さらばテロドス、白昼に死す!
こんにちは! ワセリン太郎です!
本文中にも記載したのですが、よく児童公園なんかに設置してある“水飲み場のアレ”、皆さん名前はご存知でした? 僕は知りませんでした。
何やらアレの正式名称は、“立形水飲水栓”というそうです。興味を惹かれて調べると出るわ出るわ。何とアレ、Amaz◯nや楽◯市場等で普通に販売している様です。しかもお値段、三千円から八千円程で。一家に一本在っても良いかも知れません、なので皆様、今年のクリスマスには大切な家族や恋人へ、“立形水飲水栓”をプレゼントしてみてはいかがでしょうか? 多分、いや間違いなく喧嘩になると思います。
トビーのラジカセによる渾身の一撃を脇腹へと喰らい、きりもみ状に吹き飛ぶテロドス──!!
「チャ、チャアイナマネェェッ──!?」
強引にミミから引き剥がされて白目を剥いた彼は、弾力に恵まれた濃い鼻水を勢いよく引き延ばしながら激しく回転して宙を舞う!! それはまるで鼻水の描く奇跡の螺旋。
そして次の瞬間、それはもう……悲劇、そう、もはや悲劇としか言いようのない、兎に角そう表現するしかない、救いのない事態が起こってしまったのだった。
──ブウォーッ、ブッ、ブォ──ッ!!
真昼の住宅街へと鳴り響く、場違いな大型車のクラクション──!
何と運悪く、土建屋の現場用トラックが、住宅街にしては少々……常識を疑う速度で突っ込んできたのである。
「パァ、!? パァンデミッッックッツ!!」
あまりの事に理解が追い付かず、彼は世界の致死率が2%以下である事を神へと祈った。だが願いも空しく、急に路地へと現れた“トラック”の前輪は、空飛ぶテロドスの身体を容赦なく吸い込んでしまい……
「ダ、だぶryう、エイチオウッ!?」
そして、その瞬間は訪れてしまった。
「ハッピーイィィ! イイスタァァァァァ──#$&%$$(’くあs&%──!?」
ドカン、バキンッ!!
キキイイィィィィッッ!!
トラックも慌てて急停車を試みるが……時、既に遅し。そう、車輪は彼の命を一切の容赦なく、粉微塵に粉砕してしまったのだった。爆散し、ゆっくりと宙を舞うピンクスライム。
硬く乾いた音に目を見開き、レア達は大声で叫ぶ。
「「テ、テロドス──ッ!?」」
こうして今、一つの生命が終わり……路上で捏ねる、出来たて新鮮ハンバーグの材料が完成してしまう。まるで熱犬だ。
「フ、ファァァァック──!? テ、テロドスの野郎ガ、“ナゲットの材料”ニ、ナッチマイヤガッタデスガヨ!! トゥルットゥトゥットゥー、I'm lovin'it――!?」
突然の事態に頭を掻きむしるトビー。彼もまさか、この様に痛ましい結末を招くとは露ほども思わず……
激しく揺れる、彼の頭にぶら下がった幾つものウンコ。レアは絶望した様子で彼を責めた。
「ト、トビー!? 貴様、何ということを!! こ、これでは、これではテロドスが……もう食べられないではないか! 見ろ、どうしてくれる!? テロドスが、テロドスが……深夜の通販番組でマイキーが売ってる、高性能ミキサーに掛けられたミンチみたいになってしまったぞ!!」
本当に食べるつもりだったのだ。予想外の言葉に驚きを隠せないウンチング・ヘアー。
「ハ、ハァ!? レア、オメー、マジでコノ気色悪イ人面犬、食ベル気ダッタノデスカヨ──!? アタ、アタ、アタマ、オカシインジャネーノ!?」
「何を言う、鏡を見てみろ! 頭がおかしいのは貴様だ、トビー! だいたい貴様の様な、頭皮も股間も陰毛に包まれたパーフェクト・インモリアンに、私がどうこう言われる筋合いはない! まったく、頭部からもウンコを沢山生やしおって。まるでウンコを収穫可能なバナナの木ではないか!」
「俺ハ、頭ノ中身ノ話ヲシテルンデスガヨ!」
「なに? 見てわからんのか、私は頭が良いに決まっているぞ! トビー、貴様はせめて全身の上下、どちらが股間なのかを決めてから出直して来るが良い!」
じわり……レアへと中指を立てるトビーの背後へ迫る、習オバサン。
そして在寅氏は……未だ路上に倒れ、思い切り白目を剥いて意識を失ったままだった。この光景、もし事情を知らぬ者が目撃したとすれば、きっと貰い事故でハネ跳ばされたのは飼犬でなく在寅氏、その人であると勘違いしてしまった事だろう。
──バキインッ!! ──バキインッ!! ──バキインッ!!
