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その34.ライラン、レイルダムアを探す


「食らえ、正義の剣っ! トリャーギャーーー!」

「突っ込むなと言ってるだろうがー!」


 勢いよく突っ込んだケロ(俺です)はカウンターをもらい、さらにネクストターンの敵から攻撃の狙いを定められる。

 慌ててアルディウスが攻撃予定からすぐ出せるディレイに変更。はは、さすが男前。


「おおアルディウス殿、かたじけのうござる!」

「じゃなくてだな……」


 言葉をぐっと飲みこみ、アルディウスはロコナを見る。


「ロコナ、あんたタンクだろう! 笑ってないで、このカエルを前に出さないでくれ!」

「あはは! あたしはライランを守るのに手いっぱいでねえ」


 大嘘であるわけだが。少なくともケロに攻撃が集中し、それをアルディウスがかたっぱしからしのいでいるので、ロコナとライランは攻撃するだけである。


「いや、アルディウス。あんたは意外に面倒見がいいね。隙の無い男だと思っていたけど、感心したよ」


 そんな話をしたいわけじゃないアルディウスだが、ロコナに取り合う気がないことはわかるんだろう。結局不満げに黙り込む。いやあ、楽しいねえ。剣藤さんがどう思ってるかは知らんけど。


 ぎゃーぎゃー騒ぎながら、俺達は灰積もる森を目指していた。

 大陸を北にどんどん進めば、ある地点から立ち枯れの木ばかりに変わる。

 さらに進めば、物寂しい静けさと不穏さが漂う中、見慣れた白と黒と灰色の森がその入り口を見せた。


「久しぶりですなあ」

「肌寒いなとは思っていたが、もうかなり冷えるね。大丈夫かい、ライラン?」

「私は大丈夫。ありがとう、ロコナさん」


 NPC達は衣装チェンジ。舞台が南島の暖かいチェリヤから、北方の灰積もる森になったからね。

 ロコナは傭兵時代のコートをランク上げしたデザインに、アルディウスはチェリヤのひらひら涼しい行商人の服装から、雰囲気を残しつつ防寒と戦いやすさを意識した旅装束に。アルディウスの武器は双剣なので、動きやすいようすっきりしたシルエット。

 で、ケロは特に変更なし、なんだけども。


「ケロタニアン、ほんとに大丈夫?」

「もちろんでございます! これしきの寒さ、問題ありません。なにより、ライランの常のお心遣いが一番あたたこうございますよ」


 ケロはよくヒロインを褒めるんだけどさ。お嬢さん、ここに来る前にケロに分厚いもっこもこのコートを着せようとしたんだよね。寒くなったら冬眠しちゃうかもしれない、とか言い出して。

 カエル族って寒すぎる場所に連れていこうとすると「冬眠しちゃうからやだ」って断ってくる。それを知ってるんだと思うけど、ほんとレアな情報ばっか持ってるよ。


***


「おじいちゃん、こんにちは!」

「おお、また来たのか。こんな地に本当に何度も来るとは、奇特じゃのう」


 爺、顔は大変うれしそう。ライランの今日の手土産は枇杷ゼリーで、それを見てさらにしわがしわしわである。このゲーム、お菓子の種類もすごい。実際に買えるお菓子もあるし、攻略対象にはイケメンパティシエもいる。


「おじいちゃん、聞きたいことがあって。私達、レイルダムアを探してるの」


 枇杷ゼリーを無心で頬張っていた爺に、みんなの分の茶を淹れながらライランが尋ねる(家主が淹れろとは思う)。

 爺はぴたっと動きをとめ、スプーンをおろした。


「レイルダムアかね」

「うん……おじいちゃん、なにかご存じないですか」

「そうじゃな。懐かしい名前じゃ」


 一拍の間をおいて、爺は口を開く。


「この森がこんなになる前は、たまに迷子になる者がいてな。ここに泊めてやることもあったのう」

「レイルダムアの人が?」

「ジークジュルスへ行った帰りに、たまーにおったんじゃよ。彼らは空の星さえ見えれば帰れるんじゃが、天気が悪かったり、森が深すぎたりすると、わからなくなってしまうんだと言っておった」


