幾星霜、たとうとも
こんにちは! ワセリン太郎です!
それから暫く経過し……
「ミストや、暫しそこを押さえておれ」
「おっけー」
「んしょ、んしょ……こうじゃな」
「ん゛ん゛ーッ!?」
哀れ。己の意に反して実体化してしまった大精霊は、必死の抵抗を試みるが……この連中の腕力に抗う事が出来る筈も無く。
「これをこうして……はて大家や、こんなもので良いかの?」
腕組みし、満足気に頷く筋肉ダルマ。
「おう、上出来だぜ。しかしこいつぁ見事なM字開脚だ。それよか鶴千代オメー、人間縛るのがエラく上手ぇじゃねーか。いやなかなかのモンだぜ。将来はそういう仕事に就くとよ、その恵まれた才能を遺憾なく発揮出来るんじゃねーのか?」
「おお、ウチには才能があるのかえ? ときに、そういう仕事とは何じゃ?」
「おう、そりゃエーブ……あいたっ!」
巨漢の脛を蹴り飛ばすロキ。
「ちょっとアンタ! 鶴千代に変な事教えないで! アタシ本気で怒るわよ!?」
「わーったよ、マジぎゃーぎゃーうるせぇな、このヒステリー女は」
「誰がヒステリーよ!?」
公衆便所前のベンチに縛り付けられ、アキヒロさん提供のSMグッズで強制M字開脚を強いられた大精霊。
気の毒だが、捕まった相手が悪かったと言うしか……
「ん゛んっ$#&'ん゛ん('&%$"#$ん゛ん゛ーッ!!」
うわぁ、血走った眼で暴れてるよ。もはや先程振りまいていた、厳しい大自然を思わせる威厳はどこにも見当たらない。あーあ、こうなると精霊も人間も大差ないのか。何かこう少し、夢を壊された気分だぜ。
てか、どーすんのよこの状況。
暴れる彼女に歩み寄るヒルド。
「確かに、彼女の行いが褒められたものでない事は認めます、しかし流石にこれは……いい加減に拘束を、いやせめてその人道的に、下半身を隠してあげては……」
そう言いながら拘束具を解こうとした彼女へ、大家さんがストップをかけた。
「おうヒルド、ダメだダメだ! コイツは反省が足りてねえ。朝までこのまま放置してよ、早朝の通行人から“露出プレイしてるクソ変態女がいる”とか通報させるまでが一連の仕置きよ。おう姉ちゃん、オメーちゃんと反省してんのか!?」
「ん゛ん゛ーッ!!!」
「ハッキリ喋れや! 訳のわかんねぇ事言ってっと、そこの電灯から逆さ吊りにすんぞオラ!」
「いやいや大家さん、ギャグボール噛まされてて喋れませんってば」
「ああ!? んなモン、やってみねぇとわかんねぇだろーが! だいたい気持ちが入ってねぇんだよ、気持ちがよォ!!」
何でも精神論で片付けようとするな。
「んな無茶苦茶な……」
それより突然の放置プレイ宣言。大家の発言を聞き、『──えっ!?』といった様子のヴィヴィアン。
「……ん。しげる、もう契約とかどうでもいいから……こいつ、ぱんつ脱がそ?」
そう言ってヴィヴィアンへ近付き、パンツの両端へ手を掛けようとするロッタちゃん。
「#&'ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!? ん゛んっ('&%$"#$んん゛ーっ!?」
「おいおいおい!」
「ロッタ──!」
「ちがうのヒルド姉様、全部この女がわるいの。だからぱんつ脱がすの……」
オモチャにする気だ。
「こら! もういい加減にこっちへ来なさい!」
そうヒルドに手を掴まれ、遠ざけられる小さな悪魔。あっ! 今、小さく舌打ちしたぞ。
「さてよ、吊すか。おうミスト、そっち持てや」
「おかのした!」
手を上げ、元気良く応えるアホの子二号。
「#&'ん゛ん('&%$"#$んん゛ーっ!?」
マジで吊される事を危惧しているのだろう。いや、この酔っ払い達ならば本当にやりかねない。
ヴィヴィアンの反応を見た大家さんが、ニヤリと笑うのが見えた。
「と、言いてえところだがよ。おう鶴千代、その涎玉外してやれ」
「よいのかえ?」
「おっと、その鼻フックは引っ掛けたままでいいぜ」
「うむ、承知した!」
「それとロッタ、コイツが暴れたり大声出したりするならよ、鼻の穴が元に戻らねぇぐらい思い切りフック引き延ばしてやれや」
「ぶ・らじゃー!」
ロッタちゃん、いつの間に戻ってきた……?
