”??」」
待て、何か聞いたことあるぞ。肘で脇を小突いてくるロキ。
「ねえ太郎、アイツ何言ってんの? なんか凄い嫌な予感がするんですけど」
「いや奇遇だな、俺も全く同じ様な気持ちなんですけど……」
「そうか、知らねえのも無理はねぇ。おいレア、ちょいとソイツを俺様に貸してみろや」
「うむ」
スイッチを切り、手に持つ“ソレ”を手渡すレア。
「シグルド、オメーさんナイフ持ってたよな? そいつもちょいと貸してくれや」
「おお、大家同志兄弟、これか?」
据わった目でコンバットナイフを抜き取り、大家に手渡すシグルドさん。
そうしてそれらを受け取った大家さんは……
ベンチの上へ置いた“ソレ”に、逆手に掴んだナイフの刃を押しつけ……何事かをカリカリと刻みつけ始める。
「なあなあ大家、何書いてるん?」
ミストと一緒に、広く分厚い彼の背中を覗き込んだ。そこには……
──“エリザベス神輿”──
「あの、大家さん……アンタ、一体何してんすか……?」
何かを感じ取ったのか、怪訝な表情を浮かべるヴィヴィアン。それを見る千姫様の表情は……あ、駄目だ。この人、これから何が起こるのかを“読心術”で察知し、必死に笑うのを堪えている。
「おう、出来たぜ。これなら間違いねぇだろ。完璧よ」
「いや無理でしょ。これは誰がどう考えても無理でしょ!」
「んなモン、ヤってみねーとわかんねぇだろーが、バカ野郎!!」
「大家アンタ、バカじゃないの? いやバカだと思うケド。そもそも何なのよ“エリザベス神輿”って」
「うるせぇ貧乳、黙ってスマホでググってろ!」
ロキはガラケーである。
「……」
きっと、千姫様にガラケーしか持たない事を知られたくないのだろう。珍しく彼女はそれ以上、何も言うことはなかった。
「ほいほーい!」
ミストが手を上げる。
「えっと、エリザベス神輿……だっけ? それでグ・グ・レ・カ・ス、っと!」
「ミストや、ぐーぐる先生で画像検索じゃ!」
この天狗の娘も随分と俗世にまみれたもんだ。
「おかのした!」
ミストの持つスマホの画面へ、皆の視線が集中した。
ああ、やはりそうか。ピンク一色に染まる検索画面。
大声で笑い出すアホの子二号。
「ぎゃはは! これチンコやん! ちょーでっけーチンコやん! どっから見てもマジチンコ! めっちゃチンコ! くっそウケるんですけど!」
「おお、ほんに見事な魔羅神輿じゃの!」
「はっはっはっ! こいつは太郎のより随分と大きいぞ!」
「うるせえよ、こんな世界最大級のモノと比較しないでくれませんかね──!?」
ニヤリ。大家さんが笑う。
「なあ、この世にこれ以上の“信仰対象”があるか? いや、存在する筈がねえ」
「これが……信仰?」
不思議そうな顔をするヴィヴィアンへ、“漆黒のチンコ”を手渡す大家。
彼女は……それを受け取るのを両手で拒否した。
「あんだコラァ! オメー何が不満なんだよ! テメ、日本人の巨大チンポへの信仰心ナメてんのかオラアッ──!!」
いやそりゃ不満でしょ。間違っても女性に手渡すモノじゃないって。
「おい巨漢、貴様それを我に向けるでない! 怖い!!」
大家さんがイラッとした様子で、ポケットからスマホを取り出しながらロッタちゃんを呼びつける。
「おうロッタ。ちょっと来い」
「……ん。なに?」
「おめーよ、“犬神家の一族”って映画知ってっか?」
「しらない」
「そうか。実はこういうやつなんだけどよ」
背伸びし、屈んだ大家のスマホをじっと見つめる蒼髪の悪魔。
「おおー、これは尊い」
何が“尊い”だ。どうやら、いや、やはり“例の逆さ画像”が彼女の琴線に触れたらしい。
「寛大な俺様はホントはやりたくなかったんだけどよ」
「……ん。便所の肥溜めで“えくすとりーむ犬神家”する?」
「まったく、俺達がこんなに下手に出てお願いしてるっつーのによ……残念だ。しかたねえ、とりあえず『YES』っていうまでカパッとヤっちまうか」
無表情なままバンザイするロッタちゃん、
「おおー! さんせー。M字かいきゃくのやつ、もっかい付けて“大股開き”させよ? そしたらマンホールのふちにひっかかって落ちないし、上半身だけべんじょの水攻めができるとおもう。それで言うこと聞くまで心へし折ろ?」
「ちょ──!? おいやめろ!」
「ロッタ──!」
「おうテメーら、うるせーからヒルド押さえてろ!」
「はっはっはっ! 任せろ!!」
「こらレア、何を──!!」
「ちょっと太郎、こいつらマジでやるわよ。いい加減止めなさいよ」
「ロキ、お前さ、“上半身下痢便まみれの俺”と歩いて帰りたい?」
この勢いの彼等を止めてヴィヴィアンが無事な場合、必ず俺がその“代替品”にされるだろう。
「……」
「待て待て待て! わかった! わかった! 言うことを聞くから止めよ!? 頼む!!」
大家さんが、ベンチの背もたれにしがみついて引き攣る大精霊を見てニヤリと笑った。
「へへへ、そうやって最初から素直に“お願い”を聞いてくれれば良かったんだよ。何せ俺様は穏便な男ってことで商店街じゃあ有名なんだわ。わかんだろ?」
いやわからねえよ……
「ん゛んー……」
大開脚の便所攻めをどうしてもやりたかったのだろう、本気で不満そうなロッタちゃん。
とにかく、そういう事でエクスカリバーの能力委譲が開始されたのだった。てかホントにできんのか……?