 枇杷ゼリーをすっかり食べ終えると、爺は立ち上がった。部屋をごそごとしてなにかを持ってくる。

 テーブルの上に、美しい形の古いランタンを置く。ごとりと少し重たい音。


「交易使と言っておった。国の命で交易しとるのだと。あとからまた来てな、これを置いて行った」

「きれいなランタン!」

「おや。これ、普通のランタンとは違うようだね?」


 目ざとく気づいたのはロコナ王女だ。これはシナリオ通りなんだが、中身がホンドウなんで、そのうち知ってること言いたがり罪とか犯しそうだとつい警戒してしまう。基本はこいつ、まじめにやってんだけどね。ついね。


「そうなんじゃ。これはな、火じゃなく、なんと中に閉じ込めた星が光るんじゃよ」

「え、すてき! 見たいです、おじいちゃん」


 ファンタジーな設定にがぜん興味を引かれたらしく、ライランはランタンをまじまじと見始める。


「ふほほ、そうじゃろう……だがな、これはもう光らんのじゃ」

「……そうなの?」

「レイルダムアの魔法でしかな、光らん。やつは時々来ては、これに魔法を吹き込んで光らせた。だいたい消える時期になると、また現れてな」


 寂しげな口調で、爺はランタンをそっとなでた。


「わしは火を使うこともあるが、好きではない。森の者達もそうじゃ。だがこれなら、軒先に吊るしておける。そうすれば迷った人間が見つけてここにたどり着けるかもしれん。

 もしまたレイルダムアの迷子を見つけたら、どうか助けてやってほしいと、頼まれていたんじゃよ」


 ゴドワス爺がライランを見る。


「これをおまえさんに託してもいいかね?」

「私に?」

「レイルダムアはきっと、噂の通り、滅びたんじゃろう。この百年、強く禍々しい力が、常に北から流れてくる。無事でいるとはとても思えん。

 わしは地精じゃ。この地で生まれて、消えるときはこの地とともに消える。

 だからこのランタンも、生まれたところに返してやりたいのじゃ」


 ランタンの取っ手を持ち、ライランに差し出す。


「あの交易使達は、優れた魔法を持つ、気のいい連中じゃった。弔いをしたいが、わしはこの地から離れられん。だから、もしおまえさんがレイルダムアに行くのなら、どうかこのランタンを持って行っておくれ」


***


「こんなもんかい? 手ごたえがないねえ」


 倒され消える魔物達。ロコナ王女がイキっておられます。

 ゴドワス爺の庵から北に進むと、レイルダムアへ近づくことになり、敵のレベルが一気に上がる。

 が、ロコナ王女とアルディウスに爺謹製の灰避けの魔法をかけてもらい、我らライラン一行の旅は非常に順調である。アルディウスの厳命により、ケロがおとなしくしているおかげですね。


「王女様は国を放って大陸から帰ってこないと聞いていたが、まさかここれほど頼もしいとは思わなかったな」

「勘違いしないでくれよ。あたしが大陸をうろついてたのは、禍をなんとかしたかったからさ」


 ふたりは華麗に会話を交わしながら前を歩き、その後ろをライランとケロがとてとてついていく。なんか足音からして違う気がする。


「敵の種類が、ずいぶんと増えましたなあ」

「ああ。ただ腕っぷしが強いだけならいいが、ずる賢いやつには気をつけないとな」

「我ら、腕っぷしだけですからなあ!」


 カカカと笑えば、ロコナとアルディウスがおまえが言うなとちゃんとなまぬるい視線を返してくれる。

 いやー、結局回復系いないもんね。灰森だってのにさ。

 大剣、双剣、武闘家に、騎士といってもゴミ回復のケロタニアン。なんと見事な脳筋構成。たいていはヒロインか自由枠がヒーラーになるもんなんだけど、お嬢さんは武闘家しか育ってないし、今回だとケロすら外せないし。