「&(’&%$((’&%ん゛ん゛づっ──!?」
「……ん。ヴィヴィアン、研ナオコ好き? わたしは大すき」
――ギチィッツ!!
「#”$#%&$$’%(’$&#──!?」
おい!? 何故無条件に引っ張った!?
「こらロッタやめなさい!!」
更に問答無用で鼻フックを思い切り引き絞ろうとする、蒼い悪魔。駆け寄ったヒルドが彼女の手をピシャリと叩き、抱え上げてヴィヴィアンから引き剥がす。
その時。
──ジャアアア……
公衆トイレの中から、微かに水の流れる音が響いてきた。
ああヤバい。暫く姿の見えなかった……レアだ。
ジャブジャブと手を洗いながらの鼻歌。
酒は飲んでいない筈なのに随分と上機嫌だな。タダ肉喰いまくってたからか? きっとそんなところなのだろう。
それにアイツ、商店街のオッサン達から高崎興業を爆破した件で『よっ! さすがレアちゃん、最高のシゴトをしやがる!』などと口々に褒められ、えらく鼻高々になってたしな。
それよりマズい。この場にレアが戻って来ると、状況が更にややこしくなる恐れが……
「ふいーっ。なかなかに良い排便であった! まるで便器の中にバナナが一房丸ごと生み出されたのかと錯覚する程、非常に見事な五本糞だった! いやしかし危なかったな、今回のやつはなかなかに手強かったぞ!」
誰がそんな事を聞きたいんだよ。てか何だよ五本糞って、生まれて初めて聞いたわ。
「てかレア姉さん、うんこマジ長げーって! そりゃキングギドラみたいなヤツが産まれたのかも知れないけどさ! 爆誕! そんでさ、実はアタシらもう、姉さんがうんこしてる間にその精霊ってのを捕まえちゃったんだなー、これが!」
いやキングギドラは三本だろ……なんだよ“産まれる”って。
「いやなミスト。実は紙がどこにも無くて本当に苦労したのだ。しかもこういう時に限ってなかなか途切れない強情なヤツというか、クリーミーで粘着質というかだな、とにかく“粘度が高く歯切れの悪いしつこいヤツ”でな。本当に、“実が出る思い”であったぞ!」
いや、出る思いじゅなくて、もう実が出た後だろ。何また訳のわからない事を……
「マジかー。紙、掃除用具入れにも入ってなかったん?」
「うむ、全くどこにも見当たらなかったぞ?」
「そっかー、ならしかたないよなー」
「うむ、ならばいたしかたないの!」
「いや、あれはまさに下痢以来の“試練”であった。さて、タオルタオル……」
そう言いながら、濡れた手を……目に付いたヴィヴィアンの羽衣でゴシゴシと拭き始めるレア。
「なっ、貴様何を──!?」
ああ、きっと生まれて初めて“タオル”にされたのだろう、想像していた以上に顔を引き攣らせる大精霊。わかる。わかるぞ、その気持ち。俺なんて炊事場用のタオルでダイレクトにケツを拭かれた事が何度も……
「しかし何なのだろうな? あの拭いても、拭いても、微量の拭き残しが現れる謎の現象は!」
「あー、あるある! 拭いても拭いても“無くならない無限拭き残し”みたいなヤツ! もうそれって“うんこーる”って事じゃん? ああ、わかるわー、メッチャわかる!」
「うむ。拭き過ぎると後で尻穴がヒリヒリしてかなわんヤツじゃの!」
「そそ、つるっち。摩擦係数バリクソに高めなカンジ!」
何言ってんだコイツらは……
……んっ?