凄まじい震脚の音に驚き、何事かと背後を振り返るトビー。次の瞬間、相当に気合いの乗った掛け声が辺りへと響き渡った。
「フウァァァァアア! ウェェイッ!!」
力を溜める習オバサン。そして……
「──ティィィイックッ!! トッッックッッツ──!!!」
圧縮された何かが螺旋の力を伴い、大地を離れて天へと駆け昇る。
それは、四千年の“秘奥義”。
──ズドオァンッッ!!!
習オバサンの全身から発される、“勁”を集約した凄まじき“一撃”。
それはほとばしる龍脈の如く、大地を叩き割る踏み込みと共に熱を帯びて繰り出され、解き放たれた強力無比なる“絶招”が……トビーの生命の中心をしっかりと捕らえたのだった。
「マ、〇ザー……フ〇ッカー……」
哀れ、強打された彼の意識には……割れた大地の中央へと、丸め込まれた様に横たわるしか、道は残されていなかったのである。ゆっくりと路上へと沈み行く、ウンコ製造工場。
レアはトビーの惨状を目にし、『おっ、何かコイツ、ヤム〇ャみたいになってんな、まるでアタマに一杯ウンコ生やしたヤム〇ャだな』等とも一瞬考えはしたが、あまり興味が無かったので……『生きてるのか? うむ、何か大丈夫っぽいし別にいいか』と気を取り直して完全に無視し、それよりも悼むべき命へと哀悼の意を捧げたのだった。
「な、何という事だ……テ、テロドス……」
悲しそうに目を瞑り、路上へと片膝をついて座り込む彼女。その両手には……衝撃で激しくねじ曲がり、見るも無惨な形状となった、テロドスの黒縁メガネの残骸が。
その時だった。
テロドスの尊い命を奪ったトラックの運転手が『チッ──クソが、ふざけんな』と捨て台詞を吐き、先程驚いて停止させてしまったエンジンのセルをキュルキュルと回し始めたのだ。
立ち上がり、運転席へと歩み寄るレア。
「おい貴様! テロドスはな、私の今日の晩ご飯だったのだ! これを一体どうしてくれる? ミストがホームセンターで何か知らんがデカイの買ってきて、毎日バーベキューするとか言っていたのだぞ!」
一瞬、混乱するが、慌てて睨みをきかせる土木作業員。
「あぁ? 何言ってんだテメー」
そう凄み、威嚇して見せる運転手だが……目の前のツナギ女は、一切気に留めた様子も無い。
「大体、今夜はハンバーグの予定ではないのだぞ! バーベキューなのだ。こうなっては仕方がないから“ミミ”から食べるか……? 貴様はどう思う? しかしミミは骨ばかりであまり食べるところがないのだ。まるで鶏だな、手羽先と言っても良い。つきましては貴様が全ての責任を取り、我々のバーベキュー用の和牛を……あっ、お前ん家、犬飼ってないか??」
訳のわからない事を言うレアを一瞥した“彼”は、『何だこのアマ、うるせーぞ』とだけ言い残し、クラッチを踏んでシフトをセカンドへと入れる。
──キキイッ。
そして荒めにアクセルを踏むと……謝罪の為に車を降りる事もせず、その場から早々に立ち去ろうとしたのであった。まあ、そもそもの原因はトビーの方にあるのだが。いや、大元を辿れば元凶はレアだ。
「あっ、貴様待て! テロドスを勝手に精肉しておいて逃げる気か──!?」
その時、足元に落ちていたトビーのスケボーに気が付くレア!
「ぬっ!? トビーよ、この“貴様の遺品”、少し借りるぞ!!」
そう言うと彼女はスケボーを蹴飛ばし、走り去るトラックを追い掛けようとしたのだが……
その蹴飛ばされて勢いよく走り出したスケボーは、路上へ仰向けに倒れた在寅氏の額へと真っ直ぐに突き刺さり、真っ二つになったメガネの中央から……まるで公園に設置された立形水飲水栓の様に、ぴゅぴゅーっと鮮血を吹き出させた。
「ア、アイゴォォォォ……」
額を叩き割られ、うめく在寅氏。
「あっ……!? ヤバイな! おいオッサン、貴様大丈夫か?」
返事がない、ただの……
「まあいい。おのれトラックよ、よくもやったな! このレア様が成敗してくれる!!」
諦めず、もう一度スケボーを蹴り飛ばすレア。
しかし今度は……白目を剥き、口から泡を吹いているトビーの尾てい骨へとバックリ突き刺さる。
──ポキン。
骨か何かが欠ける音。
「……あっ!? 何か今、まあまあヤバイ音がしたぞ!? ヤバイ、ヤバイぞ、ヤバイな!!」
この語彙力。
レアは再度気を取り直してスケボーを蹴っ飛ばし、走り出したそれに飛び乗り全力で追い掛ける。すると逃走したトラックは……丁字路に差し掛かり、邪魔な対向車に道を譲って一旦停止している形となっていた。背後から追いすがるレアに気付き、苦々しく舌打ちをする運転手。
「よし、止まっているぞ! そのままそこで待っていろ!」
だがしかし、再びトラックはスキール音を立てて走り出す!
