第4話:ダブル役満の成人式 〜パラレルじゃなかった件(仮)〜
「ここは織田家が勝手に自滅していくパラレル戦国時代だ!」
そう大確信してから、さらに数年。
十六歳になった俺は、ついに大人の仲間入りをする儀式『元服』の日を迎えていた。
大広間に響き渡る厳かな雅楽の中、俺はノリノリで烏帽子(大人の帽子)を頭にかぶせてもらう。
「今日からお前は、今川氏真を名乗るのじゃ!」
親父が威厳たっぷりに宣言する。
氏真。うじざね、ねぇ。
ちょっと変わった名前だけど、パラレル世界だしそんなモブみたいな名前はどうでもいい。
今日から俺が、正式な跡継ぎだ。
家中の俺の評判といえば、俺の蹴鞠の腕もさる事ながら、文学部卒の俺が前世に教養として覚えさせられたいた百人一首や、古今和歌集の和歌をちょっと諳んじるだけで、神童扱いだったから、すこぶる良いものだった。
このパラレル世界の今川の家は、親父もさる事ながら、親父の家臣達も優秀だから、めちゃくちゃ強いし、これで、一生安泰の超ホワイトなニート生活が約束された、まさに歓喜の瞬間である。
「氏真様、おめでとうございます!」
隣では、すっかり俺の後輩ポジションに収まった十二歳の竹千代くんが、無邪気な笑顔で祝ってくれていた。
相変わらず可愛い奴め。
お祝いムード一色のめでたい席。
だが、そこへ早馬の伝令がドカドカと飛び込んできて、空気は一変した。
「申し上げます! 尾張の織田信秀が病死いたしました!」
(お、敵のボスの信秀が死んだ? じゃあ織田家はこれで完全にオワコンだな!)
心の中で派手にガッツポーズをしようとした、その直後。
伝令はさらに大声を張り上げた。
「──跡を継ぎしは次男、織田信長にございます!!」
ドクン、と心臓が跳ね上がった。
(んっ?……のぶなが……!? 信長アアア!!? 嘘だろ、いたのかよ!!)
一瞬にして冷や汗が吹き出す。
脳内で、忘れていたはずの
『今川は織田信長に攻め滅ぼされる』
という、前世の歴史の教科書の文言が最悪の形でフラッシュバックした。
いや、待て待て待て。
落ち着け俺。
確かに信長って名前の奴は出てきた。
でも、まだパラレル世界の可能性はある。
そもそも俺は、この時代の歴史なんて常識程度しか知らない。
今川家が本来どれくらい強かったのかも知らない。
ただ、この七年間見てきたリアルタイムの現実として、うちの親父は家臣たちから
「天下無双の名将!」
と狂信されているし、現に織田家をボコボコにして領土を奪いまくっている。
対する織田家は、ボスの息子を捕虜にされるようなヘッポコだ。
(ってことは何だ?
信長って名前の奴は実在したけど……この世界の今川家、めちゃくちゃ強そうだし、あの織田信長相手でも楽勝で勝てるんじゃないの?)
そうだ。
ドラマとかだと信長は魔王みたいで怖かったけど、この圧倒的な戦力差なら、親父が普通に信長を返り討ちにして終わるパラレルハッピー天国かもしれない。
うん、絶対そうだ。
そうであってくれ!
「ハハハ、跡を継いだのは『うつけ(馬鹿)』と噂される次男坊ですか。
織田家もいよいよ終わりですな!」
じいやがいつも通りの脳天気な大笑いをしている。
「氏真様……?
どうかなされましたか? お顔が真っ白ですが……」
竹千代くんが、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「あ、いや、なんでもないよ……。
織田信長くん、ね。へーえ、う、うつけ者なんだ。
あはは、楽勝だよね、うん……」
引きつった笑顔を返す俺。
「今川なら楽勝!」
と自分に必死の言い訳をして安心しようとするものの、じわじわと押し寄せる
「もし本物の歴史だったらどうしよう」
というガチの恐怖。
こうして、半分安心、半分大パニックの俺の、生きた心地のしない「成人生活」が幕を開けるのだった。
(まさかその数年後、親父が『ちょっと尾張(信長)を潰してくるわ』と言って出陣し、二度と帰ってこなくなるとは、当時の俺はまだ知る由もなかった──)




