頼れるアイツは印刷屋
こんにちは! ワセリン太郎です!
季節の変わり目ですね! 皆様も体調等には充分気を付けて頂き、お風邪など召されぬようご自愛ください! ちなみに僕は“アレ”なので、風邪はひけません!!
シャカシャカシャカシャカ……
物騒な住宅街の路地へ、陽気な音楽と片言な挨拶が響く。
「ハイ、レア! オメー、何ヤッテンデスカ? 今日モ、トテモ fuc〇kin デ、クソッタレにイイ天気デスネ!」
そう背後から声を掛けられ、“何事か?”と首だけで振り向くレア。
「ぬっ。その汚らわしい“増える乾燥チ〇ン毛”の様な編み込み頭……貴様、トビーではないか! こんな時間に何をしている? 仕事はどうした? ぷらぷらしている所を見ると、とうとうクビにでもなったか? 働かざる者食うべからずだぞ。恥を知れ、このうんこ製造機め」
彼女にそう言われてニカッと歯を見せ、肩に担いだ古いラジカセをグッと持ち上るドレッドヘアー。彼の名はトビー。住宅街の外れのオンボロ長屋に住む、“国籍不明”の自称ジャマイカ系アメリカ人だ。
どうでも良いがこの彼、ミストからはトレードマークの髪型のみで覚えられており、『いつも犬連れて、頭からウンコみたいなのをいっぱいぶら下げたプレデターみたいなヤツ』という無茶苦茶な認識をされている。さらに言うと、彼女が“映画プ◯デター”を見た事による勘違いで、実は“地球外生命体”で地球へ狩りをしに来ているとも思われており……
ちなみに職業は印刷屋。会社では彼が印刷物のデザイン等を担当しており、地元では“非常に良心的な価格で有名な企業”なのだが……もれなく数カ所、誤字脱字のオプションが無料でサービスされ、結果的に値段相応といった仕上がりになるのが常であった。
「ノーノー、今日ハ休ミデ散歩ダヨ。クビにナッテネーヨ、俺はマダ、レアみてーナ無職ジャネェゼ! 大体オメーニだけハ言ワレたくネーヨクソッタレ、マザー〇ァッカー! アト、チ〇毛トカ言ッテンジャネーヨ、マジfu〇ck!」
トビーはニカニカと笑いながら足元のスケボーを蹴り立て、ラジカセを担いでいない方の手に握ったリードをグッと持ち上げて見せた。
その洒落た柄の紐の先には……怪しげな彼の風貌に似合わぬ、非常に小綺麗にトリミングされたトイプードルの姿が。“彼女”の名はミミ。トビーが溺愛する、彼の飼い犬である。
レアは一瞬そちらをチラリと見るが、構えを崩さない習オバサンから目を離さずに口だけを動かした。
「なるほどミミの散歩か。しかし貴様達、いつも主従揃って、ライターで焦げた陰毛の化身みたいな頭をしているな! あと、残念ながら私は貴様と違って無職ではないぞ。何せ生粋のエリートなのだからな!!」
「ソレヨリ、頭がインモーって何ダヨ? ソレ、タマに人から言ワレルンダヨ、何ナンダクソッタレ! 俺ニモワカル様二教えろYO! fuc〇kin! 」
因みに“クソッタレ、等々”というのは彼の口癖であり、何か特に文面通りの意味がある訳ではない。要はお気に入りの日本語というヤツだ。いや、日本語でないヤツも多分に混じってはいるが。
ただ、それが職場の仕事中であろうが、顧客との打ち合わせの最中であろうが、相手や時と場所を選ばずお構いなしに吐き出される。が、いい加減に彼の周囲の人達はそれに慣れてしまい、文章でいう句読点と同じ様な扱いを受けているというのが、あまり笑えない現状でもあった。
「なに!? 陰毛を知らんのか? 陰毛とはすなわち、〇ン毛の事だ。つまり貴様の頭部そのものなのだ。そんな事も覚えていないとは……まったく情けない。不勉強だぞ、この歩く陰毛ひじきめ」
「知ルカヨ、クソッタレ! ナンダ、チ○ン毛の事カヨ、勉強ニナッタゼ、フザケンナ! おれハ、ひじき食ッタ事ガネェデスガヨ! アトナ、ミミの事ハ馬鹿ニスンジャネーヨ、FU〇K。ミミはコンナにもエレガント、ダローガ、クソッタレ!」
そう言われ、彼の足元をチラリと見るレア。確かにまあ、どうにも金が掛かっていそうだというのは一目で解る。
習オバサンの隙を伺いつつ、レアは答えた。
「ふむ、エレガントか。だがミミはちょっとなぁ……」
そう。彼女からすると、そんな曖昧なものより“食べ応え”の方が遙かに重要なのだ。毛を部分的に残し、極限まで芸術的にカットされたミミの姿ではあるが……レアの目には正直、『何か食べられる所が少なそうだな』としか映らない。
「ナンダヨ、俺のミミに文句アンノカヨ!? “コンチネンタル・クリップ・カット”、バカにシテンジャネーゾ、クソッタレ! マ〇ーファ〇カ-!!」