アホ共の汚い会話を“いつもの事”だと聞き流していたのだが、何かが心の隅に引っ掛かった。
「おい待てレア! お前、さっき何て言った!?」
「なんだ太郎、血相を変えてどうした? うんこか?」
「いやいや『何だ?』じゃないよ、レアお前さっき『紙がどこにも無くて苦労した』とか、サラッととんでもない事言わなかったか!?」
「言ったぞ?」
「いやだから、どうやってケツ拭いたのさ!?」
羽衣で“チーン”と鼻をかみつつ答えるレア。
「バカだな貴様は。そんなもの“紙がないから手で拭いた”に決まっているだろう? 『みっちゃんミチミチうんこして、紙が無いから手で拭いて、勿体ないから食べ……』という名曲を知らんのか? ついでに言うとだな、終わって手を洗おうとしたら、なんと石鹸もなかったのだ」
「おいっ──!?」
「ああ、なんか手がネチネチする。しかし公衆トイレに紙と石鹸が無いとは……これは行政の怠慢だと言えよう!!」
話を聞き、真っ青になるヴィヴィアン。そう。先程、彼女の羽衣は……レアのお手拭きにされてしまったばかりなのである。そのつまり……お気の毒に。
「それより太郎、このイカレた格好のおもしろ破廉恥女は一体何なのだ?」
お前さんよりイカレた女は、そうそう居ないと思うが。
「いや、だから彼女は……さっきお前がトイレに入る前に、皆で精霊について説明を受けただろ?」
「……?? 何かあったっけ?」
う〇こしたから忘れたのか……このニワトリヘッドめ。
「しかし見れば見る程、奇っ怪なやつだな!」
怒りを露わにする大精霊。
「き、貴様、高貴なる我に向かって無礼な……」
ベンチの上でM字開脚を披露する彼女を一瞥し、レアは何事かを考えているご様子。
「ふむ、最近暖かくなって来たからな。そろそろ貴様の様な“あたまのおかしな変質者”が大勢現れる時期なのかも知れないな!」
「手で尻を拭く様な輩に言われる筋合いはないわ──!」
「今宵の大いなる試練を乗り越え、このレア様の魂は、また一つ高みへと到達したのだ。何故、変質者にはそれがわからん?」
「……」
あ、ヴィヴィアン、早くもレアが“話の通じない相手”だと認識したっぽい。いや、そもそもこの場には話の通じる相手の方が少ないのだが。
ミストが笑う。
「あはは、レア姉さんの“うんこタオル”にされたヤツが何かエラそうに言っててクッソうけるんですけど! クソだけに!!」
「おのれ小娘──!!」
そうこうしていると、煙草に火を付けた巨漢がずいっと前へ進み出た。
「おう、皆様で楽しくご歓談中のところ、誠に悪いんだがよ。オメー、ヴィヴィアンっつったか? そんじゃそろそろ“本題”に移らせてもらうぜ。そのシグルドと交わした“契約”ってヤツの事なんだがよ」
プイッと顔を背けるヴィヴィアン。
何かこの人、急に人間臭くなってきたな。
「要らぬ! もう契約などどうでも良い。破棄じゃ、破棄する! これ以上、貴様等の様な気狂いの野蛮人共とは関わりたくない! もう嫌じゃ! 我、もう帰る――!」
隣にいたロキが、ホッとした様子で『ふうっ』と息を吐き、俺の耳元で囁いた。
「あらら。やり方はかなりアレだったけど、これでまあ結果オーライかしら」
「ま、まあ、そういう事になるんかな……」
その時。再び大家が口を開いた。
「オイオイ何言ってんだ? まだコッチの話は済んじゃいねえぞ?」
……え?