確かにレアは常人に比べて遙かに俊足ではあるのだが、如何せん人の脚で車に追いつくのは難しい。しかも一旦停止を終えたトラックは左折を開始し、そこから先は……非常に速度の乗る、所謂見晴らしの良い直線道路というヤツだった。
実際のところ、彼女の乗るスケボー自体はかなり速度が出ているのだが、このまま車を追って左折し、少しでも減速してしまうと……恐らくもう、二度と運転手の視界には入らなくなるであろう。
(くそっ、ここまでか……)
レアがそう思った時だった。
後方より、恐ろしく気合いの入った“勇ましき掛け声”がこだまする──!!
「フウァァァァァア……ウェイッッッッ──!!!」
彼女が一瞬振り向くと、習オバサンが……先程バットに破壊されて路上に落ちていた鎖鎌の分銅に、まるで陸上のハンマー投げの様な体勢で遠心力を掛け、全力でブン回しているのが目に入った。
一瞬、二人の視線がバチリと噛み合う。
ウォンウォンウォンウォン……
長い鎖が大気をかき混ぜる、重い音。
レアは前へ前へと全力で駆けながら……“その瞬間”が訪れるのを信じ、全感覚を研ぎ澄ましてじっと待った。
次の瞬間。陽の輝きを弾く黒鉄が、大気を激しく切り裂く。
レアの背中へ向けて、習オバサンが分銅を全力で投げつける――!! それがもし、背中に当たれば命は無い。
しかしスケボーを蹴るレアは、しっかりと前方を睨み据えたまま……じっと“ソレ”の到着を待った。彼女の心に迷いは……ない。
そして。
(今だ!!)
彼女は右手を虚空へ伸ばし、弾丸の様に隣を過ぎ去る“それ”の末尾を迷わずしっかり掴み取る──!!
──ガシッ、ブォンッ──!!
砲弾の様な速度で飛んできた分銅の慣性に全身を引っ張られ、スケボーに乗ったレアの身体が異常な加速を開始する。それを見届け、ニヤリと笑って好敵手へ背を向ける習オバサン。そう、二人はテロドスの仇を討つ為、無言で意思を通わせ共闘したのだ。
そう。昔、誰かが言った。強敵と書いて“とも”と呼ぶ……と。
トラックを追い、路上をカッ飛んで行く阿呆のスケボー。
それから習近子は、足元に転がっていたレアの〇ーバーイーツのリュックを開けてゴソゴソと中を漁ると、紙皿と割り箸が入っているのを見つけて満足気に笑い、路上に散らばったテロドスの残骸を一枚一枚、丁寧に回収し始めたのだった。
「ヲニク、オニク、オイシイ、オニク。カイシュウ……カイシュウ……ヤキニク、ヤキニク……ヤキニク、ヤイテモ……◯エ、ヤクナ……」
僅かながら意識を取り戻し、薄らと眼を開けるトビ-。だが身体は重く、指先一つも動きはしない。
「ホォウリィシィイット……オメーモ……オメーモ……犬ノお肉、食ウンデスカヨ……」
そこまで呟くと、スケボーの先端で尾てい骨を破壊された気の毒なジャマイカンは、ゆっくり……ゆっくりと意識を失って暗闇に囚われていったのだった。
「イッタイイチロ……」
“今晩のお肉”を集め終わった習オバサン。彼女は傍らでガクガクと震える“ミミ”を見つけ、それを小脇に抱え上げてノソリと立ち上がると……ニヤリと笑って自宅の玄関を開け、奥の台所の方へと消えていったのであった。
そして彼等は真実を……まだ、真実を何も知らない。きっとこれからも、その事実を知る事は決してないのだろう。そう、習家の裏庭には……“予備”のテロドスがまだ“十九”匹存在し、まるで牧場か何かの様に量産され続けているという事を。