「うんちねんたる……ってなんだ??」
トビーに『文句あんのか?』と問われ、再びチラリと視線を落とすレア。彼女を見上げ、遠慮がちに尻尾を振り始めるミミ。
「いや、何というかなぁ、和牛というのはもっとこう贅沢な感じで……そもそもだ、ミミはあまり食うところが無いではないか。見た目は骨付き唐揚げの集合体の様ではあるのだが。だがバーベキューだとアレだな、別に和牛だけでなくて手羽先なんかも一緒に食っても良いのか?」
「ミミを食ウ? レア、オメー、何言ッテンノカワカリマセンヨ! このヴィッチ! 頭オカシインジャネーノカヨ!?」
「わかったわかった。貴様がそこまで推薦するのであれば仕方ない。どれ、後でミミも頂くとしよう」
「ハ……?」
この時の彼は、溺愛する愛犬を危険に晒してしまった事に……全く気付いていなかった。
「イッタイイチロ……」
その時、ようやくトビーは“レアと睨み合う人物”の存在に気付く。彼はレアの背後の路地から近付いた為、ブロック塀の死角に居るオバサンが声を発するまで、彼女がこんな場所で一体何をしていたのかを全く把握していなかったのである。
目を見開き、大袈裟に揺れ動くドレッドヘアー。
「Oh、ファ〇ック──!? クソッタレ、何テ日ダ! “チカコ”、テメーモ居ヤガッタノカヨ!? ツーカ何ダヨ!? 何デ? 何デ、ストリートがブッ壊レテルンデスカヨ!?」
“近子”、要は習オバサンの本名だ。どうやら彼、彼女と何かしらの因縁があるらしい。
「何だトビー。貴様、習オバサンと知り合いだったのか?」
レアがそう言った瞬間。
「フゥウァァァァ! ウェイッッツッ──!!」
不意打ち――
レアに隙を見た習オバサンが飛び掛かり、右の強烈なサイドキック! だがレアは、路上へ転がる在寅氏を瞬時に蹴り上げ、まるで畳返しの様に盾とし、その一撃を華麗に防いで見せた。
──ズボフッ!!
もはや無脊椎の軟体動物と化し、路上に倒れてピクともしない在寅氏。だが無常にも、それを気に留める者など何処にも居ない。いや、一人居た。
「オウ、F〇CK──!? 何デ!? 何デ、ヲッサンが死ンデルンデスカ!?」
死んでは……いない。
頭を激しく振りながら金切り声を上げるトビー。うっとおしそうに彼を見るレアと習おばさん。
「貴様は本当にやかましい男だな……」
「イッタイイチロ……」
それから二人は幾度か激突し、強烈な拳や蹴りの応酬を繰り広げる。
再び、距離を取って身構える両雄。双方共に、一歩も退く気は無さそうだ。
中指をおっ立て、それを習オバサンへ突き付けて見せるトビー。
「ソリャ、知ッテルニ決マッテンダロ! コノ、ババア! 毎朝、ウチノアパートのゴミ袋開ケテ、自分家のゴミをブチ込ンデ行クカラ、俺ハ注意シテヤッタンダ! 『ヤメロ』ッテナ!」
「ほう、それがどうした?」
「ソシタラ、テロドスの糞ヲ、窓ノ隙間カラ毎日、毎日、投ゲコミヤガルンダヨ! オ陰デ、俺ノ家の台所ノ三角コーナーは、ヴェリーヴェリー硬いクソがエヴリデイホールインワンさ! 解ルカ? コノ悲シミがオメーにYO! ファッ〇ン、シィット!!」
トビーの話を聞き、首を傾げるアホの子一号。そう、彼女達も毎朝欠かさず……太郎の部屋のポリバケツへと自室のゴミを豪快にブチ込む為、彼が何に怒っているのかが全く理解出来ないのである。因みにトビーの自室の台所の窓、元々鍵が壊れて閉まらなくなっている為、習オバサンの嫌がらせを防ぐことが出来なくなってしまっていた。
「……うん? ウン◯コ? よくワカランが、そう言われてみると貴様の髪型は……長い乾燥ウ〇ンコが沢山ぶら下がっている様にも見えてくるな! あっ、トビー貴様、もしかしてウン〇コ製造機ではなく、実は◯ウンコ製造工場だったのか??」
レアの中では、製造機単体より工場の方が“生産能力”か高いという認識な様子。鼻息も荒く、頭を掻きむしりながら激怒するトビー。
「ヘイ、レア! 俺は“ウンチング・ファクトリー”ジャネーヨ!? モウイイカラ、そのババア、ブッ飛バシチマエヨ! 毎日、キッチンから割り箸で犬のクソを摘マミ出ス、俺ノ気持チにナレッテンダ! 汚レツチマツタ悲シミニYO! F〇ck You! OK??」
「トビー貴様、さっきから一体何に怒っているのだ? あっ、わかったぞ! 貴様、ダニがいっぱい居そうなアタマしてるし、とうとう内部に卵を植え付けられ、身体の方まで乗っ取られてしまったのだな? 顔面の造形も含めてなんとも気の毒なヤツだ!」