「し、知るか!」
「なーに。お互い交渉のテーブルについたばかりじゃねーか、もうちょいゆっくりしていけや。それによ、帰る帰るってオメー、ホントに“そこ”から帰るつもりか? まあ止めはしねぇが……えらく“美しい湖”だぜ?」
そう笑い、彼女を召喚する際に使った“公衆便所の浄化槽”を顎で指す筋肉ダルマ。
「……は?」
悪臭を放ち、ポッカリと口を開けるマンホール。
「き、貴様ら──!!」
ここにきてようやく、己がどこから呼び出されたかを認識し、憤慨するヴィヴィアン。しかしその表情は……案の定、真っ青だった。
そりゃそうだろう、まさか肥溜めから召喚されるなどとは夢にも思うまい。どうやら彼女、帰る時はその“湖”に沈んで消えて行くらしいし。うん、流石にこれでは帰還は無理だ。ヒドすぎる。
ちなみに大家さん、もしヴィヴィアンが召喚に応じなかった場合、証拠隠滅の為、この浄化槽に折れたエクスカリバーをブチ込み、そのままフタして帰るつもりだったらしい。
オッサン曰く、『ここに沈めときゃ誰も回収できねーだろ。下痢グソパラダイスだぜ? まあクソの海で素潜りする覚悟があるならハナシは別だがよ』との事。
俺が『でももし、抜き打ちで“今すぐ現物を見せてくれ”って要求されたらどうするんすか?』と訪ねたところ……『んな事ぁカンタンよ。剣が無くなってるって証拠を持ってこいや! で解決だぜ!』と。なんて無茶苦茶な。
ふと、鼻をつまんでその“穴”を覗き込んでみたが、確かにこの容量なら、手を突っ込んだところでどうにも出来ない。深さもある。最低でも首から下……いや、恐らく息を止めて“潜水”する覚悟が無いと、剣を回収する事は不可能だろう。ホントこのオッサン、なんつー事を考えやがるんだ。
「おう、そんなにお気に召したならよ、最近流行りのナイトプールとかいう洒落た肥溜めに浸かって帰るか?」
「……」
帰るに帰れない。その状況を悟った大精霊は努めて平静を装い……
「な、何故じゃ? そちらの都合の良い良いように、我が一方的に契約を破棄してやろうと言っておるのに、何が気に入らぬ? 一体これ以上何を望む??」
ニヤリ。笑う大家。
「おいおい、誰が“契約を破棄してくれ”なんて頼んだよ? ダメだ、契約は破棄させねぇ。なあそうだろ、シグルドさんよぉ」
酒瓶と銀髪を揺らし、笑う酔っ払い。
「おう、そうさ同志兄弟! ヴィヴィアンよ、貴様、なに勝手な事を言っている? “契約”は破棄しない、いや、絶対にさせんぞ!」
上機嫌でウォッカの瓶を呷るシグルドさん。ああ、この人もだいぶ酔ってるな……
「何故じゃ……??」
不思議そうな顔をする精霊に詰め寄る巨漢。
「おう。それよりオメー、ひとつ訪ねてぇんだがよ」
「な、何じゃ?」
「そのよ、オメーさんがシグルドに渡した“神器”ってやつ。それホントに本物か? パチモンじゃねーのか?」
「無礼な! 当たり前だ!」
「じゃあよ、その剣、実は相当なナマクラだったんじゃねーのか? それか造って何百年も経ったせいで、中身スカスカのガラクタになってたとかよ」
「ふぜけるな! ありえぬ! 我が“聖剣Caledfwlch”は幾千年経とうと……」
「だけどよぉ、そのオメーのご自慢のカリだかサオだか言う聖剣様……密林商会で通販してるフツーの“金属バット”にヘシ折られちまったんだぜ?」
嘘吐け、アレが普通のバットなワケあるか。しかしそこは黙っておこう。
「バットとは玉遊びの道具か? その密林云々が何なのかは知らぬが、その様な馬鹿げた事があってたまるか! 言いがかりをつけるのも大概にせよ!」
「数千年も経った骨董品でもか?」
「我を侮辱するか──!?」
「へぇ、数千年経とうと……ねぇ。なるほど、こいつぁ大した自信だぜ。おう、みんな今の聞いたな??」
「おっけー、録画してる!」
「……??」
“ふいーっ”と煙を吐き出した大家さん。お次は何を言い出すのか……
「じゃあよ……製造責任者として保証しろや」
「補償……? 何故、我が貴様等に財を支払わねばならぬ?」