「回復薬はいっぱい買ってきたから! 任せて!」

「うんうん。ライランのそれは緊急用だよ。大事に使わないとね」


 お嬢さんのアイテム袋は限界まで詰め込まれている。んだけど、このゲーム、そこまで回復・強化系アイテムって持てないんだよね。なんでかって、そりゃイベントのため。ピンチにならなきゃおいしくないからだぁ。


「だいぶ進んだはずだが、同じような風景がずっと続くな」

「そうだね……」


 そりゃ、同じとこぐるぐる回ってるからね。

 ライランは知らないことだが、灰積もる森北部は迷いの魔法がかかっている。この迷子時間がクリアに必要な時間なんで、無駄ではない。俺が退屈なだけで。


「ここは、夕暮れもないんだね」

「そのようです。ライラン、お疲れではありませんか? 暗くなってきましたし、キャンプができるところを探してはいかがでしょう」


***


 キャンプでは、アルディウスの結界スキルが役に立つ。一時的にセーフエリアを作ることができて、その中なら敵に襲われないし、体力魔力が時間経過で回復する。

 通常の冒険パートならスキップされる部分でも、今回はメインのイベント扱いなので、アルディウスはちゃんといろいろやって結界を作っていく。地面に石を置きーの、枝に紐を結びーの、中心に魔方陣を描きーの。ちなみに結界の中なら火を使っても大丈夫、という設定。

 で、あとは焚火を囲んで、雑魚寝で夜を明かす。


「アルディウスさん、料理お上手なんですね!」


 用意された夕食は、炙ったパンとチーズ、それにシチュー。ちゃんと美味そう。ミルク持ち歩けんの? って感じだが、このラナテルデスには保存が利くミルクがある。フララムって羊みたいな動物がいて、こいつは食べた花によってミルクの味が変わるし、さらに毛の色も変わって、料理にお菓子に衣服に大活躍。ラナテルデスの生活を華やかにする看板動物である。