「オメー、マジデ何言ッテンノカ、ワカリマセンデスガヨ!」
話が全く噛み合っていない。
そうしていると……レアの足元を、何か汚い毛玉の様な物体が駆け抜けて行く。先程放り投げられた竹輪を食い終え、ようやくこの場に戻って来たテロドスだ。
テロドスは、ひっそりとミミの方へ小走りに近付いて行き……その後方へ回り込んで後足で立ち上がると、頭上で騒ぐ飼い主に気付かれぬ間に、彼女へと“がっぷり四つ”で組み付いた。
「コビッド……コヴィッド、コビッド……」
腰を擦りつけながら白目を剥き、涎を垂らし始める人面犬。それに一切気付かぬトビーは、レアに向かって熱く語り続けている。
「ソレニ、あのテロドスの野郎! コノ前チョット目ヲ離シタスキニ、俺のミミとファ〇ク、シヤガッテ! fu〇ckin dog! アイツハ、アイツダケハ絶対ニ許サネェ──!!」
カクカク……カクカク……
ポジションを確かめるテロドス。
カクカク……カクカク……
どうやら、位置が定まった様だ。
勢いよく突撃する人面犬。
「だ、タブりゅエイチオゥゥゥ…………――ワクチンッ――!!!」
「キャイン──!?」
何事か、叫ぶミミ。
カクカクカクカクッ、カッカッカッカッカッ! カッカッカッカッカッ!
ミミに向かって猛然と腰を振り始めるテロドス。
良くわからぬ話に飽きたレアは、トビーを無視し、再び習オバサンと激突する!
「オイ、テメー等、俺ノハナシ聞ケYO!?」
レアの右フックを柔の動きで受け流し、肘間接を極めてから投げ飛ばす習オバサン!!
しかしレアは自ら跳躍し、着地と同時に素早い足払いを仕掛ける。半歩退いて前脚を上げ、それを回避する習オバサン。
「ぬっ……やはり貴様の力は侮り難い。オバサンよ、やるではないか!」
「イッタイイチロ……」
二人は正面衝突し、小細工一切無しの力比べの体勢に入る──!!
「ヘイ、レア! YOU、俺ノ話、聞イテンノカヨ!?」
横槍を入れるトビー。だが緊張状態にある二人からは一切相手にされない。だがその時。
「……んッ? ミミ! ミミッ!? エエッ──!?」
トビーはここに来てようやく気が付いたのだ。そう、愛犬ミミを背後から力づくで押さえ込み、カクカクと高速で腰を振り続ける“汚い人面犬”の存在に。
「オウ、ガッド!? テロドス!? オメー、何“ヤッてんの”!? ホォウリィィィィ、シィィィィッッツット────!!!」
彼の叫び声を聞き、力比べのまま其方へ首を向けるレア。
「どうしたトビ-。貴様、何を発狂しているのだ?」
「ミミが! ミミがFU〇Kサレテル──!? テメー、テロドス! ファッキンドッグ!!」
「まったく。ふぁっくふぁっくと本当にやかましい男だ……」
「イッタイイチロ……」
楽しい決闘を邪魔され、呆れた様にレアへと同意する習オバサン。
カクカクカクカクッ……カッカッカッカッカッ! カッカッカッカッカッ……
「――ワクチン! ワクチンッ!! ワクチンッッツ――!!!」
周囲の目もお構いなしに、欲望のまま腰を振り続けるテロドス!!
「マジ、フザケンナ! ファッキンテロドス! コノ糞イヌ、アタミのオ土産のキーホルダーミタイニ“カクカク”シヤガッテYO! テメーのソノ汚ネェ金玉、二度ト使イモノにナラエネェ様ニ、俺ガ華麗ニ叩キ割ッテヤルヨ! Let's go! クルミ割りニンギョー──!!」
トビーは手に持った赤いラジカセを両手でしっかりと掴み、それをまるでゴルフクラブでもスイングするかの様に天高く振り上げる。
カクカクカクカクッ……カッカッカッカッカッ!
涎を垂らしながらミミに向かって腰を振り続けるテロドスであったが、ラジカセで日光が遮られ、ようやくここで“己に迫り来る危険”の存在に気が付いた。腰振りを止め、トビーを見上げて首をかしげる人面犬。
「ゴ……ゴモウ?」
次の瞬間。
「FU〇K! FU〇K! FU〇K!! コノ、ファッ〇ンドッグ! 俺のミミとF〇CKシヤガッテ! 今日トイウ今日ハ許サネェ! 俺がテメーをファ〇クしてヤルゼ! Get lost asshole──!!」
「コ、コヴィッド──!?」
「ファァァァァァァッッッック──!!」
全力で、赤いラジカセをフルスイングするトビー──!!
──ブォンッ、バキインッッ!!
「ア、アダノムッッツ――!?」
風を切るラジカセがテロドスへと迫り、その軽い身体を思い切り吹き飛ばしたのだった。