「あ? 俺様は“保証”しろって言ってんだよ。オメー、ヤマダ電器とかベスト電器とかに行った事ねーのか? あぁ!?」
「や、やま……でん? べす、でんき……?」
いやないでしょ。精霊はヤマダ電器行かないっしょ。多分……
「行った事ねぇのかって聞いてんだよ、ヤマダ電器によ──!!」
「いや……ないが」
「嘘ついてんじゃねえ、あんだろ!! じゃオメー、家電とかどーしてんだよオラ! 俺様の目は節穴じゃねえぞ!? 俺様も先週よ、使ってた単三電池の中身が無くなったからよ、『おかしいんじゃねーのか?』ってクレーム入れに行ったンだわ!」
いやそりゃ、電池使えば中身減って当たり前だろ……アンタのはクレームじゃなくて、とんでも理屈のアタマのおかしい言いがかりって言うんだよ。しかし、良くわからない様子のヴィヴィアン。
「えっ……???」
「いや大家さん、アンタ精霊相手に何言ってんスか……」
「うるせぇ、チンポ短けぇヤツは黙ってろ!!」
「いや今それ何の関係も無いっすよね──!?」
困惑するヴィヴィアンに向かって、彼は再び口を開いた。
「おいいいか、ヴィヴィアン。ヤマダ電器とかはな、二十年とか三十年保証とかが当たりめーなんだよ!」
いやしねーよ。最長十年とかの間違いだろ……
「いやいや大家さん、それアンタが散々ゴネて圧掛けて、無理矢理保証切れのテレビを修理させただけでしょーが!」
「うるせぇぞケンベン、粗チンは身分をわきまえて黙ってろ! 保証期間が過ぎてただぁ? なに言ってんだオメー呆けてんじゃねぇぞ。あん時、俺様にはよ、“心の中の四十六年保証”がおぼろげながらに見えてたんだよ! ハッキリと鮮明にな! テメーにはそれがわかんねぇのか!?」
「いやわかんねーですわ。何すか“心の中の四十六年保証”って。だいたいアンタ、保証書なんていつも買ったその日に速攻でゴミ箱に捨ててるっしょ……」
実際、そういうシーンを何度も目撃した事がある。
「ああ? 太郎オメー何か? 夜中の川で石抱いたまま海水浴でもしてぇのか!?」
「いやいや! 海水浴は海ですから!」
「そうか太郎泳ぎてぇんだな──!? おう喜べ、アバズレ共、これから珍しいモンが見れるぜ! 深夜のお魚さんの“エサやりショー”が開幕だ!!」
「いや、ホントすみませんでした黙ります──!!」
俺達の遣り取りを傍観し、困惑した様子の精霊が口を開いた。
「我がシグルドに神器を貸与し、五十年どころか既に数百年は経っている。であれば、その貴様の言う保証とやらも既に無効の時期に入っていると思われるが……」
「オメーさっき『数千年は余裕』とかM字開脚で股パカパカさせながらイキってただろーがオラ!!」
いやM字開脚で大股パカパカはアンタが無理矢理させたんだろ……
「い、いやしかし、その“保証”とやらは、そのヤマデンキ……? とにかくその、最長で三十年だと、先程貴様自身が……」
「それはオメーがそう思ってるだけかも知れねえだろうが──!!」
だめだ、もう訳がわからない。そう、酔ってゴネだしたこのオッサンに、まっとうな理屈は一切通じない。いや、酔っていなくてもだが。とにかくこうなると、何であろうと言うだけ無駄である。
「む、無茶苦茶な……」
「無茶苦茶? こいつぁダメだぜ。この女、全く理屈が通じやしねぇ!」
いやそれ、アンタの方ですから!!
呆れた様に首を振る大家さん。
「仕方ねぇ、本当はこういう事はしたくなかったんだがよ……」
「き、貴様、これ以上何を……」
「おいレアさんよぉ」
アキヒロさんから提供された“大人の道具箱”をゴソゴソと漁っていたレアが、顔を上げた。
「むっ、どうした? 大家よ」
「ちょっとその段ボールの中からよ、オメーさんの高尚な感性で“とびっきりのヤツ”をセレクトしてくれや。このわからずやに……ソイツを使う」
「そうか。しかし“使う”とどうなるのだ?」
「んなモン決まってらぁ、“心の底から反省”するのよ」
「はっはっはっ! そういう事ならば、このレア様に任せておけ!」
「おう、“一番いいやつ”を頼むぜ」
ちょ──!?