「やっぱり、ずっと行商をされてたからですか?」

「まあな。当番制だったから覚えたんだが、他の連中の飯がひどすぎて結局ずっと俺がやっていたよ」

「はは。器用そうだもんな。あたしがその場にいても、アルディウスを頼ることになっただろうね」

「いいなあ。私もお料理、がんばらないとなあ」

「好きな者がやればいいのですよ。ライランは、なにか得意なことや、好きなことなどはないのですか?」

「私? 私は、なんだろう」


 うーん、と真剣に頭をひねりだす。軽く振っちゃったけど、趣味とか聞かれると詰まる人も結構多いよな。


「あたしは旅だね。きっかけは禍だが、性には合ってた。知らない土地も人も、トラブルも、面白い」

「王女は、国には戻らないのか?」

「そりゃいつかはね。だが、王が元気なうちは好きにさせてもらうさ。今回で禍を収められると決まったわけじゃないしな」

「弱気だな」


 アルディウスを横目に、ロコナ王女は小さく笑って肩をすくめた。


「おまえには、不甲斐なく見えるよな。それは申し訳ない。だが、百年誰も解決できなかったことだ。楽観はできない。……みんな、諾々と受け入れていたわけじゃないんだ」


 揺れる火を見つめる。


「エラも、エラの父親も、ずっと記録を続けてきた。神官達が受け入れろと言っても、あたしが従ういわれはない」


 チェリヤには、神樹教がある。そしてその神官達は、禍は『果たすべき務め』だと位置づけている。


「神樹の恵みには感謝している。神樹のおかげで、小さな島しかないチェリヤでもやっていけてる。それでも、そのために人を犠牲にしなければならないんだったら」


 ロコナのパンをつかむ手に力がこもる。自分で気づき、ゆるめたあとまた笑顔を作った。


「いや、国の面倒ごとを愚痴るのは違うね。ライランは本当によくやってくれてる」

「勝手に終わらせないでくれ。続きが聞きたい」


 アルディウスの声は、冷たく硬かった。ロコナは一瞬戸惑い、結局表情を沈ませた。


「……そうだな。おまえの村が滅んだことが務めだと言ってるんだから」


 ロコナはアルディウスに向き直る。


「過去は取り戻せない。でもあたしは、探し続けるよ。禍を失くす方法だけじゃない。印がついた者達を救う方法も、いなくなった者達の行方も」


 求めた答えだったのか。アルディウスは少しだけ、表情をやわらげた。


***


 夜更け、そろそろ眠りのシーン……というところで。

 ライランが手を握ってきた。


「どうされました、ライラン?」

「ケロタニアン……ちょっとついてきて欲しいの」


 ここで、ドキッ……なんてミリもさせてこないんだから、ある意味お嬢さんへの信頼はすごい。おそらくお嬢さんの頭の中には、ロマンスのロの字も入ってないのだからして。


「アルディウスさんに、聞きたいことがあって……」


 だがそれはケロなしで行ってくれ。

 今はいわゆる、夜会話。

 ロコナかアルディウス、どっちと個別で会話しますか、ってやつ。ロコナ王女は見回りに、アルディウスは薪の補充中。

 まあ前段のこともあるし、ライランの一番の心配はケロなんだよな。ひとりになりたくないんじゃなくて、ケロをひとりにしたくないのだ。ケロケロ。


 探せば、アルディウスはすぐに見つかる。いくらかの薪を手に、少し開けたところで空を見上げていた。


「アルディウスさん」

「ああ。どうした? カエル殿も連れて」

「ケロタニアンをひとりにすると心配だから……」


 あ、そこははっきり言うんだ……。

 アルディウスが笑う。と、俺はこっそりテンションが上がる。これ、今回の追加要素で。アルディウスって笑い方について細かく決められてて、このタイミングだと『愛想笑いしかしない』んだけど、これは違うんだよな。あれれぇ、俺アルディウス君の大ファンみたい。


「そうだな、それは確かに」

「でも、アルディウスさんも心配です。ロコナさんに言わないんですか?」

「なにをだ?」

「……アルディウスさんにも印があることです」


 そう、ロコナは知らない。だからあの答えだった。


「確かに、伝えておくべきだろうな。俺はそのうち正気を失って歌い出すとか、それどころか突然またあんたを斬りつけるかもしれない、ってことも」

「そうじゃありません! 今回助けるべき人に、アルディウスさんが入ってることをちゃんとロコナさんに伝えたいんです」


 ちなみに、アルディウスにつけさせていたケロのミトンは、ロコナ加入時に外しています。


「いまさら言われても、あの王女は気まずいだろう。あんたが言いたいなら好きにすればいい。俺からあんたを守ることにもなる」

「……そうじゃ、なくて……」


 ライランは言葉に詰まり、また探す。


「アルディウスさんは、こわくないんですか?」

「なにがだ?」


 通じていない様子に、ライランのほうが驚く。


「だって」

「ああ」


 思い出したようにアルディウスは首を振った。


「こわくはない。自分の意識が奪われるとしたら、それは困るが」


 どこでもないところを見る。


「どうして一緒にいけなかったのか、毎日考えるよ」


 アルディウスが、ライランの様子に気づいて向き直る。


「……それは、怒っている顔か?」

「……怒っては、いない顔です」

「じゃあどんな顔なんだ」


 ライランは答えない。アルディウスを睨みつけたまま、唇を噛んでいる。

 アルディウスはライランに片手を伸ばした。

 その手を見て、一瞬体をこわばらせても、ライランは逃げなかった。

 頬に届いても、動かずにアルディウスを見つめる。挑むように。

 

(アカツラさぁん! なんかケロより色っぽいシーンになってますけどいいんですかぁ!?)

 俺はホンドウをエリアからたたき出した。

 アクターの邪魔すんじゃねえ!

(ふふ、楽しいぞアカツラ。ライラン嬢は本当に気が強い)

 って、余裕でしたね。考えてみたら、ホンドウのくそ野次に調子を崩すような人じゃなかったわ。

 それにあの手は、そういう意味じゃない。

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