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『歴史を知らない現代人が今川氏真に転生したら、怖すぎて戦わずに生きていくだけで精一杯だった件 〜でも結果的に一番幸せな勝ち組になりました〜』  作者: 山原かいな
第二章:『臆病者の覚悟 〜誰も死なせないために出来た事〜』

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エピローグ:家族との日々〜辿り着いた光〜

 掛川の地を離れ、命からがら辿り着いたのは、相模(さがみ)国の小田原であった。

 そこは、戦国最強の一角であり、糸ちゃんの実父である北条氏康(ほうじょう うじやす)が治める巨大な本拠地だ。

 戦わずして本拠地を捨て、掛川城に半年も引きこもった末に降伏した俺である。

 冷徹な戦国大名の最高峰であるお義父上から「この腰抜けめ」と激しく罵倒される覚悟はしていた。

 だが、泥まみれで出頭した俺たちの姿を見るなり、凄まじい威厳を纏ったその巨躯が、俺の肩をガシッと力強く掴んできた。

「氏真、よくぞ……よくぞ我が娘を無傷で連れ戻してくれた!

  聞けば、駿府でのあの引き際の早さ、そして掛川城で半年も粘って武田信玄の鼻を明かした籠城の粘り……見事であるぞ!

 生きて一族の血を繋ぐことこそ、まことの英傑の仕業よ!」

「(……え? )」

 驚愕する俺をよそに、お義父上は豪快に笑った。

 世間の誰もが俺を

 「国を滅ぼした無能な臆病者」

と嘲笑う中、ただ一人、戦国の世を誰よりも知り尽くしたこの巨頭だけは、

「氏真は家臣も家族も死なせなかった名君だ」

と、俺の選択を心から大絶賛してくれたのだ。

 お義父上はすぐに、小田原城の近くに格式高い立派な邸宅を用意し、俺たちを丁重に迎えてくれた。

 その日の夜、我が家にある男がやってきて、静かに俺の前に平伏した。

 駿府から掛川まで、俺の引きこもり籠城に最後まで付き従ってくれた忠臣、朝比奈泰朝(あさひな やすとも)だ。

 お義父上から

「朝比奈ほどの猛卒なら、我が北条の直属の部下として召し抱えよう」

という破格の誘いがあったにもかかわらず、泰朝はそれを断り、俺の前に己の刀を置いた。

「お屋形様。

 北条様からは有り難きお言葉をいただきましたが、この泰朝が仕える主君は、生涯において今川氏真様、ただお一人にございます。

 武将としての役目はあの日終わりました。

 これからはお屋形様の『直参の護衛』として、そのお命をすぐ傍でお守りいたします」

「泰朝……。ありがとう。

 これからは、俺の直参として、よろしく頼む」

 国を失い、何もない俺に、生涯をかけて付き従うと言ってくれたガチの忠臣。

 その真っ直ぐな瞳に、胸の奥があたたかいもので満たされていく。

 こうして、お義父上の強力な庇護と、忠臣・泰朝の護衛のもと、俺と糸ちゃんと娘の本当の穏やかな日々が始まった。

 もう戦う必要も、誰かの裏切りに胃を痛める必要もない。

 毎日、庭で糸ちゃんや泰朝と一緒に微笑みながら鞠(サッカー)を蹴り、娘をあやし、お義父上が差し入れてくれる美味しいお菓子を皆で食べる、夢のような平和な日常。

 そして、小田原に身を寄せてから約一年が経った、暖かな春の日のことだった。

 邸宅の奥から、静寂を破るように、元気な赤ちゃんの産声が響き渡った。

 俺と糸ちゃんの間に、待望の長男が誕生したのだ。

 寝所に入り、白い産衣(うぶぎ)に包まれた小さな我が子を初めて腕に抱き上げた。

 その驚くほどの軽さと、生きようと脈打つ確かな温もりを感じた瞬間──俺の目から、堰を切ったようにじわりと涙が溢れ出してきた。

(ああ……俺が前世の記憶を頼りに、必死に逃げ回って、頭を下げて、泥をかぶって、引きこもり続けたのは……すべて、この瞬間のためだったんだな……)

 名誉なんてなくてもいい。国を滅ぼしたと笑われてもいい。

 三浦さんが命をかけて繋じてくれた蜘蛛の糸を必死に手繰り寄せ、家康くんが作ってくれた防波堤の裏で、糸ちゃんと娘の命を守り、そしてこの新しき命を無傷で乱世に誕生させることができた。

 それだけで、俺の歩んできた弱腰の道は、何よりも正しく、価値のあるものだったと確信できた。

「氏真様、本当に、あたたかいお方にございますね……」

 まだ息の荒い糸ちゃんが、布団の中から、世界で一番優しく美しい初恋の笑顔を俺に向けてくれる。

「お屋形様……よくぞ、今川の血を繋いでくださいました……っ!」

 後ろでは、直参の泰朝が、大広間でじいやが見せていたあの男泣きを遥かに超える、大粒の涙を流しながら我がことのようにボロ泣きして喜んでいた。

 生まれた長男の名は、範以(のりもち)。

 ーーこの小さな小さな命が、のちに遥か遠い未来、江戸の世にまで今川の血脈を堂々と繋ぎ、歴史の一番の勝ち組として語り継がれることになるのは、もう少し先のお話であるーー


 転生したここが、昔の日本なのか、パラレルワールドの日本なのかは分からないし、歴史オンチの俺には、歴史上の今川氏真が、本当はどんな奴で、どんな人生を送ったのかなんて事もさっぱり分からない。

 バカ殿と笑われていたのかもしれないし、本当はもっと凄い名将だったのかもしれない。

 だけど、そんなことはどうでもいい。

 俺は俺のやり方で、俺にできる限りのことを必死にやって、こうして世界で一番の幸せを掴み取ったんだからな。

 チート能力もなく、ただ戦うのが怖くて、自分の感覚のまま「命大事に」と必死に引きこもり続けただけの、平凡な男の転生劇。

 けれど、最愛の妻と娘、最高の忠臣、そして新しき命の温もりに包まれた俺の二度目の人生は──世界で一番幸せな勝ち組の光に満ち溢れていたのだった。


 ここで、とりあえず区切りです。   

 この話を書いてみようと思ったきっかけは、某歴史シュミレーションゲームで、よく能力マシマシの今川氏真でプレイしていたので、興味をもち、史実を調べて見ると、実は、蹴鞠、和歌、剣術、と個人としては文武両道のエリートのうえ、信長、家康、秀吉等に気に入られて家族とともに77歳まで生きているって知ったからです。 

 あの時代にそれだけ長生き出来たってのはかなり有能なはずなのに、何故か無能みたいな扱いなのを救済したかったってのもあります。

 最初はコメディ要素強めでしたけど、戦国というマジな時代のせいなのか最後の方は少し真面目な感じになってしまいましたね。

 史実考証はGeminiさん任せですので、もしかした違う部分もあるかもしれませんが、大目に見てやって下さい。

 

 第3部は10月27日の午前7時頃スタート、16時頃にもう1話投稿します。

 その後は月水金か火木土ぐらいで、1話づつ投稿予定です。

 それでは、小田原で平和に暮らすはずの氏真がこれからどうなるのか?乞うご期待!

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読んでいただきありがとうございました。






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