大家に言われるがまま、段ボールの奥を物色し始めるレア。スマホを構えて『キタコレ、ぜってーバズるはず!』等と騒ぐミストを見て、ヴィヴィアンの表情が更に固くなった。
俺のシャツを引っ張るロキ。
「ちょっと太郎、もうそろそろこの酔っ払い達を止めなさいよ……」
「無理言うなよロキ、埋められるか沈められる……」
そう彼女を押し返していた時だった、
ヴィンヴィンヴィン……
奇妙な音が周囲に響いた。
何やら、黒い棒状のモノを天に掲げるレア。
「おお見ろ! これは凄いぞ! 何か知らんけどこの“黒い棒”、電池入れてスイッチ押したら“猛々しく暴れ始めた”ぞ! よし、キミにきめた──!!」
その漆黒の野太い棒状の物体は……
「ちょ!? アンタそれ……」
「ぶっ……よりによってソレなのね」
笑いを堪える千姫様と、転げ回るシグルドさん。
「おいおい! こいつぁとんでもない“POCKET MONSTER”だな!!」
POCKET MONSTER……? ああ。それ何か昔、印刷屋のトビーから聞いた事があるぞ。
以前ミストが公園の近くで『ちょっと来週発売のポ〇ットモン〇ターの“黒”予約してくる!』とか騒いでいた時にたまたまヤツと遭遇し、『ナンデ!? ミスト、おめーダメデスガヨ! ナンデ? シカモ“黒”? ナンデ“Big Black Cock”買いにイクノ!? 何でCock来週発売ナノ!? BBC買ウハ、ダメデスガヨ──!?』などと騒いだ事があったのだ。
つまり何かと言うと、その意味はまさに“ナニ”であり、それは“ポケットの中のモンスター”である……と、そういう事らしい。てかトビーのヤツ、今日のBBQに来てなかったな。アイツ、タダ飯だと必ず来そうなものなのに。何処か体調でも悪いのだろうか?
そんな事よりだ。
ヴィンヴぃン、ヴインヴぃン……
漆黒の“荒ぶるモンスター”を握り締め、ヴィヴィアンへと迫るレア。
「き、貴様、何をする気じゃ──!?」
「問題ない、だいじょうぶだ。そう心配するな、大地の精霊よ。何せ本品はジョークグッズです、と箱に書いてあるからな!」
「のうロキや、あれはいったい何に使うものなのじゃ……?」
鶴千代の顔を手で覆うロキ。
「鶴千代! アンタは見なくていいの! ちょっと太郎、今すぐ止める──!!」
酒瓶を振りかざすシグルドさん。
「おっしゃいけ! Big Black Cock!! Big Black Cock!!」
「ぶっ……貴方達、本当に最高よ!!」
「あれ、なんかアタシのティックトック、いつの間にかBANされてね???」
「……ん。大家、さっさとパンツぬがそ?」
「こらロッタ! レア、貴女もいい加減になさい──!」
「おっしゃレア、そのままソイツをケツにブチ込んでやれや──!!」
「はっはっはっ、任せておけ! ゆくぞ! えくす!! かり……」
腰をかがめ、“必殺の突き”の体勢をとる大馬鹿者。
「おいレアやめろ──!!」
ベンチに縛られたままの大精霊が、叫んだ。
「わ、わかった! 保証、保証する! 無条件で保証する! だから頼む! もう止めよ──!!」
ニヤリ、気色の悪い笑顔を見せる大家さん。
「へへへ、毎度あり。オメーよぉ、どーせしょーもねぇ安っぽい剣なんだろ? だったら最初からゴネずにそう言っとけば良かったんだよ」
いやいやいや!! ゴネたのはアンタの方じゃねーか!?




